1.前世の女
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――そんなことを考えながらも、学校にはどうにか間に合った。
職員室に入ると、時刻は職員会議三分前。
急いで自分のデスクにつくと、隣から声をかけられる。
「おはよーさん。左之がギリギリなんて珍しいな!」
永倉新八。こいつも俺と同じで前世で新選組隊士だった。
今世でも俺の親友で、名前も顔も一緒だ。
……というか、新八だけじゃないんだよな。この学校には前世での深い関わりがあった人物がわんさかいやがる。
そして、そのほとんどが俺と同じで記憶を持っている。もはやマスコミに知れたらテレビ出演とか頼まれそうな勢いだ。
「ちょっと寝坊してな」
「寝坊? 左之でも寝坊するんだな」
まさか前世の夢を見てて寝坊したなんて恥ずかしくて言えねぇ。
七海との仲を知らないわけじゃないが、俺だけが前世に囚われ続けている気がしてならないんだ。
だから、前世の夢を見ていることには未だに誰にも言ったことがない。
「俺だって人間だしな」
「そうか、左之だって寝坊はするもんな! 俺が寝坊してもしょうがない!」
「お前はしょっちゅう寝坊してるじゃねぇか。俺は寝坊しても間に合ってる」
「ぐっ……それは……くそっ、反論出来ねぇ!」
前世でこいつとは人生の道が分かれた。(新八だけじゃないが)
新選組の終わりが近づいた時、親友のこいつと七海と三人で離隊し同じ道を行こうとした。
だけど、しばらくして俺と七海は二人でこいつから離れた。
それから年を取って死ぬまで二度と会うことはなかった。
今、現代でこうしてまた一緒にバカやれるってつくづく良いなって思うんだよな。
平和なこの時代、命の危険もあまりないから今度こそ死ぬまで親友として顔を合わせたいと心から思うんだ。
「よし、朝礼始めるぞ」
職員室中に響き渡った声。
それを聞いて、俺たち教師は一斉に椅子から立ち上がり声の主の方を向く。
「皆、おはよう。今日は大事な知らせがある」
この学校の教頭兼国語教師でもある土方歳三。
そう、土方さんも俺や新八と同じ。
記憶もきちんとあるらしく、鬼の副長だったあの頃の経験を生かして教頭まで登りつめた人だ。
「最近、うちの生徒が夜に街をうろついていると目撃情報を得た。そこで見回りをすることになった」
……おいおい、そりゃつまり――
「マジかよ、時間外労働か!?」
新八が声をあげた。
他の教師たちもざわつく。
「……今のところはな」
「今のところ?」
「校長が理事長に掛け合ってくれることになった。許可がおりれば給料は出る」
「理事長って芹沢さんじゃねぇか……こりゃ期待出来ねぇな」
「ま、だからって非行に走る生徒を放っておくわけにはいかねぇだろ?」
呟くように言った新八に俺が声をかける。
「分かってる、それくらいは」
新八は見るからに落ち込んでいたが、その気持ちはここにいるやつら全員が持っていることだ。
「いいか、今日の夜九時半にココに集合だ。十時に目撃があった場所周辺に着くように出る。遅れるなよ」
すると新八が突然
「でもよ、土方さん。十時までバイトや塾に行ってるやつは十時過ぎに外にいるじゃねぇか。目撃されたのはそいつらじゃねぇのか!?」
と期待を含んだ声色で聞いた。
こいつどんだけ行きたくないんだよ……。
「それは話を聞いてからだ。生徒を見かけたら、理由をまず聞け。バイトや塾のやつにはさっさと帰るように言うだけだ。それに、目撃があったのは日付を回る直前らしい」
「……マジかよ」
「非行と思われる奴は指導、名前と学年もメモしてくれ。明日、生徒指導室に呼び出す」
もはや覆ることのない決定事項だ。
新八の軽い舌打ちが聞こえた。
「お前、行きたくないだけだろ」
「だってよ、競馬が……」
「またそれかよ。お前も教師なら諦めろ」
俺の言葉に新八は項垂れた。
「詳しくはまた夜に話す。各先生方、宜しく頼む」
土方さんのその言葉で朝礼は終わった。
――……‥‥
土方さんに新八がやる気ないのが伝わっていたらしく、俺に新八を連れてくるように頼んできたのは朝礼の後だった。
二つ返事をした俺は、学校が終わると同時に新八を飯に誘った。新八はこっそり家に帰って寝てしまってこれなかった、とか普通にやりそうだったからな。
その分、飯時に「行きたくねぇ~」って何度聞かされたことか……。
しかし、何とか九時半に職員室に連れて行くことに成功した。
最後までやる気のなかった新八だったが、土方さんのビックニュースである「理事長の許可が出て給料も出ることになった」を聞くと途端に意気揚々とし出して、俺は少し腹が立った。
でも、その給料に上乗せされる額が割と良かったので職員皆がやる気を出した。
十時に全員で街に行くと、地図を渡されそれぞれの担当場所が決まっていた。
俺はゲーセンが密集している場所に配属された。
案の定、うちの生徒が複数ゲーセンで遊んでいやがった。
俺は一人一人話を聞いて、メモをとっていった。それから帰るように指導して、を繰り返していたらあっという間に十一時四十五分。
事前の説明で十二時で見回り終了予定と知っていたので、あと十五分だ。
「意外と多かったな……」
時計から顔をあげたその時だった。
「っ!?」
目の前を通ったその女の横顔は、俺が何度も夢に見たあいつに驚くほど似ていた。
「七海……」
職員室に入ると、時刻は職員会議三分前。
急いで自分のデスクにつくと、隣から声をかけられる。
「おはよーさん。左之がギリギリなんて珍しいな!」
永倉新八。こいつも俺と同じで前世で新選組隊士だった。
今世でも俺の親友で、名前も顔も一緒だ。
……というか、新八だけじゃないんだよな。この学校には前世での深い関わりがあった人物がわんさかいやがる。
そして、そのほとんどが俺と同じで記憶を持っている。もはやマスコミに知れたらテレビ出演とか頼まれそうな勢いだ。
「ちょっと寝坊してな」
「寝坊? 左之でも寝坊するんだな」
まさか前世の夢を見てて寝坊したなんて恥ずかしくて言えねぇ。
七海との仲を知らないわけじゃないが、俺だけが前世に囚われ続けている気がしてならないんだ。
だから、前世の夢を見ていることには未だに誰にも言ったことがない。
「俺だって人間だしな」
「そうか、左之だって寝坊はするもんな! 俺が寝坊してもしょうがない!」
「お前はしょっちゅう寝坊してるじゃねぇか。俺は寝坊しても間に合ってる」
「ぐっ……それは……くそっ、反論出来ねぇ!」
前世でこいつとは人生の道が分かれた。(新八だけじゃないが)
新選組の終わりが近づいた時、親友のこいつと七海と三人で離隊し同じ道を行こうとした。
だけど、しばらくして俺と七海は二人でこいつから離れた。
それから年を取って死ぬまで二度と会うことはなかった。
今、現代でこうしてまた一緒にバカやれるってつくづく良いなって思うんだよな。
平和なこの時代、命の危険もあまりないから今度こそ死ぬまで親友として顔を合わせたいと心から思うんだ。
「よし、朝礼始めるぞ」
職員室中に響き渡った声。
それを聞いて、俺たち教師は一斉に椅子から立ち上がり声の主の方を向く。
「皆、おはよう。今日は大事な知らせがある」
この学校の教頭兼国語教師でもある土方歳三。
そう、土方さんも俺や新八と同じ。
記憶もきちんとあるらしく、鬼の副長だったあの頃の経験を生かして教頭まで登りつめた人だ。
「最近、うちの生徒が夜に街をうろついていると目撃情報を得た。そこで見回りをすることになった」
……おいおい、そりゃつまり――
「マジかよ、時間外労働か!?」
新八が声をあげた。
他の教師たちもざわつく。
「……今のところはな」
「今のところ?」
「校長が理事長に掛け合ってくれることになった。許可がおりれば給料は出る」
「理事長って芹沢さんじゃねぇか……こりゃ期待出来ねぇな」
「ま、だからって非行に走る生徒を放っておくわけにはいかねぇだろ?」
呟くように言った新八に俺が声をかける。
「分かってる、それくらいは」
新八は見るからに落ち込んでいたが、その気持ちはここにいるやつら全員が持っていることだ。
「いいか、今日の夜九時半にココに集合だ。十時に目撃があった場所周辺に着くように出る。遅れるなよ」
すると新八が突然
「でもよ、土方さん。十時までバイトや塾に行ってるやつは十時過ぎに外にいるじゃねぇか。目撃されたのはそいつらじゃねぇのか!?」
と期待を含んだ声色で聞いた。
こいつどんだけ行きたくないんだよ……。
「それは話を聞いてからだ。生徒を見かけたら、理由をまず聞け。バイトや塾のやつにはさっさと帰るように言うだけだ。それに、目撃があったのは日付を回る直前らしい」
「……マジかよ」
「非行と思われる奴は指導、名前と学年もメモしてくれ。明日、生徒指導室に呼び出す」
もはや覆ることのない決定事項だ。
新八の軽い舌打ちが聞こえた。
「お前、行きたくないだけだろ」
「だってよ、競馬が……」
「またそれかよ。お前も教師なら諦めろ」
俺の言葉に新八は項垂れた。
「詳しくはまた夜に話す。各先生方、宜しく頼む」
土方さんのその言葉で朝礼は終わった。
――……‥‥
土方さんに新八がやる気ないのが伝わっていたらしく、俺に新八を連れてくるように頼んできたのは朝礼の後だった。
二つ返事をした俺は、学校が終わると同時に新八を飯に誘った。新八はこっそり家に帰って寝てしまってこれなかった、とか普通にやりそうだったからな。
その分、飯時に「行きたくねぇ~」って何度聞かされたことか……。
しかし、何とか九時半に職員室に連れて行くことに成功した。
最後までやる気のなかった新八だったが、土方さんのビックニュースである「理事長の許可が出て給料も出ることになった」を聞くと途端に意気揚々とし出して、俺は少し腹が立った。
でも、その給料に上乗せされる額が割と良かったので職員皆がやる気を出した。
十時に全員で街に行くと、地図を渡されそれぞれの担当場所が決まっていた。
俺はゲーセンが密集している場所に配属された。
案の定、うちの生徒が複数ゲーセンで遊んでいやがった。
俺は一人一人話を聞いて、メモをとっていった。それから帰るように指導して、を繰り返していたらあっという間に十一時四十五分。
事前の説明で十二時で見回り終了予定と知っていたので、あと十五分だ。
「意外と多かったな……」
時計から顔をあげたその時だった。
「っ!?」
目の前を通ったその女の横顔は、俺が何度も夢に見たあいつに驚くほど似ていた。
「七海……」