こころ〜家族になる〜
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それから初めて近藤家に触れた。家の中は太陽な物で溢れていた。母になったつねさんの笑顔も、妹になった千夏の笑顔……。正直、戸惑った。顔には出さないけど慣れなかった。
同時に腹立たしかった。理由は分からない。
特にイラついたのは千夏だった。接したくないし、近づきたくないのに勝手に近寄ってきて一方的に話す。強引に僕に触れようとしたり、かつて従兄弟にされたことが何度もフラッシュバックで蘇った。
何度も手を払い除けようとしたが、あまり出来なかった。身体が動かなかったんだ。
危害を加えるつもりはないことが分かってからは、フラッシュバックは消えたがやっぱり千夏のことは鬱陶しかった。
楽しそうに話す千夏、全然楽しくない僕。つまんないし、うるさいしである日とうとうキレた。
初めて反抗して、一瞬僕の方がこの子より立場が上だと思った。イラついて飛び出したら車にはねられそうになった。
追かけて来た千夏は泣き、つねさんに初めて叩かれた。
その時、昔の記憶が脳裏に浮かんだ。反抗すると痛い目みる、というのを思い出したのだ。心が黒くなっていくのを感じた。
でも次の瞬間、つねさんが僕を抱きしめて泣いていたんだ。
「良かった……無事で……」
泣いて抱きしめられ、僕を気遣う言葉をかけられる経験がなくてとても動揺した。
“沖田家”にいた頃は、叩かれた後は目を吊り上げた大人の罵声が降ってきたから……。
その瞬間、僕の心の中がざわざわして――。
何ていうのかな、生きてる。そう、生きてるって感じが自然と沸き起こって来た。
凄く温かくなって、気付けば僕も泣いていたんだよね。
その後、二人が凄く心配してくれたことが痛い程に伝わってきた。謝る事もその意味も二人のお陰で理解出来たんだ。
その時から僕は、近藤家の皆を漸く信用し始めた気がする。あれほど嫌だった会話も初めてしてみようと思った。
でもまだ緊張してて全部は伝えられなかった記憶がある。
特に覚えているのは、ネギが嫌いと言ったことかな。つねさんはその次から味噌汁のネギを抜いてくれるようになった。そのうち食べられるようになると言っていたけど、ネギは今でも嫌いだ。
キャベツもトマトも少し駄目だったけど、それは伝えられなかったなぁ。今は平気で食べられるから良いんだけど。
ここに来て、初めて食事の時間が楽しいと思えたんだ。
しばらくは自分から話かけることが出来なかった。受け答えは出来るけど、自分から話しが出来るようになるまで時間がかかった。
出来るようになってからは妹になった千夏ともよく遊べるようになった。千夏はいつも元気で、疲れ知らずというか……お転婆で、家の中でもかくれんぼとか鬼ごっことか外でやる遊びを平気で家の中で始める。まぁ、僕も同罪だけど。
そしてよくつねさんに怒られたなぁ。
順調に新しい家族との仲も深まって行き、父になった近藤さんに勧められ剣道も始めた。
これが楽しくて、やり始めたらのめり込んでいった。上手くなれば上手くなるほど近藤さんに褒められる。そのことが嬉しくて、これは今でもずっと続けている。
あんなに食べられなかったご飯の量も食べられるようになり……まぁそれでもかなりお腹いっぱいになるけど、僕は今の生活に幸せを感じるようになっていた。
だけど、あの日。十一歳の時に、再び僕を恐怖が襲ったんだ。
いつものように学校から帰ると、来客があった。つねさんは僕と千夏に部屋に行っているように促したが、何となくその表情から嫌な予感がした。
根拠はないけど、凄く嫌な感じがして僕はつねさんの横をすり抜けて閉ざされたリビングの戸を開けた。
驚いた表情を見せる近藤さんと対面して座っていた二人の人物――その人たちを見た瞬間、僕の辛かった記憶が一気に蘇ったのだ。
「総司なの? 大きくなって!」
その高い声は耳障りだった。手を伸ばしてきたその人物は僕をかつて散々虐めた祖母。
隣には祖父もいる。
それからはよく覚えていないが、二人は職を失った伯父のせいで伯母と孫が出て行き、お金がないから僕を育てて金を搾り取ろうとしていた。……んだと思う。
僕の指摘に図星なのか、言葉を詰まらせていたからね。
ヒートアップする僕を近藤さんが止め、つねさんに背中を押されて千夏と部屋に戻された。