こころ〜家族になる〜
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3.初めて見せた涙
総司が近藤家から学校に通い始めて数日が経った。
案の定というべきか。総司はクラスメイトともまともに話さず、孤立していた。
最初は誰もが近寄って来たが、無愛想な態度と敵を見るかのような目のせいで皆が距離を置いてしまったのである。
そのため学校から帰ってきても遊びに行かず、部屋で一人遊んでいた。
一方、千夏は学校から帰ってきて友達と遊びに出掛ける。しかし、友達と遊び終えて家に帰ると真っ先に総司の部屋へと行くのが日課になっていた。
「お兄ちゃん! ただいま! 今日ね――」
勝手に押しかけて勝手に喋る。千夏は毎日これを繰り返していた。
総司はそれに対しやはり無反応。それはいつものことなので、この日も千夏は同じようにした。
「体育の授業で褒められたんだよ! 足が速いねって。お兄ちゃんは運動得意?」
「……」
「私、運動は得意だけど勉強がちょっと駄目なの。あ、でも国語はちょっと出来るよ!」
そこまではいつものことだった。
しかし総司はこの日、千夏の一方的な喋りに対して初めて口を開いた。
「あのさ」
「でね――え?」
まともに目が合うのは初めてだった。一瞬ドキッとしたが、千夏はすぐに笑顔になった。
初めて自分に反応してくれた。それがとても嬉しかったのである。
が、総司は顔色一つ変えず言い放った。
「うざいんだけど。いい加減にしれてくれない?」
「えー?」
「本当に迷惑。聞いてもいないのに喋ってさ……一日に何があったなんてどうでもいいから」
「……」
「分かったなら出て行って」
再び自分の作業に取り掛かる総司を千夏は見つめた。
それは絶望ではなく、キラキラした目だ。
「……何?」
一向に出て行かない千夏に再び視線を向ける。
「やっと反応してくれた! ねぇ、お兄ちゃんの話も聞かせて!――わっ!」
近付く千夏に総司はついに手を出した。
手を出したといっても、押し返しただけ。
千夏が尻餅をついて見上げる。総司はそれを怒りの目で見降ろした。
「いい加減にしてよって言うのが分からないの? 馬鹿だよね、お前。本当にうざい!」
と、そのまま総司は飛び出していった。
「あ、待って!」
千夏は全く動じず。部屋を出て、階段を降りたであろう総司の後を追った。
どうやら家を飛び出したようで、玄関の戸が閉まる様子を目に捕らえた。
千夏も急いで靴を履いて玄関を出る。
つねがリビングにいたが、物音がしたことを不審に思い玄関を覗いた時にはもう扉が閉まった後だった。
「気のせい……?」
――……‥‥
「待って、お兄ちゃん!」
千夏の視線の先には走る総司。
必死に速度を上げるが、総司も足が速かった。
そして、総司が丁字路に差し掛かった時だ。
ぶー、と巨大な音が辺りに響く。
「お兄ちゃん!」
叫ぶ千夏の視界には、後ろにこける総司の姿。
――総司の目の前を中型トラックが走り抜けたのである。
そう、とにかく走るのに夢中で総司は車に轢かれかけたのだった。
呆然とする総司に千夏は駆けより腕を掴んだ。
「お兄ちゃん危ないよ!!」
ぐいぐいと千夏はそのまま家に総司を引っ張って帰った。
「お母さん!」
玄関の開く音と同時に、泣いているように聞こえた娘の声につねは慌てて向かった。
「どうしたの!?」
そこには、ぼろぼろ涙を流す千夏と後ろに相変わらず無表情の総司。
つねは二人に駆け寄り、千夏の目線に合わせるようにしゃがんでその小さな両腕を優しく掴む。
「何があったの!?」
千夏は泣いていることで上手くしゃべれない。それでも一生懸命伝えた。
流石は母親というべきか。千夏の言っていることを理解した瞬間、えっと声をあげた。
そして、総司に向かって真偽を確かめる。
「……」
「総司! 何とか言って!」
「……本当のことだけど。っていうか、何で泣くの。車にぶつかりそうになったの僕なんだけど。意味わからない」
ぶっきらぼうに口にした瞬間、総司の頬に痛みが走った。
「!」
一瞬、何が起こったのか分からなかった。
しかし自分の頬に感じるジンジンとくる痛み。視界にはつねの手。
叩かれたのだと認識した瞬間、つねの手が伸びて来た。思わず目を瞑った総司だったが、引き寄せられる感覚。
抱きしめられていた。
――なんで?
そう問いかけようとしたが言葉が出なかった。目を見開いた総司の耳に聴こえたのは
「良かった……無事でっ……」
つねの泣きそうな呟く声だったのだ。
すると、千夏も
「お兄ちゃん、よかった!」
と横から抱き着いて来る。
泣きながら抱きしめてくれる、義理の母と妹。それは総司にとって初めての経験だった。今まで誰かにこんなに心配されたことがあっただろうか?
――この日、総司は初めて泣いた。
3.初めて見せた涙 END
★おまけ★
三人の涙もおさまった頃、つねは総司に言った。
「何か言うことあるでしょ?」
目を逸らさないつねと、千夏の視線に挟まれ総司は急に恥ずかしくなった。
しばらくの間、無言だったが意を決して口を開く。
「……ごめんなさい」
「千夏にも謝りなさい。心配してくれたのに、あんなこと言うんじゃありません」
そして総司は千夏に向き直る。
「ごめん……」
素直に謝った総司に、つねはにっこりと笑う。
「さ、家の中に入りましょ。もうすぐお父さんも帰って来るわよ」
「行こ、お兄ちゃん!」
手を引っ張る千夏に、総司はそっと握り返した。
おまけ終わり。
総司が近藤家から学校に通い始めて数日が経った。
案の定というべきか。総司はクラスメイトともまともに話さず、孤立していた。
最初は誰もが近寄って来たが、無愛想な態度と敵を見るかのような目のせいで皆が距離を置いてしまったのである。
そのため学校から帰ってきても遊びに行かず、部屋で一人遊んでいた。
一方、千夏は学校から帰ってきて友達と遊びに出掛ける。しかし、友達と遊び終えて家に帰ると真っ先に総司の部屋へと行くのが日課になっていた。
「お兄ちゃん! ただいま! 今日ね――」
勝手に押しかけて勝手に喋る。千夏は毎日これを繰り返していた。
総司はそれに対しやはり無反応。それはいつものことなので、この日も千夏は同じようにした。
「体育の授業で褒められたんだよ! 足が速いねって。お兄ちゃんは運動得意?」
「……」
「私、運動は得意だけど勉強がちょっと駄目なの。あ、でも国語はちょっと出来るよ!」
そこまではいつものことだった。
しかし総司はこの日、千夏の一方的な喋りに対して初めて口を開いた。
「あのさ」
「でね――え?」
まともに目が合うのは初めてだった。一瞬ドキッとしたが、千夏はすぐに笑顔になった。
初めて自分に反応してくれた。それがとても嬉しかったのである。
が、総司は顔色一つ変えず言い放った。
「うざいんだけど。いい加減にしれてくれない?」
「えー?」
「本当に迷惑。聞いてもいないのに喋ってさ……一日に何があったなんてどうでもいいから」
「……」
「分かったなら出て行って」
再び自分の作業に取り掛かる総司を千夏は見つめた。
それは絶望ではなく、キラキラした目だ。
「……何?」
一向に出て行かない千夏に再び視線を向ける。
「やっと反応してくれた! ねぇ、お兄ちゃんの話も聞かせて!――わっ!」
近付く千夏に総司はついに手を出した。
手を出したといっても、押し返しただけ。
千夏が尻餅をついて見上げる。総司はそれを怒りの目で見降ろした。
「いい加減にしてよって言うのが分からないの? 馬鹿だよね、お前。本当にうざい!」
と、そのまま総司は飛び出していった。
「あ、待って!」
千夏は全く動じず。部屋を出て、階段を降りたであろう総司の後を追った。
どうやら家を飛び出したようで、玄関の戸が閉まる様子を目に捕らえた。
千夏も急いで靴を履いて玄関を出る。
つねがリビングにいたが、物音がしたことを不審に思い玄関を覗いた時にはもう扉が閉まった後だった。
「気のせい……?」
――……‥‥
「待って、お兄ちゃん!」
千夏の視線の先には走る総司。
必死に速度を上げるが、総司も足が速かった。
そして、総司が丁字路に差し掛かった時だ。
ぶー、と巨大な音が辺りに響く。
「お兄ちゃん!」
叫ぶ千夏の視界には、後ろにこける総司の姿。
――総司の目の前を中型トラックが走り抜けたのである。
そう、とにかく走るのに夢中で総司は車に轢かれかけたのだった。
呆然とする総司に千夏は駆けより腕を掴んだ。
「お兄ちゃん危ないよ!!」
ぐいぐいと千夏はそのまま家に総司を引っ張って帰った。
「お母さん!」
玄関の開く音と同時に、泣いているように聞こえた娘の声につねは慌てて向かった。
「どうしたの!?」
そこには、ぼろぼろ涙を流す千夏と後ろに相変わらず無表情の総司。
つねは二人に駆け寄り、千夏の目線に合わせるようにしゃがんでその小さな両腕を優しく掴む。
「何があったの!?」
千夏は泣いていることで上手くしゃべれない。それでも一生懸命伝えた。
流石は母親というべきか。千夏の言っていることを理解した瞬間、えっと声をあげた。
そして、総司に向かって真偽を確かめる。
「……」
「総司! 何とか言って!」
「……本当のことだけど。っていうか、何で泣くの。車にぶつかりそうになったの僕なんだけど。意味わからない」
ぶっきらぼうに口にした瞬間、総司の頬に痛みが走った。
「!」
一瞬、何が起こったのか分からなかった。
しかし自分の頬に感じるジンジンとくる痛み。視界にはつねの手。
叩かれたのだと認識した瞬間、つねの手が伸びて来た。思わず目を瞑った総司だったが、引き寄せられる感覚。
抱きしめられていた。
――なんで?
そう問いかけようとしたが言葉が出なかった。目を見開いた総司の耳に聴こえたのは
「良かった……無事でっ……」
つねの泣きそうな呟く声だったのだ。
すると、千夏も
「お兄ちゃん、よかった!」
と横から抱き着いて来る。
泣きながら抱きしめてくれる、義理の母と妹。それは総司にとって初めての経験だった。今まで誰かにこんなに心配されたことがあっただろうか?
――この日、総司は初めて泣いた。
3.初めて見せた涙 END
★おまけ★
三人の涙もおさまった頃、つねは総司に言った。
「何か言うことあるでしょ?」
目を逸らさないつねと、千夏の視線に挟まれ総司は急に恥ずかしくなった。
しばらくの間、無言だったが意を決して口を開く。
「……ごめんなさい」
「千夏にも謝りなさい。心配してくれたのに、あんなこと言うんじゃありません」
そして総司は千夏に向き直る。
「ごめん……」
素直に謝った総司に、つねはにっこりと笑う。
「さ、家の中に入りましょ。もうすぐお父さんも帰って来るわよ」
「行こ、お兄ちゃん!」
手を引っ張る千夏に、総司はそっと握り返した。
おまけ終わり。