1.前世の女
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思わず名を呼んだ。
振り向いた女の顔は間違いなく、前世の恋人の七海だった。
俺が今の人生でも出会った、前世の仲間のほとんどは記憶がある。もしかしたらこいつも――と期待を持った。
だが、それは一瞬で崩れ去る。
「は? 誰?」
よくよく見てみると、かなり不良だ。金髪とまではいかなかったが、髪を明るく染めて化粧もバリバリ。いや、元が良いせいか綺麗なのだ。美人なのだ。
こいつが学生服を着ていなけりゃな。
「お兄さん、まさかナンパ?」
雰囲気は違うが、顔は間違いなく七海だ。名前も恐らく同じ。さっき名前呼んでしまった時に反応を示したからな。
だが、この様子からこいつには記憶がない。……となると、だ。
今の俺は完全に危ないやつじゃねぇか?
「あ、いや、悪い」
「違うの? だったら行くよ?」
去ろうとするそいつをそのまま見送りそうになった。
――本当にこのままでいいのか?
――ずっと会いたかったんじゃないのか?
そんな葛藤が俺の中で繰り広げられた。
だが、ふとハッと気付いた。
「おい、待て!」
気付いたことで俺は迷わず止めた。
「……何? まだ何かあるの?」
「お前、見たところまだ高校生……だよな。こんな時間に歩くんじゃねぇ」
そう指摘すると、そいつは一瞬で眉間に皺が寄った。
「アンタには関係ないでしょ」
「(うちの生徒じゃねぇよな)……どこの高校だ?」
「何? 本当に。不審者?」
あー……そういや、まだ言ってなかったな。
不審者と思われてもしょうがない。
「俺は薄桜高校の教師だ」
「……先生なの? 嘘でしょ!?」
「嘘じゃねぇよ。ほら、教員証もあるぜ」
一応教師である証を見せる。
すると、小さく「本当だ」と呟いたのが聞こえた。
「とにかく家に帰ることだな」
うちの生徒じゃないから、帰る事しか促せねぇ。
が、返事はない。
「おい、分かったか?」
「…………ないくせに」
「ん?」
「他校の先生には関係ない!」
「あ、おい!」
声を荒げ、そのまま走り去ったので止めることが出来なかった。
人ごみに紛れ、見失う。
「……」
やっと会えたと思ったのにな。
そりゃ記憶がないのが普通だ。俺たちが奇跡の集まり。分かっていたことなのに、いざそういうのが現実になるとショック受けるもんだな。
しかも荒れてる。昔の俺と同じだ。
更に相手は高校生。例え覚えていたとしても、その壁は大きい。
――それから十二時を回って、薄桜高校教員のグループLINEに土方さんからメッセージが送られた。
十二時を回ったからそのまま帰って良いという旨だ。報告は明日と指示を受けた。
翌日、俺は出勤すると共に土方さんの許へ報告に向かった。
「おはよう、土方さん」
「原田か、早いな」
「昨日の報告があるから早い方が良いと思ったんだが……駄目だったか?」
何かを読んでいた土方さんは、それをデスクに置いて座り直した。
「いや、そんなことねぇよ。むしろ助かる。……新八のやつも見習ってくれりゃ良いんだけどな」
「新八がそんなことした時には大雪でも降るぜ」
「それもそうだな」
互いに笑った。
俺だけじゃなく、土方さんの脳内でも新八が怒っているだろう。
「んで、昨日の報告だったな。どうだった」
「あぁ」
昨日のメモを二枚出し、一枚を土方さんに渡す。十時過ぎてから非行に走っていた名前と学年リストだ。
「こんなにいたのか!?」
「ゲーセンは格好のたむろ場所だったぜ。けど、話を聞くとよ結構可哀相なんだよな」
「どういうことだ?」
俺は手元のメモに目を落とす。
メモは生徒の話を書いたものだ。
「ゲーセンで遊んでた奴の多くは、普段真面目な生徒だ。塾が終わって遊んでたらしんだが、親が厳しくて普段遊べないんだとよ」
「確かに、成績も悪くねぇし問題も起こさねぇやつが多いな……」
「塾の後に少しだけ遊んで帰るのが楽しみなんだとよ」
昨晩、俺が声かけると同時に謝って来たやつが多かった。本当はあの時間にいてはいけないことだと分かっていたようだ。
「同情して見逃さなかっただろうな? お前はそういう情に弱いだろ」
「見逃さねぇよ。今の俺は教師だからな。……とりあえず生徒を外に出して話聞いてたんだけどよ、ゲーセンの店員がどんどん高校生を店から追い出してたんだよな」
「まぁ、十時以降は高校生駄目だからな。まさか、そいつら皆うちの生徒だったのか?」
「いや、流石に皆じゃなかったぜ。けど、うちの制服着た奴や私服だけど顔に見覚えのある奴は全員止めて話聞いた」
「私服の奴もいたのか」
土方さんは驚いて手元の紙を見つめた。
「明らかに塾に行ってない奴の名前があるだろ? そいつら大半がそうだ。話聞いたら呆れたぜ。……十時以降、高校生は出歩くの駄目ってことを知らなかったんだとよ」
「そりゃ言い訳にならねぇな。俺が何度も全校朝会とかで言ってる。まぁいい。そこらへんは生徒指導にみっちり話を聞いてもらう」
「あぁ。そうしてくれ。……土方さんの方はどうだったんだ?」
確か土方さんの担当場所はホテル街だったはずだ。
まぁそんなとこに高校生がいるのは時間関係なく問題だが。
「俺のとこは幸い誰もいなかったぜ。うちの生徒はな」
「ってことは他校の生徒はいたのか?」
「制服着てなかったから分からねぇが、あれは多分高校生だ。援助交際かなんか知らねぇが、中年オヤジとホテルに入って行きやがった」
「声かけなかったのか?」
「高校生かどうか確かじゃねぇのに、あんな場所で声かけれるわけねぇだろ。それこそ俺が不審者だ。それに俺は自分の学校の生徒を指導する立場であの場にいたわけで、警察でもねぇのに声かけるかよ」
「土方さんって意外とそういうとこあるよな……」
「関わらねぇでも良い面倒なことには関わらねぇことだな」
「他校の生徒と言えば昨日――」
七海の顔が浮かんだ。
それを土方さんに言おうと思ったんだが、途中で迷いが生まれた。
「……どうした?」
「あ、いや……」
土方さんには前世の記憶がある。七海のことも勿論知っているが、肝心の七海に記憶がない。
言ったところで「そうか」としか言えないだろう。
次会える保証もない。もう二度と会えないかもしれない。
俺は迷った挙句
「やっぱ何でもねぇ」
と話を終わらせた。
土方さんは気にはなっているようだったが、何も追及しなかった。
前世の女 END
振り向いた女の顔は間違いなく、前世の恋人の七海だった。
俺が今の人生でも出会った、前世の仲間のほとんどは記憶がある。もしかしたらこいつも――と期待を持った。
だが、それは一瞬で崩れ去る。
「は? 誰?」
よくよく見てみると、かなり不良だ。金髪とまではいかなかったが、髪を明るく染めて化粧もバリバリ。いや、元が良いせいか綺麗なのだ。美人なのだ。
こいつが学生服を着ていなけりゃな。
「お兄さん、まさかナンパ?」
雰囲気は違うが、顔は間違いなく七海だ。名前も恐らく同じ。さっき名前呼んでしまった時に反応を示したからな。
だが、この様子からこいつには記憶がない。……となると、だ。
今の俺は完全に危ないやつじゃねぇか?
「あ、いや、悪い」
「違うの? だったら行くよ?」
去ろうとするそいつをそのまま見送りそうになった。
――本当にこのままでいいのか?
――ずっと会いたかったんじゃないのか?
そんな葛藤が俺の中で繰り広げられた。
だが、ふとハッと気付いた。
「おい、待て!」
気付いたことで俺は迷わず止めた。
「……何? まだ何かあるの?」
「お前、見たところまだ高校生……だよな。こんな時間に歩くんじゃねぇ」
そう指摘すると、そいつは一瞬で眉間に皺が寄った。
「アンタには関係ないでしょ」
「(うちの生徒じゃねぇよな)……どこの高校だ?」
「何? 本当に。不審者?」
あー……そういや、まだ言ってなかったな。
不審者と思われてもしょうがない。
「俺は薄桜高校の教師だ」
「……先生なの? 嘘でしょ!?」
「嘘じゃねぇよ。ほら、教員証もあるぜ」
一応教師である証を見せる。
すると、小さく「本当だ」と呟いたのが聞こえた。
「とにかく家に帰ることだな」
うちの生徒じゃないから、帰る事しか促せねぇ。
が、返事はない。
「おい、分かったか?」
「…………ないくせに」
「ん?」
「他校の先生には関係ない!」
「あ、おい!」
声を荒げ、そのまま走り去ったので止めることが出来なかった。
人ごみに紛れ、見失う。
「……」
やっと会えたと思ったのにな。
そりゃ記憶がないのが普通だ。俺たちが奇跡の集まり。分かっていたことなのに、いざそういうのが現実になるとショック受けるもんだな。
しかも荒れてる。昔の俺と同じだ。
更に相手は高校生。例え覚えていたとしても、その壁は大きい。
――それから十二時を回って、薄桜高校教員のグループLINEに土方さんからメッセージが送られた。
十二時を回ったからそのまま帰って良いという旨だ。報告は明日と指示を受けた。
翌日、俺は出勤すると共に土方さんの許へ報告に向かった。
「おはよう、土方さん」
「原田か、早いな」
「昨日の報告があるから早い方が良いと思ったんだが……駄目だったか?」
何かを読んでいた土方さんは、それをデスクに置いて座り直した。
「いや、そんなことねぇよ。むしろ助かる。……新八のやつも見習ってくれりゃ良いんだけどな」
「新八がそんなことした時には大雪でも降るぜ」
「それもそうだな」
互いに笑った。
俺だけじゃなく、土方さんの脳内でも新八が怒っているだろう。
「んで、昨日の報告だったな。どうだった」
「あぁ」
昨日のメモを二枚出し、一枚を土方さんに渡す。十時過ぎてから非行に走っていた名前と学年リストだ。
「こんなにいたのか!?」
「ゲーセンは格好のたむろ場所だったぜ。けど、話を聞くとよ結構可哀相なんだよな」
「どういうことだ?」
俺は手元のメモに目を落とす。
メモは生徒の話を書いたものだ。
「ゲーセンで遊んでた奴の多くは、普段真面目な生徒だ。塾が終わって遊んでたらしんだが、親が厳しくて普段遊べないんだとよ」
「確かに、成績も悪くねぇし問題も起こさねぇやつが多いな……」
「塾の後に少しだけ遊んで帰るのが楽しみなんだとよ」
昨晩、俺が声かけると同時に謝って来たやつが多かった。本当はあの時間にいてはいけないことだと分かっていたようだ。
「同情して見逃さなかっただろうな? お前はそういう情に弱いだろ」
「見逃さねぇよ。今の俺は教師だからな。……とりあえず生徒を外に出して話聞いてたんだけどよ、ゲーセンの店員がどんどん高校生を店から追い出してたんだよな」
「まぁ、十時以降は高校生駄目だからな。まさか、そいつら皆うちの生徒だったのか?」
「いや、流石に皆じゃなかったぜ。けど、うちの制服着た奴や私服だけど顔に見覚えのある奴は全員止めて話聞いた」
「私服の奴もいたのか」
土方さんは驚いて手元の紙を見つめた。
「明らかに塾に行ってない奴の名前があるだろ? そいつら大半がそうだ。話聞いたら呆れたぜ。……十時以降、高校生は出歩くの駄目ってことを知らなかったんだとよ」
「そりゃ言い訳にならねぇな。俺が何度も全校朝会とかで言ってる。まぁいい。そこらへんは生徒指導にみっちり話を聞いてもらう」
「あぁ。そうしてくれ。……土方さんの方はどうだったんだ?」
確か土方さんの担当場所はホテル街だったはずだ。
まぁそんなとこに高校生がいるのは時間関係なく問題だが。
「俺のとこは幸い誰もいなかったぜ。うちの生徒はな」
「ってことは他校の生徒はいたのか?」
「制服着てなかったから分からねぇが、あれは多分高校生だ。援助交際かなんか知らねぇが、中年オヤジとホテルに入って行きやがった」
「声かけなかったのか?」
「高校生かどうか確かじゃねぇのに、あんな場所で声かけれるわけねぇだろ。それこそ俺が不審者だ。それに俺は自分の学校の生徒を指導する立場であの場にいたわけで、警察でもねぇのに声かけるかよ」
「土方さんって意外とそういうとこあるよな……」
「関わらねぇでも良い面倒なことには関わらねぇことだな」
「他校の生徒と言えば昨日――」
七海の顔が浮かんだ。
それを土方さんに言おうと思ったんだが、途中で迷いが生まれた。
「……どうした?」
「あ、いや……」
土方さんには前世の記憶がある。七海のことも勿論知っているが、肝心の七海に記憶がない。
言ったところで「そうか」としか言えないだろう。
次会える保証もない。もう二度と会えないかもしれない。
俺は迷った挙句
「やっぱ何でもねぇ」
と話を終わらせた。
土方さんは気にはなっているようだったが、何も追及しなかった。
前世の女 END