第一部
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
5.戻ってきた猫
「今までどこへ行っていた」
みーこは兄猫と久々に対面し、仲間の猫に囲まれている。父猫も母猫もこの世にはもういない。だから、兄猫がこの集団の長であり全てなのだ。
「まさか、人間と一緒にいたんじゃないだろうな」
「……」
「まぁ良い。今度から勝手にいなくなるな」
みーこと同じ白い毛。人間に傷つけられた右目は開かない。
去っていく兄猫の後を、仲間がついていく。みーこもその後を追った。
数日間、降り続ける雨に人間だけでなく猫もまいっていた。
みーこは壬生寺に戻ってから毎日同じことを考えている。それは原田のことであった。
猫は忘れる、といわれるがみーこは違った。
「左之、来てくれないかな……」
思えば思うほど、会いたくなる。雨に打たれながら壬生寺の入口に佇む。
その様子は兄猫も気付いていたが、何を言っても止めない妹猫にもはや口出ししなくなっていた。
しかし待てども待てども、来るはずもなく――ついにみーこは自ら動いた。
兄猫に行き先も告げず、雨の中駆け出したのだ。
「どこに行く!」
兄猫をはじめ、仲間の猫が壬生寺縁側から出ていくみーこを見つめる。
しかしみーこは一人走った。
数少ない町を歩く人々も、駆け抜ける猫に視線を向ける。そんなことは気付かないみーこは、ただ駆け抜けた。
――屯所にたどり着き、みーこは身震いし、こっそり侵入した。
足音を立てず歩き、記憶にある原田の部屋を目指す。
しかし曲がり角を曲がろうとしたとき、先から沖田が来るのが見えた。みーこは咄嗟に辺りを見回し、僅かに開いていた部屋の障子の隙間から中に入り、身を隠す。
「……あれ? 気のせいかな?」
沖田は結局そのまま去って行った。みーこは改めて部屋から出ると、原田の部屋を目指した。
そして、部屋の前についたとき障子に手をかけようとした。が、すぐに以前手をかけたら障子が破れたことを思い出し、止めた。
鳴き声をあげようと口を開きかけた時だった。
声が聞こえて、だんだんこっちに迫って来る気配がしたのだ。みーこは、慌てて縁側の下に身を隠した。
「――は、真面目過ぎなんだよなぁ」
「でも、今更だろ? 一君が真面目なのは変わらないって!」
それは永倉と藤堂であった。
「そうだけどよ……っと、着いたぜ。左之ー!!」
障子を勢いよく開ける音が耳に入ってくる。
「酒呑もうぜ!!」
「……おいおい、昼間から呑むのかよ?」
「良いじゃねぇか。平助と三人で語ろうぜ! 硬いこと言うなよ」
「土方さんにどやされるぜ?」
「良いじゃん! 最近、左之さん元気ねぇじゃん」
「そうそう、酒呑んでぱーっとしようぜ!」
障子が閉まる音。どうやら永倉と藤堂は部屋に入ったらしい。
今行くとはまずいとみーこも猫ながらに感じ取っていた。しかし、このままというわけにはいかず――。
どうしたものかと思っていると再び障子が開かれた。
「んじゃ、酒とってくるからな!」
「あぁ、ついでにつまみも持ってこいよ」
「分かってるって!」
そう言って、永倉だけが部屋を出て行った。
暫くして、永倉が戻って来る。みーこは相変わらず縁側の下から動けないでいた。
原田の部屋からは、話し声が溢れてくる。
「にゃー……」
小さく鳴いてみるものの、雨の音も合わさり聞こえるはずがない。みーこは、落ち込んだ。しかし突然、何かに見られている感じが襲ったのだ。
辺りを見回すと、そこには多くの雄猫がみーこを囲んでいた。
5.戻ってきた猫END
⇒6へ続く
「今までどこへ行っていた」
みーこは兄猫と久々に対面し、仲間の猫に囲まれている。父猫も母猫もこの世にはもういない。だから、兄猫がこの集団の長であり全てなのだ。
「まさか、人間と一緒にいたんじゃないだろうな」
「……」
「まぁ良い。今度から勝手にいなくなるな」
みーこと同じ白い毛。人間に傷つけられた右目は開かない。
去っていく兄猫の後を、仲間がついていく。みーこもその後を追った。
数日間、降り続ける雨に人間だけでなく猫もまいっていた。
みーこは壬生寺に戻ってから毎日同じことを考えている。それは原田のことであった。
猫は忘れる、といわれるがみーこは違った。
「左之、来てくれないかな……」
思えば思うほど、会いたくなる。雨に打たれながら壬生寺の入口に佇む。
その様子は兄猫も気付いていたが、何を言っても止めない妹猫にもはや口出ししなくなっていた。
しかし待てども待てども、来るはずもなく――ついにみーこは自ら動いた。
兄猫に行き先も告げず、雨の中駆け出したのだ。
「どこに行く!」
兄猫をはじめ、仲間の猫が壬生寺縁側から出ていくみーこを見つめる。
しかしみーこは一人走った。
数少ない町を歩く人々も、駆け抜ける猫に視線を向ける。そんなことは気付かないみーこは、ただ駆け抜けた。
――屯所にたどり着き、みーこは身震いし、こっそり侵入した。
足音を立てず歩き、記憶にある原田の部屋を目指す。
しかし曲がり角を曲がろうとしたとき、先から沖田が来るのが見えた。みーこは咄嗟に辺りを見回し、僅かに開いていた部屋の障子の隙間から中に入り、身を隠す。
「……あれ? 気のせいかな?」
沖田は結局そのまま去って行った。みーこは改めて部屋から出ると、原田の部屋を目指した。
そして、部屋の前についたとき障子に手をかけようとした。が、すぐに以前手をかけたら障子が破れたことを思い出し、止めた。
鳴き声をあげようと口を開きかけた時だった。
声が聞こえて、だんだんこっちに迫って来る気配がしたのだ。みーこは、慌てて縁側の下に身を隠した。
「――は、真面目過ぎなんだよなぁ」
「でも、今更だろ? 一君が真面目なのは変わらないって!」
それは永倉と藤堂であった。
「そうだけどよ……っと、着いたぜ。左之ー!!」
障子を勢いよく開ける音が耳に入ってくる。
「酒呑もうぜ!!」
「……おいおい、昼間から呑むのかよ?」
「良いじゃねぇか。平助と三人で語ろうぜ! 硬いこと言うなよ」
「土方さんにどやされるぜ?」
「良いじゃん! 最近、左之さん元気ねぇじゃん」
「そうそう、酒呑んでぱーっとしようぜ!」
障子が閉まる音。どうやら永倉と藤堂は部屋に入ったらしい。
今行くとはまずいとみーこも猫ながらに感じ取っていた。しかし、このままというわけにはいかず――。
どうしたものかと思っていると再び障子が開かれた。
「んじゃ、酒とってくるからな!」
「あぁ、ついでにつまみも持ってこいよ」
「分かってるって!」
そう言って、永倉だけが部屋を出て行った。
暫くして、永倉が戻って来る。みーこは相変わらず縁側の下から動けないでいた。
原田の部屋からは、話し声が溢れてくる。
「にゃー……」
小さく鳴いてみるものの、雨の音も合わさり聞こえるはずがない。みーこは、落ち込んだ。しかし突然、何かに見られている感じが襲ったのだ。
辺りを見回すと、そこには多くの雄猫がみーこを囲んでいた。
5.戻ってきた猫END
⇒6へ続く