1.前世の女
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1.前世の女
「本当、きなこもち好きだよな」
隣に座る彼女は、きなこもちを幸せそうに口へと運んだ。
俺はその様子を見てとても愛しいと思った。
「うん、一番好き! もうね、絶対前世から好きだった!」
「ははっ、そんだけ好きなら来世も好きだな」
「もちろん!」
彼女の笑顔が向けられた時、何とも言えない高揚感と幸せな気持ちが俺を満たした。
――あ、俺は今 目を瞑っている。
そう自覚した時、今のは夢だったのだと残念に思った。
いや、夢とは少し違う。夢なのだけど、俺の記憶でもある。
「……待て、今何時だ」
はっとして勢いよく起き上がると時計の方に視線をやる。
「やべっ! 寝坊した!」
七時半を示していた時計に青ざめ、慌てて布団から出る。
教師の俺は学校へ行かなければならない。八時半にHRが始まるが、その前に軽い職員の朝礼がある。
あと一時間もないのだ。
慌てている割に、俺の心は今朝の夢でいっぱいだった。
単刀直入に言うと俺には前世の記憶ってやつがあるらしい。
――時代は幕末。歴史的にも有名な新選組にいた原田左之助。俺はそいつの記憶を持っている。何の偶然か、同じ名前と同じ容姿に生まれこれまで生きて来た。
しかし生まれた時から前世の記憶があったわけではない。
ただガキの頃からそういう夢は見ていたんだ。
着物を着て刀差して、日本の大昔の建築物が立ち並ぶ場所を歩く。
年を重ねるごとにその夢は鮮明になっていき……俺がいるのは新選組であると自覚した。
それら夢に、何度も同じ顔が出てきたがただ一人だけ群を抜いて登場してきている人物がいた。
そいつは女で、いつも俺に寄り添ってくれる存在だった。
そしてガキの頃から、夢の中に出てくるその女に俺は惚れていたんだ。
記憶が戻る直前まで、俺は荒れていた。悪い仲間がいた。一緒に街で喧嘩もした。世間で言う不良ってやつだ。
だけど、その荒れていた時期でも夢にその女が出てきて、俺の心は癒された。その夢の女だけが俺の癒しだった。
いっそ、夢の中で生きたいとさえ願っていた。
そんなある日、たまたま目にした新選組特集の番組。それを見ていると急に記憶が蘇ったのだ。
本当に急に。そういえば忘れてた、と突然思い出す感覚と一緒だ。
……俺がガキの頃から見ていた夢が、俺の前世であると確信した。
そして、あの夢の女が七海という名前で前世の俺の恋人であることも思い出した。
「本当、きなこもち好きだよな」
隣に座る彼女は、きなこもちを幸せそうに口へと運んだ。
俺はその様子を見てとても愛しいと思った。
「うん、一番好き! もうね、絶対前世から好きだった!」
「ははっ、そんだけ好きなら来世も好きだな」
「もちろん!」
彼女の笑顔が向けられた時、何とも言えない高揚感と幸せな気持ちが俺を満たした。
――あ、俺は今 目を瞑っている。
そう自覚した時、今のは夢だったのだと残念に思った。
いや、夢とは少し違う。夢なのだけど、俺の記憶でもある。
「……待て、今何時だ」
はっとして勢いよく起き上がると時計の方に視線をやる。
「やべっ! 寝坊した!」
七時半を示していた時計に青ざめ、慌てて布団から出る。
教師の俺は学校へ行かなければならない。八時半にHRが始まるが、その前に軽い職員の朝礼がある。
あと一時間もないのだ。
慌てている割に、俺の心は今朝の夢でいっぱいだった。
単刀直入に言うと俺には前世の記憶ってやつがあるらしい。
――時代は幕末。歴史的にも有名な新選組にいた原田左之助。俺はそいつの記憶を持っている。何の偶然か、同じ名前と同じ容姿に生まれこれまで生きて来た。
しかし生まれた時から前世の記憶があったわけではない。
ただガキの頃からそういう夢は見ていたんだ。
着物を着て刀差して、日本の大昔の建築物が立ち並ぶ場所を歩く。
年を重ねるごとにその夢は鮮明になっていき……俺がいるのは新選組であると自覚した。
それら夢に、何度も同じ顔が出てきたがただ一人だけ群を抜いて登場してきている人物がいた。
そいつは女で、いつも俺に寄り添ってくれる存在だった。
そしてガキの頃から、夢の中に出てくるその女に俺は惚れていたんだ。
記憶が戻る直前まで、俺は荒れていた。悪い仲間がいた。一緒に街で喧嘩もした。世間で言う不良ってやつだ。
だけど、その荒れていた時期でも夢にその女が出てきて、俺の心は癒された。その夢の女だけが俺の癒しだった。
いっそ、夢の中で生きたいとさえ願っていた。
そんなある日、たまたま目にした新選組特集の番組。それを見ていると急に記憶が蘇ったのだ。
本当に急に。そういえば忘れてた、と突然思い出す感覚と一緒だ。
……俺がガキの頃から見ていた夢が、俺の前世であると確信した。
そして、あの夢の女が七海という名前で前世の俺の恋人であることも思い出した。
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