第一部
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7.追われる猫
最近、やたらと猫が町を徘徊している。
いつもは縁の下で寝ている猫も、何かを探すように京の町を歩く。一匹ならまだしも、それが十匹二十匹以上になると京の人間は気味悪がった。
しかも歩き疲れたのか、猫が足を休めているとどこからともなく比較的大きな猫がやってきてその猫に怒る。怒られた猫は、渋々歩いている感じ。それを見た人間は不吉だと噂していた。
「何か分かったか?」
新選組は、あの雄猫の喧嘩から毎日忙しくしていた。というのも、京の町が猫によって混乱している上に、猫によって被害にあったという人もいた。
噂は上の人間にも届いていて、騒ぎを収めよという命が下ったのである。
都である以上、人の出入りは激しい。人間の生活が脅かされつつあるので放っておくわけにはいかない、ということだ。
近藤や土方は命令だから仕方がないと、動いた。
しかしいくら猫を払っても切りがないので、その根本を知り対策しようというのだ。
「少し、分かりましたよ」
沖田の言葉に、集まった全員は耳を傾けた。
毎日が情報収集の日々。そして、毎日こうやって報告会を開くのだ。
「言ってみろ」
「いつも遊ぶ子供たちに聞いたんですけど、ここら辺の猫を仕切っている猫が最近怪我をして怒っているらしいです」
「怪我? それとこれとどう関係がある」
怪訝な顔をする土方。他も同じような反応だ(斎藤は真顔だが)
「だから、その猫が怒って怪我をさせたやつを探させてるんだって」
「はぁ? 誰に……」
「ですから、自分の手下にですよ。土方さん馬鹿なんですか?」
その沖田の言葉に怒鳴る土方だったが、それを遮るように今度は永倉が口を挟む。
「総司、それってお前の予測だろ? 本当のところは確かめようがねぇんじゃねぇか?」
「でも子供たちが言うには、ある日今までなかった傷が片目についてたんだって。子供たちは猫のこと結構知っててさ、その傷がついてる日くらいから猫が忙しなく動いてるって言ってたよ?」
「ふーん、じゃあその猫はどんな猫なんだ?」
永倉の問いに沖田は「黒猫」と即答した。
「黒猫……そういや、前にみーこが黒猫と一緒にいるの見たな」
「本当か、左之?」
「あぁ。みーこを連れて行こうとしたら威嚇された」
その話に、沖田が「そういえば」と切り出した。
「あの雄猫たちの中に黒猫いたよね。一匹だけ真っ黒な猫……。はっきりとは見てないから、怪我してたかどうか分かんないけど」
そこまで言うと、土方の中にある仮説が生まれた。
「あくまで可能性の話だが、猫どもはあの日を境に奇妙な行動をするようになった。総司の予測を本当として合わせてみると、その黒猫はあの喧嘩で傷を負った」
「うーん、それが打倒だよな……。でもさ、その傷をつけた相手ってどの猫なんだ?」
その藤堂の疑問に、今まで黙って隅に座っていた千鶴が気付いたようだった。
「もしかして……」
「え? 何、千鶴分かったの?」
「黒猫の狙いは、みーこだ」
土方の言葉に、千鶴は「やっぱり」といった反応を見せた。しかし、驚いたのは千鶴以外の者たち。
理由を土方に問いたてた。
「思い出してもみろ。あの日、みーこはなぜ逃げた? しかも大急ぎで」
「なぜって……あー、そういえばあの日、みーこは大声あげて――って表現もおかしいけど、大声あげて逃げたよなー」
「そうだ。あの日、みーこは屯所にいた。そして雄猫が集まった。……さしずめ、雌猫を巡っての争いが起きたんだろうよ。俺たちからは見えなかったが、黒猫は他の雄猫が争っている間にみーこに近づいた。恐らくその時、その黒猫に怪我を負わせてしまったんじゃねぇか。で、怒った黒猫はみーこに飛びかかったが……まぁ、みーこは逃げたってわけだ」
土方の予測は、その場にいた全員が頷くものだった。
「まぁ、でもあくまで予想だ。他の雄猫と喧嘩して出来ただけかもしれねぇしな」
「とにかく、もう少し情報が入りますよね。僕、もう一回子供たちに聞いてこよ」
そう言って立ち上がる沖田。それに続いて他の幹部も立ち上がる。
これにて話し合いは終了。しかし土方は、皆の最後尾にいた斎藤を呼び止めた。
「……なんでしょう」
「お前に頼みたい。みーこを保護してこい」
「保護? し、しかし――」
「確かに、一度捨ててこいって言ったのは俺だ。だがこの騒ぎを収めなくちゃならねぇ。みーこを保護したところで何かが変わるとも思えねぇが、何もしねぇよりは良い。これが凶と出るか吉と出るかは分からねぇがな」
その言葉に斎藤は何かを考え、やがて「承知しました」と頭を下げて部屋を後にした。
7.追われる猫END
⇒8へ続く
最近、やたらと猫が町を徘徊している。
いつもは縁の下で寝ている猫も、何かを探すように京の町を歩く。一匹ならまだしも、それが十匹二十匹以上になると京の人間は気味悪がった。
しかも歩き疲れたのか、猫が足を休めているとどこからともなく比較的大きな猫がやってきてその猫に怒る。怒られた猫は、渋々歩いている感じ。それを見た人間は不吉だと噂していた。
「何か分かったか?」
新選組は、あの雄猫の喧嘩から毎日忙しくしていた。というのも、京の町が猫によって混乱している上に、猫によって被害にあったという人もいた。
噂は上の人間にも届いていて、騒ぎを収めよという命が下ったのである。
都である以上、人の出入りは激しい。人間の生活が脅かされつつあるので放っておくわけにはいかない、ということだ。
近藤や土方は命令だから仕方がないと、動いた。
しかしいくら猫を払っても切りがないので、その根本を知り対策しようというのだ。
「少し、分かりましたよ」
沖田の言葉に、集まった全員は耳を傾けた。
毎日が情報収集の日々。そして、毎日こうやって報告会を開くのだ。
「言ってみろ」
「いつも遊ぶ子供たちに聞いたんですけど、ここら辺の猫を仕切っている猫が最近怪我をして怒っているらしいです」
「怪我? それとこれとどう関係がある」
怪訝な顔をする土方。他も同じような反応だ(斎藤は真顔だが)
「だから、その猫が怒って怪我をさせたやつを探させてるんだって」
「はぁ? 誰に……」
「ですから、自分の手下にですよ。土方さん馬鹿なんですか?」
その沖田の言葉に怒鳴る土方だったが、それを遮るように今度は永倉が口を挟む。
「総司、それってお前の予測だろ? 本当のところは確かめようがねぇんじゃねぇか?」
「でも子供たちが言うには、ある日今までなかった傷が片目についてたんだって。子供たちは猫のこと結構知っててさ、その傷がついてる日くらいから猫が忙しなく動いてるって言ってたよ?」
「ふーん、じゃあその猫はどんな猫なんだ?」
永倉の問いに沖田は「黒猫」と即答した。
「黒猫……そういや、前にみーこが黒猫と一緒にいるの見たな」
「本当か、左之?」
「あぁ。みーこを連れて行こうとしたら威嚇された」
その話に、沖田が「そういえば」と切り出した。
「あの雄猫たちの中に黒猫いたよね。一匹だけ真っ黒な猫……。はっきりとは見てないから、怪我してたかどうか分かんないけど」
そこまで言うと、土方の中にある仮説が生まれた。
「あくまで可能性の話だが、猫どもはあの日を境に奇妙な行動をするようになった。総司の予測を本当として合わせてみると、その黒猫はあの喧嘩で傷を負った」
「うーん、それが打倒だよな……。でもさ、その傷をつけた相手ってどの猫なんだ?」
その藤堂の疑問に、今まで黙って隅に座っていた千鶴が気付いたようだった。
「もしかして……」
「え? 何、千鶴分かったの?」
「黒猫の狙いは、みーこだ」
土方の言葉に、千鶴は「やっぱり」といった反応を見せた。しかし、驚いたのは千鶴以外の者たち。
理由を土方に問いたてた。
「思い出してもみろ。あの日、みーこはなぜ逃げた? しかも大急ぎで」
「なぜって……あー、そういえばあの日、みーこは大声あげて――って表現もおかしいけど、大声あげて逃げたよなー」
「そうだ。あの日、みーこは屯所にいた。そして雄猫が集まった。……さしずめ、雌猫を巡っての争いが起きたんだろうよ。俺たちからは見えなかったが、黒猫は他の雄猫が争っている間にみーこに近づいた。恐らくその時、その黒猫に怪我を負わせてしまったんじゃねぇか。で、怒った黒猫はみーこに飛びかかったが……まぁ、みーこは逃げたってわけだ」
土方の予測は、その場にいた全員が頷くものだった。
「まぁ、でもあくまで予想だ。他の雄猫と喧嘩して出来ただけかもしれねぇしな」
「とにかく、もう少し情報が入りますよね。僕、もう一回子供たちに聞いてこよ」
そう言って立ち上がる沖田。それに続いて他の幹部も立ち上がる。
これにて話し合いは終了。しかし土方は、皆の最後尾にいた斎藤を呼び止めた。
「……なんでしょう」
「お前に頼みたい。みーこを保護してこい」
「保護? し、しかし――」
「確かに、一度捨ててこいって言ったのは俺だ。だがこの騒ぎを収めなくちゃならねぇ。みーこを保護したところで何かが変わるとも思えねぇが、何もしねぇよりは良い。これが凶と出るか吉と出るかは分からねぇがな」
その言葉に斎藤は何かを考え、やがて「承知しました」と頭を下げて部屋を後にした。
7.追われる猫END
⇒8へ続く