こころ〜家族になる〜
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7.帰る場所
「そ、総司!?」
「部屋にいなさいと言ったじゃない」
千夏は飛び出していった総司を追いかけた。一階に下りた総司はそのまま何の躊躇いもなくリビングに入っていく。
入口からこっそり覗く。総司は父と母と対面して座っている祖父母に近付いていき、静かに呟いた。
「出て行け」
その声は怒りを含んでいて、子供とは思えない迫力に祖父母はたじろいだ。
「出て行け!」
総司はテーブルの上にあったみかんを祖父母に投げつけた。
「総司!」
近藤が名を呼ぶが、聞いていないようで部屋にあったあらゆる物を投げつけていく。
ティッシュ箱にテレビのリモコン、新聞紙――。
出て行けと叫びながら投げる総司に、こっそり見ていた千夏は息を呑む。
今までそんなに感情を顕わにした兄を見たことがなかったからだ。
そして、総司がガラスの灰皿(誰も煙草を吸わないので飴入れになっているもの)を手にした時、近藤がその細い手首を掴んだ。
「止めるんだ総司!」
「離してください!」
「離すものか! それを投げつけたらお前は一生後悔する」
灰皿は鈍器。殴れば人をも殺せる道具。
子供の総司にそこまでの力はないだろうが、さっきまで投げていたものよりも遥かに危険になりうる道具である。
灰皿を持った時、怯えたような表情をした総司の祖父母を横目に、近藤はその手から灰皿を取った。
すると総司はキッと彼らを睨み付けて言った。
「出て行け」
「総司……!」
近藤が止めろと言わんばかりに肩に手を置く。しかし総司の口は止まらない。
「僕の家族はこの人たちだけだ……! こんなに愛されたことはなかった。いつも何があっても、本当の子供のように接してくれた。妹も本当の兄のように思ってくれている」
「!」
初めて総司の口から聞く思い。まさかそういう風に感じてくれているなんて思いもしなかった近藤夫妻は、総司を止めることも忘れて胸が熱くなるのを感じていた。
かつて人を避けて、迷惑だと口にしていた総司の姿が思い出された。
「僕は今、幸せなんだ!」
その言葉につねが目に涙を浮かべた。
近藤もしみじみと感じているらしく、目が潤んでいた。
「僕はこの人たちと離れない……! だから、二度と来るな! お前たちなんか他人だ!」
総司はそう叫ぶと今まで我慢していたのか、声は出さないものの泣き出した。
近藤はそんな総司を思いっきり抱きしめた。
「分かったから、落ち着きなさい」
「でも、僕は……!」
「大丈夫だ。うん。……総司、ありがとう」
それから、気まずそうな総司の祖父母に向き直り頭を下げた。
「帰って下さい」
一言、そう告げた。
場の雰囲気に耐えられなくなったのか、祖父母は立ち上がった。
「分かりましたわ。まさかこんな可愛くない凶暴な孫になってるとは思いもしなかったから、良いですわ」
顔を顰める近藤達。しかしここは我慢すべきだと唇を噛みしめた。
「そうだな。でもまだ子供だから、言わされているんだよ。可哀相に」
「そうなの? うん、そうよね。全く、人の孫を洗脳するなんてとんでもない家族ね」
独り言のように呟いた祖母は
「じゃあ、また来ますわ」
と言って、祖父と共に帰って行った。
その際、リビング入口にいた千夏をチラッと見て怪訝そうな顔をした。
「総司、もう大丈夫だ。よく頑張ったな」
「何があっても、私たちは貴方の味方よ」
両親の優しい声が聞こえ、千夏もリビングに入って総司に抱き着く。
「お兄ちゃああん! 大好きだよぉお」
「千夏、鼻水汚い。そして泣き過ぎ」
「お兄ちゃんも泣いてるからおあいこだもん!」
総司は自分を抱きしめて泣く家族に、生きていることを実感した。そして胸が温かくなるのを感じた。
そっと目を閉じて、両腕を家族の背中に回したのであった。
「そ、総司!?」
「部屋にいなさいと言ったじゃない」
千夏は飛び出していった総司を追いかけた。一階に下りた総司はそのまま何の躊躇いもなくリビングに入っていく。
入口からこっそり覗く。総司は父と母と対面して座っている祖父母に近付いていき、静かに呟いた。
「出て行け」
その声は怒りを含んでいて、子供とは思えない迫力に祖父母はたじろいだ。
「出て行け!」
総司はテーブルの上にあったみかんを祖父母に投げつけた。
「総司!」
近藤が名を呼ぶが、聞いていないようで部屋にあったあらゆる物を投げつけていく。
ティッシュ箱にテレビのリモコン、新聞紙――。
出て行けと叫びながら投げる総司に、こっそり見ていた千夏は息を呑む。
今までそんなに感情を顕わにした兄を見たことがなかったからだ。
そして、総司がガラスの灰皿(誰も煙草を吸わないので飴入れになっているもの)を手にした時、近藤がその細い手首を掴んだ。
「止めるんだ総司!」
「離してください!」
「離すものか! それを投げつけたらお前は一生後悔する」
灰皿は鈍器。殴れば人をも殺せる道具。
子供の総司にそこまでの力はないだろうが、さっきまで投げていたものよりも遥かに危険になりうる道具である。
灰皿を持った時、怯えたような表情をした総司の祖父母を横目に、近藤はその手から灰皿を取った。
すると総司はキッと彼らを睨み付けて言った。
「出て行け」
「総司……!」
近藤が止めろと言わんばかりに肩に手を置く。しかし総司の口は止まらない。
「僕の家族はこの人たちだけだ……! こんなに愛されたことはなかった。いつも何があっても、本当の子供のように接してくれた。妹も本当の兄のように思ってくれている」
「!」
初めて総司の口から聞く思い。まさかそういう風に感じてくれているなんて思いもしなかった近藤夫妻は、総司を止めることも忘れて胸が熱くなるのを感じていた。
かつて人を避けて、迷惑だと口にしていた総司の姿が思い出された。
「僕は今、幸せなんだ!」
その言葉につねが目に涙を浮かべた。
近藤もしみじみと感じているらしく、目が潤んでいた。
「僕はこの人たちと離れない……! だから、二度と来るな! お前たちなんか他人だ!」
総司はそう叫ぶと今まで我慢していたのか、声は出さないものの泣き出した。
近藤はそんな総司を思いっきり抱きしめた。
「分かったから、落ち着きなさい」
「でも、僕は……!」
「大丈夫だ。うん。……総司、ありがとう」
それから、気まずそうな総司の祖父母に向き直り頭を下げた。
「帰って下さい」
一言、そう告げた。
場の雰囲気に耐えられなくなったのか、祖父母は立ち上がった。
「分かりましたわ。まさかこんな可愛くない凶暴な孫になってるとは思いもしなかったから、良いですわ」
顔を顰める近藤達。しかしここは我慢すべきだと唇を噛みしめた。
「そうだな。でもまだ子供だから、言わされているんだよ。可哀相に」
「そうなの? うん、そうよね。全く、人の孫を洗脳するなんてとんでもない家族ね」
独り言のように呟いた祖母は
「じゃあ、また来ますわ」
と言って、祖父と共に帰って行った。
その際、リビング入口にいた千夏をチラッと見て怪訝そうな顔をした。
「総司、もう大丈夫だ。よく頑張ったな」
「何があっても、私たちは貴方の味方よ」
両親の優しい声が聞こえ、千夏もリビングに入って総司に抱き着く。
「お兄ちゃああん! 大好きだよぉお」
「千夏、鼻水汚い。そして泣き過ぎ」
「お兄ちゃんも泣いてるからおあいこだもん!」
総司は自分を抱きしめて泣く家族に、生きていることを実感した。そして胸が温かくなるのを感じた。
そっと目を閉じて、両腕を家族の背中に回したのであった。