不良少女と教師
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2.名前を知る男
小さい頃から、父と母は喧嘩ばかりだった。
一人っ子の私は、兄弟姉妹とその辛さを分けることも出来ずただじっと耐えるしかなかった。
肉体的暴力はない。学校にも行けた。
だけど、家族の愛はなかった。家族なのに、同居人と言った方がしっくりくる。過去は思い出したくない。
中学の時に、不良グループの先輩に近付いたことがきっかけだった。
学校の外にいる先輩たちの仲間とも知り合って、私はだんだん家に寄りつかなくなった。
やがて義務教育が終わると、一応高校には進学させてもらったけど正直あまり行っていない。高校になってから家に帰ることが更に減った。
それでも毎日、この町で仲間や友達と生きている。誰も帰れなんて言わない。
けど、そんなある日。その男は現れた。
夜、一人で歩いていると突然名前を呼ばれた。振り向けば、そこには見たこともない若い男。私らが生きる世界とは違うような雰囲気を纏っていた。
だから最初、今は“まとも”になった昔の仲間かと思った。それしか私に声をかける人はいないだろう。
だけど、何度考えても分からない。やっぱり見知らぬ人だ。
「は? 誰?」
聞いてみるが、答えない。じっと私を見る男に、まさかナンパかと思い立ち率直に聞いてみた。
すると、男は少し何かを考え
「あ、いや、悪い」
と言葉を漸く発した。
「違うの? だったら行くよ?」
私の名前を知っていたし、正直怪しい上に怖い。
これはさっさと離れた方が良いと思って、その場を後にしようと歩いた。
だけど、しばらく行ったところで
「おい、待て!」
と急に大声を出される。
ちょっとビックリして、同時にイラッとした。
「……何? まだ何かあるの?」
振り返って聞けば、男は瞬時に私が高校生であることを指摘した。
そして「こんな時間に歩くんじゃねぇ」と説教をしたのだ。
……は?
何なのこの人。いきなり話しかけてきて説教とか、妙な正義感に溢れた面倒な人?
凄く不愉快になった。
「アンタには関係ないでしょ」
「……どこの高校だ?」
「何? 本当に。不審者?」
思わず聞いた。
「俺は薄桜高校の教師だ」
は!?
「……先生なの? 嘘でしょ!?」
「嘘じゃねぇよ。ほら、教員証もあるぜ」
そう言って出されたカードみたいなの。近付いて見てみると、確かに教員証と書いてある。
改めて男の顔を見ると、教師は見えない。じゃあなんなのかと聞かれたらホストだ。チャラくない落ち着いたホスト。
「とにかく家に帰ることだな」
非行を指導する教師か。
他校とは言え、やっかいな人と出会ってしまった。
どうあしらおうか考えていると、
「おい、分かったか?」
と私の顔を覗き込んできた。
その瞬間、中学の時の担任を思い出した。あいつもよく私を家に連れ戻そうとした。
どんなに家が嫌だと言っても、理由を言っても「どんなことがあっても帰るべきだ」と一点張りだった。
どうせ家に帰っても誰もいないだろうし、どこにいても一緒じゃん。
その中学の担任と、目の前のこの赤毛の教師が重なって見えた。
「……何も知らないくせに」
いらいらが募って、つい不機嫌な態度を取る。小さい声で呟いたせいか、聞き取れなかったみたいだ。
聞き返されたが、私の中で“何で、今初めて会ったばかりの人に言われなくちゃいけないのか”という不快な思いが広がった。
「他校の先生には関係ない!」
気付けばそう叫んで、私は走り出していた。
「あ、おい!」
もう二度と会うことはないだろうし、もう放っておいてよ!
――……‥‥
「七海、どうしたの?」
その後、向かったたまり場。
でもさっきの出来事が忘れられず考え込んでいると、仲間に心配された。
見ると、その子だけじゃなく他の子もこちらを見ている。私は重い口を開いた。
「……変な教師に会った」
「何、七海の学校の先生?」
「違う」
詳しく話すように求められ、私はさっきの出来事を説明した。
「そいつヤバいじゃん」
まぁ妥当な意見だよね。
「本当に教師?」
「危ないやつかもよ?」
次々に意見してくる仲間に、私は答える。
「教員証? 何か、教師の証みたいなの持ってたし」
「偽造かもしれないじゃん」
一理ある。
「夜出歩いてるうちらみたいなのを襲う不審者だったかもじゃん」
「そうそう、逃げて正解だったよ」
「そうだね……。でも、もう会うこともないでしょ」
「でも名前知ってたんでしょ? キモっ」
確かに何で知ってたんだろう?
友達がストーカーだのなんだの言っている。もしストーカーだったら、また会うかもしれない。
その時であった。
「坂本七海だな」
数人の男女が私たちの前に現れた。
「誰?」
「俺たちの仲間、お前のせいで全治一か月なんだけど」
全治一か月?
ここ最近の行動を思い返して見る。
うーん
「……どいつ?」
誰のことか分からん。
「ふざけんな!」
「ふざけてない。いっぱいいすぎて分からないだけだし」
「てめぇ……!」
私の仲間も立ち上がる。
グループ同士の殴り合いの喧嘩は、この世界じゃしょっちゅうだ。男女関係ない。
何度も顔を合わせる宿敵でない限り、一々覚えているわけがない。それは同じ世界にいるこいつらも分かっているだろうに。
――地獄絵図とまではいかないかもしれないが、見る人が見たら通報するレベルだと思う。
「お前ら、私たちに勝とうなんて浅はかだよ」
「そうそう特に七海には絶対勝てない。怪我したくなかったらもう二度と来ないことだね」
結論から言えば、私たちが勝った。
私は無傷だが仲間の何人かがちょっと怪我をした。
遠くからパトカーの音が聞こえる。
誰かが通報したのかもしれない。
横たわる喧嘩を吹っかけてきた奴らを無視し、仲間と急いでその場を後にした。
恨みのこもった目で見つめられているとは知らずに――。
名前を知る男 END
小さい頃から、父と母は喧嘩ばかりだった。
一人っ子の私は、兄弟姉妹とその辛さを分けることも出来ずただじっと耐えるしかなかった。
肉体的暴力はない。学校にも行けた。
だけど、家族の愛はなかった。家族なのに、同居人と言った方がしっくりくる。過去は思い出したくない。
中学の時に、不良グループの先輩に近付いたことがきっかけだった。
学校の外にいる先輩たちの仲間とも知り合って、私はだんだん家に寄りつかなくなった。
やがて義務教育が終わると、一応高校には進学させてもらったけど正直あまり行っていない。高校になってから家に帰ることが更に減った。
それでも毎日、この町で仲間や友達と生きている。誰も帰れなんて言わない。
けど、そんなある日。その男は現れた。
夜、一人で歩いていると突然名前を呼ばれた。振り向けば、そこには見たこともない若い男。私らが生きる世界とは違うような雰囲気を纏っていた。
だから最初、今は“まとも”になった昔の仲間かと思った。それしか私に声をかける人はいないだろう。
だけど、何度考えても分からない。やっぱり見知らぬ人だ。
「は? 誰?」
聞いてみるが、答えない。じっと私を見る男に、まさかナンパかと思い立ち率直に聞いてみた。
すると、男は少し何かを考え
「あ、いや、悪い」
と言葉を漸く発した。
「違うの? だったら行くよ?」
私の名前を知っていたし、正直怪しい上に怖い。
これはさっさと離れた方が良いと思って、その場を後にしようと歩いた。
だけど、しばらく行ったところで
「おい、待て!」
と急に大声を出される。
ちょっとビックリして、同時にイラッとした。
「……何? まだ何かあるの?」
振り返って聞けば、男は瞬時に私が高校生であることを指摘した。
そして「こんな時間に歩くんじゃねぇ」と説教をしたのだ。
……は?
何なのこの人。いきなり話しかけてきて説教とか、妙な正義感に溢れた面倒な人?
凄く不愉快になった。
「アンタには関係ないでしょ」
「……どこの高校だ?」
「何? 本当に。不審者?」
思わず聞いた。
「俺は薄桜高校の教師だ」
は!?
「……先生なの? 嘘でしょ!?」
「嘘じゃねぇよ。ほら、教員証もあるぜ」
そう言って出されたカードみたいなの。近付いて見てみると、確かに教員証と書いてある。
改めて男の顔を見ると、教師は見えない。じゃあなんなのかと聞かれたらホストだ。チャラくない落ち着いたホスト。
「とにかく家に帰ることだな」
非行を指導する教師か。
他校とは言え、やっかいな人と出会ってしまった。
どうあしらおうか考えていると、
「おい、分かったか?」
と私の顔を覗き込んできた。
その瞬間、中学の時の担任を思い出した。あいつもよく私を家に連れ戻そうとした。
どんなに家が嫌だと言っても、理由を言っても「どんなことがあっても帰るべきだ」と一点張りだった。
どうせ家に帰っても誰もいないだろうし、どこにいても一緒じゃん。
その中学の担任と、目の前のこの赤毛の教師が重なって見えた。
「……何も知らないくせに」
いらいらが募って、つい不機嫌な態度を取る。小さい声で呟いたせいか、聞き取れなかったみたいだ。
聞き返されたが、私の中で“何で、今初めて会ったばかりの人に言われなくちゃいけないのか”という不快な思いが広がった。
「他校の先生には関係ない!」
気付けばそう叫んで、私は走り出していた。
「あ、おい!」
もう二度と会うことはないだろうし、もう放っておいてよ!
――……‥‥
「七海、どうしたの?」
その後、向かったたまり場。
でもさっきの出来事が忘れられず考え込んでいると、仲間に心配された。
見ると、その子だけじゃなく他の子もこちらを見ている。私は重い口を開いた。
「……変な教師に会った」
「何、七海の学校の先生?」
「違う」
詳しく話すように求められ、私はさっきの出来事を説明した。
「そいつヤバいじゃん」
まぁ妥当な意見だよね。
「本当に教師?」
「危ないやつかもよ?」
次々に意見してくる仲間に、私は答える。
「教員証? 何か、教師の証みたいなの持ってたし」
「偽造かもしれないじゃん」
一理ある。
「夜出歩いてるうちらみたいなのを襲う不審者だったかもじゃん」
「そうそう、逃げて正解だったよ」
「そうだね……。でも、もう会うこともないでしょ」
「でも名前知ってたんでしょ? キモっ」
確かに何で知ってたんだろう?
友達がストーカーだのなんだの言っている。もしストーカーだったら、また会うかもしれない。
その時であった。
「坂本七海だな」
数人の男女が私たちの前に現れた。
「誰?」
「俺たちの仲間、お前のせいで全治一か月なんだけど」
全治一か月?
ここ最近の行動を思い返して見る。
うーん
「……どいつ?」
誰のことか分からん。
「ふざけんな!」
「ふざけてない。いっぱいいすぎて分からないだけだし」
「てめぇ……!」
私の仲間も立ち上がる。
グループ同士の殴り合いの喧嘩は、この世界じゃしょっちゅうだ。男女関係ない。
何度も顔を合わせる宿敵でない限り、一々覚えているわけがない。それは同じ世界にいるこいつらも分かっているだろうに。
――地獄絵図とまではいかないかもしれないが、見る人が見たら通報するレベルだと思う。
「お前ら、私たちに勝とうなんて浅はかだよ」
「そうそう特に七海には絶対勝てない。怪我したくなかったらもう二度と来ないことだね」
結論から言えば、私たちが勝った。
私は無傷だが仲間の何人かがちょっと怪我をした。
遠くからパトカーの音が聞こえる。
誰かが通報したのかもしれない。
横たわる喧嘩を吹っかけてきた奴らを無視し、仲間と急いでその場を後にした。
恨みのこもった目で見つめられているとは知らずに――。
名前を知る男 END
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