大通りから見えない陰のような場所に連れて行かれ、ホークスは口を開いた。


「俺はこれからもちょっと立て込んで、多分またしばらくあなたには会えません。だから今、今回の騒動について話しておきたいんで聞いてくれますか？」


もう嘘偽りなく話しますと真剣に伝えてくる様子に、私は頷くしかなかった。


「まず俺がやっていた今回の仕事というのが、潜入捜査でした」

「潜入……え、それって話していいの？」

「いけないんですけど、あなたには知ってもらいたい。内緒にしてくださいね」


しーっと口に指をあてるホークス。少し罪悪感を抱いた。
この前、仕事のことは守秘義務と言われ怒ってしまったから……。


「俺は上からの命令で、敵連合の荼毘に取り入るためにジーニストさんを殺した。正確には仮死状態にして死体として渡したんですけど、それで荼毘を騙せたことで超常解放戦線の中に潜り込みました」

「ヒーローって……そんなこともするの？」

「能力があればですかね。オールマイトやエンデヴァーさんみたいなのは潜入に向いてないです。俺はそういう教育を受けてきたので」


教育。
ホークスは特別なヒーローなのだろうか。触れてはいけないような気がした。
というか、この話されて……ホークスから離れようものなら消されるのでは？

気付いてはいけないことに気付いた気がして、身震いした。
ホークスはそんな私の心中を知ってか知らぬか話を続ける。


「超常解放戦線の中にハッカーみたいなやつがいまして、俺は超常解放戦線の思想に共鳴したふりをしてましたが……疑われるのは当然ですよね。ずっとそいつに監視されてまして、電話も盗聴されてるしで大変でした。奴らに取り入るために、迂闊なこと出来なくて……あなたに連絡出来なかった。既読スルーしたのはそのためです」


難儀な仕事をやっていたんだな。
でも多分ホークスのことだからそれを成功させて帰ってきたんだろう。
凄いなぁと考えていると、私の脳裏にあることが過った。


「……ん？　それって、もしかしてメッセージも監視されてた？」


そう問うと、ホークスは少し視線をそらした。


「あー、まぁ」


つまりそれって――


「荼毘が来たのって私自身が元凶じゃん！」


私がホークスに最初連絡したことで、そのハッカーとやらにバレたのではないか？
だってどう考えても親しげな内容だった。うん、元気？とか体調崩してない？とか送ってたし。

自業自得じゃん、と項垂れる私にホークスは
「いえ、俺が甘かっただけです」
と、はっきり口にした。


「あなたを離したくなくてメッセージもブロックせずに見てたのがいけないんです。返事返せないくせにメッセージ見て、数ヶ月耐えてましたから。事情も知らなかったあなたに落ち度はありません。……本当にすみませんでした」


頭を下げるホークスに私は、なんて言ったらいいか分からなかった。
ぶっちゃけ「事情知らなかったから、まぁそうだよなぁ」と納得してしまったから。
でも罪悪感。


「それから、分倍河原仁。俺が殺した敵のことですが、会見でも話した通りああしなければ日本中が大混乱になっていました」

「殺さないと危険だった？」

「奴の個性は、二倍。自分自身をほぼ際限なく増殖させることが出来る能力。更に増殖した個体は別の人間にもなれるし、そのなった人間の個性も使える。つまり敵連合の仲間個性も発動されたら、世界は崩壊する可能性もあった。……止めようとはしたんです」


悲しげに語るホークスは辛そうだった。
だから「しんどいなら話さなくても……」と言いかけると「いえ、大丈夫です。聞いてほしいです」と言われ、私は何も言えない。


「……分倍河原は、俺の説得にも応じなかった。相当なショックを与えてしまったんです。俺を良いやつだと信頼できると何度も言ってくれた。でも俺は裏切った。分倍河原は良いやつだったからこそ、罪を償ってほしかった。でも本当に信頼する仲間のために奴は俺を振り切って事を起こそうとした。荼毘の邪魔が入って思うように動けなくて、逃げられてしまうと思った俺は分倍河原を殺すこと決断しました」


奴は本当に良いやつだった、とホークスは呟いた。
後悔はしてないけど、悔しいという感情が心の中にあるんだと思った。

ホークスの両腕に優しく触れて、私はそっと撫でた。


「泣きたい時は泣いてもいいと思うよ。ヒーローだって人間だもの」

「っ……ありがとうございます。でも大丈夫です」


私が腕を離すと、ホークスは目頭を軽く抑えた。


「……それから俺の父親のことも話しておきます。俺の父親が敵だっていうのは本当です」


そこから、ホークスの生い立ちを詳しく話された。
壮絶なその人生は私の想像を超えていた。私は家族に恵まれて、今も普通に過ごしている。
ホークスの人生は私とは違いすぎて物語を聞いているようだった。


「完全に関わりを絶ったとは言え、父親の苗字である鷹見は俺の苗字でもある。調べたら出てくるから、あなたにもし知られて見捨てられるのが怖くて名前も生まれも言えませんでした」

「で、でもホークスが内緒にしてくれてたおかげで結果的に荼毘に殺されなかったから。知ってたら嘘ってバレて死んでたかも」

「結局、名前は母から荼毘にバレました。母との関わりも絶ったのに荼毘は母に辿り着いた。だからさっき七都子さんが自分のメッセージのせいで荼毘が来たって言ってましたけど、関係ないです。メッセージ送ってなくても多分荼毘はあなたに辿り着いてた。俺のせいです。七都子さんは悪くないです。危険に晒してしまったことすみません」


しんみりと語っているホークスは、私の調子を狂わせている気がした。
なんて声をかけたらいいか分からないけど、上手く言えるか分からないけど思ったことを素直に言おうと思った。



「あのね、私はホークスがヒーローとして活躍してきた姿を見てきたからそれを信じたいと思う。ホークスのお父さんが敵でも、ホークスは違うし。拾ってくれた公安の人が育てたんだから、私は別にホークスが敵になるとは思ってないよ。今回敵を殺しちゃったことも、今までのホークス見てたら何か事情があるんだろうなって思ったし。……それが聞けてよかった」


上手く言えないけど、って付け加えるとホークスが勢いよく抱き着いてきた。


「え？　え、何？」

「凄い愛らしか、と思って」

「えっ、あの……」


戸惑っていると、耳元で「好きです」と息を吐くように囁かれる。
くすぐったいと身を捩ったが、ホークスは離さなかった。


「もう一度聞きます。俺の事、嫌いになりましたか？」

「分かってるくせに……」

「あなたの口から聞きたいんです」

「……嫌いになってない。沢山ホークスの事を知ることができて、知らない事もしれて、むしろ好きな気持ちが増した……かな」

「キスしていいですか？」

「え！　何でそうなるの！？」


駄目ですか？と顔を近づけ、額をくっつけるホークスに駄目とは言えなかった。


「可愛らしかね」


優しい口付けを唇に落としたホークスはどこまでも私を沼に誘っているような気がした。
表現があれだけどもまさにそんな感じ。
私もチョロすぎるかもしれないけど、ホークスのペースに心地よさを感じていた。

何を考えているのか分からないのはやっぱりあるけど、今までとは違ってこれでもいいかなって思っている。


「もう行かないといけないので、雄英内までお送りします」


それからホークスが雄英バリアの入り口まで付き添ってくれた。
途中、ベストジーニストとすれ違ったがホークスとアイコンタクトを交わすと「車で待っている」と告げて去っていった。


「七都子さん、全部終わったら必ず迎えに行きますから。それまでここにいてください」

「信じていいの？」

「はい。必ず帰ってきます。その時は俺と九州に帰りましょう」


分かったと頷くとホークスは満足そうな表情を浮かべた。


「じゃ、俺は行きますから風邪とか引かないように気を付けて。あと変な男にも気を付けて」

「分かった分かった。行ってらっしゃいホークス」

「あと」


まだなんかあるのか。


「名前……。今更で何いってんだって思うかもしれないんですけど、俺の名前をちょっと呼んでみてほしいです」

「……それはちょっと慣れってものが」

「お願いします！　そしたら俺、なんか頑張れそうな気がするんです」


呼ぶまで手を離さないというように固く握られ、私は恥ずかしかったけどホークスの本名を小さく呼んだ。


「……ありがとうございます。じゃ俺本当に行ってきます」


手が離れ、ホークスが背を向ける。歩いて去っていく背中に縋りつきたい衝動に駆られたがグッと我慢をする。

それでもしばらく会えなくなると思うと、何か言いたくて


「行ってらっしゃい！」


と声を出した。
ホークスは振り返って私に手を振った。振り返すのを見ると、今度こそ雄英を出て行ったのだった。




――そこからヒーローとAFOの最終決戦が始まり、私はただただ信じて帰りを待つしかなかった。
全てが終わってホークスは約束通り迎えに来てくれたけど、個性が失われ象徴だった赤い羽根は完全になくなっていた。
その姿に、ああもうホークスと空を飛べないのかと少し残念な気持ちになった。
空から見る九州の街が好きだったから。

でも、ホークスは以前のように取り繕う感じはなくなりコロコロと新しい表情を見せるようになった。
それが何より嬉しかったし、私との関係を隠さなくなったことで堂々と一緒に地上を歩いて回れている。今まで出来なかったお洒落もして。

ホークスはヒーローとしては引退したもののヒーロー公安委員会の委員長に就任したらしく、本拠地を九州から関東に移動させることになった（九州民は寂しがった）。そしてそれに私もついて行くことを決めた。
職場に異動願いを出して関東本社へ無事異動になった私は、ホークスと同棲を始めた。
まぁなかなか忙しくてホークスは帰ってこないことも多いけど、毎日メッセージは来る。
それがあるから安心できた。


「……んで、三十分遅刻とはどういうこと？　ホークス」

「すみません。電車、乗り間違えました。今まで空ばっか飛んでたんで、交通機関というものに慣れなくて」

「……」

「すみません、言い訳ですよね。本当に遅れてしまい申し訳ありません！」


見事な４５度のお辞儀は公安委員長としての振る舞いの賜物か？
いや、前からか。


「まぁ別に、北海道から九州まで飛んできたあの日も似たようなもんだったし良いけど。二十分だったっけ」

「……よく覚えてますね」

「ビルの屋上で二十分、一人で待ってたので」

「その節はどうもすみませんでした」

「謙虚になったね。悪くないけど、自分悪くないみたいなホークスも恋しくなるなぁ」


私の指摘に以前のホークスならヘラヘラ笑って敵となこと言ってると思うが今は違う。


「俺そんな自己中でした！？」

「さっきまで北海道にいて、これでもぶっ飛ばしてきた方なんですけど。みたいな感じだったよね。二十分遅刻しといて」

「過去の俺をぶん殴りたい……」


でもこうやって色んなホークスが見れるからなかなかこれが面白い。
でもほどほどにしないと拗ねそうなので、ここらで止めておこう。


「別に怒ってないから大丈夫よ。あの頃のホークスは忙しい中、会ってくれるの分かってたし。今もこうやって遅れてでも時間取ってくれてるしね」

「七都子さん……好き。そして今日も可愛いです」

「私も好きよ。ありがとね。時間もあれだしそろそろデート行こう！」


ホークスの手を取ると私は引っ張った。
今はお互い割と素で話し合ってるような気もする。一線を引いたような恋人関係だった頃に比べて、はるかに悩みも減ったし幸せだと感じることも増えた。

これがこの先も続いたらいいなと私は願っている。






終わり
（下、あとがき
次のページ、おまけ）




●あとがき●

言い訳です。こんなつもりじゃなかったんです。
本当は、当初のアイデアでは

「楽観的なホークスの性格で細かいことは気にしない、例え別れようといってもわかりましたってあっけらかんとしてるかもと主人公は思っていた。（ホークスと付き合って数カ月）
秘密も多いし、ホークスってヒーロ名だから本名をといっても教えてくれない。捨てましたとか言われる始末。
ホークスに好かれているとは思えなかった。
↓
と思っていたら結局、クソデカ感情抱かれてて逆に執着されていることを最終的にしる。
別れるなんて断固拒否！嫌！みたいな。」

っていう話だったんです！
なのに、なぜどうしてこんな重い話になったんだ……。
長々とダラダラと続けてしまって、本当に。長い！無理！となった方いましたら本当に申し訳ない。
そもそも無理ってなった方はここまで読んでないと思いますけども。
自己満足夢小説なんで許して……。

あ、ちなみに主人公。最後の方もホークスとよんでますが、実は使い分けてる設定です。
啓悟って呼ぶ時もあります。ホークスはそれを聞くとめちゃくちゃ機嫌よくなります（笑）
でも普段の呼び方はホークスです。


一応次のページはおまけです。