こころ〜家族になる〜
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2.心の闇
「ねぇ、遊ぼうよー」
「……」
「ねぇってばー」
総司が近藤家に来て数日。
千夏は総司に与えられた部屋に押しかけ、毎日遊ぼうと話しかけていた。
しかし総司は全く相手にせず。一人ブロックや積み木で遊んだり絵を描いたり。まるで千夏がいないかのように遊んでいる。
しかし千夏はそんなことを気にせず、遊ぶ総司の後ろに座って話しかけていた。
「何作っているの?……何それ、犬?」
「……」
「うーん……あのね、今日学校で友達がお兄ちゃんも学校に来られたらいいねって話してたー」
話題を変えるも、総司は無反応のままだった。
それでも千夏は話し続ける。
「次の月曜日からお兄ちゃんも学校に行けるから楽しみだね!」
「……」
「んーとね、あとは――」
千夏が更に続けようとした時だった。
「これこれ、そんなに色んな話をしてはどう反応していいか分からないじゃないか」
「あ、お父さん!」
近藤が部屋に入って来たのである。
気付けば外は暗くなり、時間は午後七時を回っていた。
「それにしても千夏、いつから此処にいるんだ?」
「んー……夕方? 学校終わって、友達と遊んで帰ってから!」
「二、三時間はいるのか。総司、すまんなぁ。この子はお喋りでな」
許してやってくれ、と言う近藤だが総司は相変わらず無視。
「……さ、二人ともご飯だから下に行こう」
「分かった! お兄ちゃん行こう!」
近藤と手を繋いで廊下に出る。千夏が手招きすると、総司は立ち上がり近寄ってくる。
冷めたような目つきは合うことすらない。
千夏は手を差し出すが、目もくれず横を通り抜けた。
近藤はその様子を見て、溜め息を一つ吐いた。総司がどうしたら心を開いてくれるか、考えているがどうにも上手くいかない。近藤も普段から話しかけているが、まともな会話は成り立たず。
漸く手続きが終わり、来週から新しい学校に通うと言うのにコミュニケーションが取れず孤立するのだけは避けたかった。いじめのきっかけにもなりかねない。
近藤は、それまでに少しでも総司の心を開きたかった。
「お父さん?」
「ん? あぁ、下に行こうか」
考え込んでしまい、立ち止まっていた。近藤は千夏の手を引き階段を下りた。
――……‥‥
「美味しいー!」
大好きな唐揚げを食べて、表情豊かな千夏とは裏腹に総司は一口二口食べただけで箸を置いた。
すぐにつねが
「もしかして唐揚げ嫌いだった……?」
と尋ねても、答えない。あまり話さないので好きなものも嫌いなものも分からない。
どうしたものかと思っていると、千夏がテーブルの真ん中にある大皿から唐揚げを一つ取り、総司に差し出した。
「食べようよ! 美味しいよ?」
ぐいぐいと押し付ける千夏。
「ちょ、千夏、そこまでしなくても……」
「止めなさい、千夏」
流石にやりすぎであると思った近藤夫妻。娘を制止したが遅く。
黙っていた総司も、それには怒った。無言で千夏の手を払い睨み付けた。
これには千夏もショックを受けるかと思いきや――
「やっとこっち見てくれたー!」
花を飛ばす勢いで喜んだ。
総司はそれを見て眉間に皺を寄せる。そして椅子からおりた。
「もう食べないの?」
そのままリビングから出ようとする総司に、すかさずつねが声をかけた。
すると総司は振り返り口を開いた。
「家族なんかいらない」
その言葉に息を呑んだ。
「僕のこと可哀相だとか思ってる? 皆、そう言うけどそういうのいらない」
九歳の表情ではなかった。恐ろしく絶望したような瞳に、近藤は顔を歪めた。それは恐怖の歪みではない。
総司が歩んできたたった九年間の人生。その短い時間で何を感じ生きたのか。心の奥底に溜め込んでいるもの。それを色々想像したが想像が出来ず、分かってやれない苦しさからだった。
「でも……」
「皆して鬱陶しいんですよ。同情とかそういうのいらない」
総司はリビングを抜け二階へと上がって行った。
大量に残っているご飯を見つめ、つねは肩を落とす。
「そんなに落ち込むことはないさ。総司はまだ慣れないだけで、きっと慣れたら食べてくれる。何たって母さんのご飯は美味しいからなぁ! な、千夏!」
「んー? おりひいおー」
「千夏……口にいっぱいいれすぎだぞ……。さ、つね。食べよう。きっと食べてくれる」
つねの肩に手を置いて、近藤は慰める。
しかしつねは首をゆっくりと横に振った。
「違うの、私が心配しているのはあの子があんまり食べないから……毎日あの調子だし、倒れてしまうんじゃないかしら。成長期なのに体が小さいし」
そう、総司は同年代の子よりも体が小さかった。施設にいた時から食べる量は他の子より少なかったが、ここにきてもっと食べなくなっていた。
「そうだなぁ……うむ、持っていこう。家族団欒も大切なことだが、今は健康が重要だ。一人なら総司も食べてくれるかもしれない」
近藤は立ち上がると、食器棚から皿や盆を取り出した。そして、テーブルの上の唐揚げと添えの野菜を別皿に移す。
そして、総司の茶碗や箸や茶が入ったコップを盆に乗せて持ち、総司の部屋に向かった。
――しばらくして、二階から下りてきた近藤は「机の上に置いて来た」と報告をする。
案の定、総司は無反応だったらしい。終始ベッドに横になり、背を向けていたとか。
「食べてくれると良いんだが……」
「そうね。あの子の好きなものが分かればいいんだけど、桜田さん何か言ってたっけ?」
「いや、子供たちに好かれる桜田さんも総司だけは難しいと言っていたからなぁ。あの様子じゃ、知らないんじゃないか? 一応、今度聞いてみようか」
「ええ。私は、色んな物作ってみるわ。もし大好物だったらもう少し食べてくれるかもしれない」
会話を続ける両親を余所に、千夏は幸せそうにご飯を食べていた。
2.心の闇 END
★おまけ★
――夜中、つねはこっそり総司の部屋を覗いた。近藤が持って来た食器を回収するためである。
ちゃんと寝る時は電気を消す総司。起こさないように静かに入る。
机の上に置かれた食器を見て、つねは微笑んだ。
全部食べているわけではなかったが、明らかに量が減っている。
少しでも食べてくれた。それが嬉しかった。
(けど……)
つねが見たのは野菜。キャベツの千切りとトマトが今日の野菜だった。
(見事にキャベツ残ってるわね。そしてトマトも確か二つ入れてたけど、一つ残ってる……)
まじまじと見つめていると、つねはあることに気が付く。
(そういえば、勇さん……野菜に何もかけてなかった……。ということは、これ味がない……?)
寝ている総司の背中を見つめる。そして視線をまた戻すと、はぁと息を吐いた。
(嫌いなのか、味がないから食べなかったのか分からない……)
今度は好き嫌いが分かる野菜料理を作ってみようと思ったのだった。
おまけ終わり。
「ねぇ、遊ぼうよー」
「……」
「ねぇってばー」
総司が近藤家に来て数日。
千夏は総司に与えられた部屋に押しかけ、毎日遊ぼうと話しかけていた。
しかし総司は全く相手にせず。一人ブロックや積み木で遊んだり絵を描いたり。まるで千夏がいないかのように遊んでいる。
しかし千夏はそんなことを気にせず、遊ぶ総司の後ろに座って話しかけていた。
「何作っているの?……何それ、犬?」
「……」
「うーん……あのね、今日学校で友達がお兄ちゃんも学校に来られたらいいねって話してたー」
話題を変えるも、総司は無反応のままだった。
それでも千夏は話し続ける。
「次の月曜日からお兄ちゃんも学校に行けるから楽しみだね!」
「……」
「んーとね、あとは――」
千夏が更に続けようとした時だった。
「これこれ、そんなに色んな話をしてはどう反応していいか分からないじゃないか」
「あ、お父さん!」
近藤が部屋に入って来たのである。
気付けば外は暗くなり、時間は午後七時を回っていた。
「それにしても千夏、いつから此処にいるんだ?」
「んー……夕方? 学校終わって、友達と遊んで帰ってから!」
「二、三時間はいるのか。総司、すまんなぁ。この子はお喋りでな」
許してやってくれ、と言う近藤だが総司は相変わらず無視。
「……さ、二人ともご飯だから下に行こう」
「分かった! お兄ちゃん行こう!」
近藤と手を繋いで廊下に出る。千夏が手招きすると、総司は立ち上がり近寄ってくる。
冷めたような目つきは合うことすらない。
千夏は手を差し出すが、目もくれず横を通り抜けた。
近藤はその様子を見て、溜め息を一つ吐いた。総司がどうしたら心を開いてくれるか、考えているがどうにも上手くいかない。近藤も普段から話しかけているが、まともな会話は成り立たず。
漸く手続きが終わり、来週から新しい学校に通うと言うのにコミュニケーションが取れず孤立するのだけは避けたかった。いじめのきっかけにもなりかねない。
近藤は、それまでに少しでも総司の心を開きたかった。
「お父さん?」
「ん? あぁ、下に行こうか」
考え込んでしまい、立ち止まっていた。近藤は千夏の手を引き階段を下りた。
――……‥‥
「美味しいー!」
大好きな唐揚げを食べて、表情豊かな千夏とは裏腹に総司は一口二口食べただけで箸を置いた。
すぐにつねが
「もしかして唐揚げ嫌いだった……?」
と尋ねても、答えない。あまり話さないので好きなものも嫌いなものも分からない。
どうしたものかと思っていると、千夏がテーブルの真ん中にある大皿から唐揚げを一つ取り、総司に差し出した。
「食べようよ! 美味しいよ?」
ぐいぐいと押し付ける千夏。
「ちょ、千夏、そこまでしなくても……」
「止めなさい、千夏」
流石にやりすぎであると思った近藤夫妻。娘を制止したが遅く。
黙っていた総司も、それには怒った。無言で千夏の手を払い睨み付けた。
これには千夏もショックを受けるかと思いきや――
「やっとこっち見てくれたー!」
花を飛ばす勢いで喜んだ。
総司はそれを見て眉間に皺を寄せる。そして椅子からおりた。
「もう食べないの?」
そのままリビングから出ようとする総司に、すかさずつねが声をかけた。
すると総司は振り返り口を開いた。
「家族なんかいらない」
その言葉に息を呑んだ。
「僕のこと可哀相だとか思ってる? 皆、そう言うけどそういうのいらない」
九歳の表情ではなかった。恐ろしく絶望したような瞳に、近藤は顔を歪めた。それは恐怖の歪みではない。
総司が歩んできたたった九年間の人生。その短い時間で何を感じ生きたのか。心の奥底に溜め込んでいるもの。それを色々想像したが想像が出来ず、分かってやれない苦しさからだった。
「でも……」
「皆して鬱陶しいんですよ。同情とかそういうのいらない」
総司はリビングを抜け二階へと上がって行った。
大量に残っているご飯を見つめ、つねは肩を落とす。
「そんなに落ち込むことはないさ。総司はまだ慣れないだけで、きっと慣れたら食べてくれる。何たって母さんのご飯は美味しいからなぁ! な、千夏!」
「んー? おりひいおー」
「千夏……口にいっぱいいれすぎだぞ……。さ、つね。食べよう。きっと食べてくれる」
つねの肩に手を置いて、近藤は慰める。
しかしつねは首をゆっくりと横に振った。
「違うの、私が心配しているのはあの子があんまり食べないから……毎日あの調子だし、倒れてしまうんじゃないかしら。成長期なのに体が小さいし」
そう、総司は同年代の子よりも体が小さかった。施設にいた時から食べる量は他の子より少なかったが、ここにきてもっと食べなくなっていた。
「そうだなぁ……うむ、持っていこう。家族団欒も大切なことだが、今は健康が重要だ。一人なら総司も食べてくれるかもしれない」
近藤は立ち上がると、食器棚から皿や盆を取り出した。そして、テーブルの上の唐揚げと添えの野菜を別皿に移す。
そして、総司の茶碗や箸や茶が入ったコップを盆に乗せて持ち、総司の部屋に向かった。
――しばらくして、二階から下りてきた近藤は「机の上に置いて来た」と報告をする。
案の定、総司は無反応だったらしい。終始ベッドに横になり、背を向けていたとか。
「食べてくれると良いんだが……」
「そうね。あの子の好きなものが分かればいいんだけど、桜田さん何か言ってたっけ?」
「いや、子供たちに好かれる桜田さんも総司だけは難しいと言っていたからなぁ。あの様子じゃ、知らないんじゃないか? 一応、今度聞いてみようか」
「ええ。私は、色んな物作ってみるわ。もし大好物だったらもう少し食べてくれるかもしれない」
会話を続ける両親を余所に、千夏は幸せそうにご飯を食べていた。
2.心の闇 END
★おまけ★
――夜中、つねはこっそり総司の部屋を覗いた。近藤が持って来た食器を回収するためである。
ちゃんと寝る時は電気を消す総司。起こさないように静かに入る。
机の上に置かれた食器を見て、つねは微笑んだ。
全部食べているわけではなかったが、明らかに量が減っている。
少しでも食べてくれた。それが嬉しかった。
(けど……)
つねが見たのは野菜。キャベツの千切りとトマトが今日の野菜だった。
(見事にキャベツ残ってるわね。そしてトマトも確か二つ入れてたけど、一つ残ってる……)
まじまじと見つめていると、つねはあることに気が付く。
(そういえば、勇さん……野菜に何もかけてなかった……。ということは、これ味がない……?)
寝ている総司の背中を見つめる。そして視線をまた戻すと、はぁと息を吐いた。
(嫌いなのか、味がないから食べなかったのか分からない……)
今度は好き嫌いが分かる野菜料理を作ってみようと思ったのだった。
おまけ終わり。