第一部
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4.野良に戻された猫
新選組副長の土方は、自室で筆を執っていた。しかしその眉間には皺。筆も止まって、ぷるぷると震えている。
土方の部屋の外からは、しきりに複数の猫の鳴き声が響いていた。重いような強いような、低いような――そんな声で鳴いている猫。
自然の中では当たり前なのだが、今回は異常だった。
そして、土方はついに堪忍袋の緒が切れた。
「幹部会議だ! 全員集まりやがれ!!」と叫びながら廊下を歩いた。
――………‥‥
突然召集された幹部一同は、無言でピリピリした土方を見て肩を震わせた。
「ど、どうしたんだよ土方さん……」
口火を切ったのは永倉であった。静まり返った部屋にただ一言、土方は言い放つ。
「うるせぇ」
「……は?」
当然、幹部たちは何のことかさっぱり分からず。
首を傾げる様子に、土方は怒鳴った。
「猫がうるせぇっつってんだよ!!」
その言葉で、あぁと納得する。
すると沖田が説明するように口を開いた。
「確かに、最近は猫が煩いですよね。発情期ですから」
「だけど、いつもこんなに煩かったか? 今回多くね?」
平助の疑問に、確かにと頷く他の者。
「ざっと15匹くらいはいそうだよね。この前見たけど、雄猫ばっかりだったよ」
「ったく、何でこんな多いんだ……仕事に集中出来ねぇ」
「確かに。庭も猫の排泄物が落ちています」
斎藤の報告に、ため息を吐く土方。
「心当たりはねぇのか」
「例えば、どんなことです? 土方さんから雌猫の匂いが溢れてるとか?」
「ふざけんな! んなわけねぇだろ! 例えば、餌を沢山与えているやつがいるとかだな……」
「そしたら、雄猫以外もいますよ。あれじゃないですか?」
沖田はそう言って、原田を見た。それにつられて、一斉に注目が集まる。
「は?……俺か?」
突然の注目に少々戸惑ってしまう。
「違うよ。左之さんの猫のことだよ」
「……みーこか? 何であいつが」
「そんなの決まってるでしょ。この発情時期に、雌猫一匹屯所にいるって言ったら沢山の雄猫が集まってくるじゃない」
その説明に、原田は困った表情になる。すると土方が何かを考えて、やがて決断を下した。
「みーこを捨ててこい」
と。
「は?」
「え、捨ててこいって……土方さん、それはちょっと厳しいと思うんだけど……」
「平助は黙ってろ。元々、あいつは野良猫だ。飼ってるわけじゃなく、住み着いた猫だ」
「けど、もう飼ってるもんじゃねぇか? 左之にだって懐いてるし」
「んなこと言ってたら、屯所が猫だらけになっちまうだろうが! ここは借りてる場所だ。猫のたまり場にされちゃあ困るんだよ!」
土方の言葉に誰も何も言えなかった。原田は、複雑な表情を浮かべていた。
――何も知らないみーこは、原田の部屋で毛繕いをしていた。早く部屋の主が戻って来ないかと待っていたところに、足音が耳に届く。
障子を注視しながら音を聞くが、どうも原田の足音とは違う感じを覚えた。
体は自然と臨戦体勢に入る。しかし、障子が開き入った来た人物を見てその体勢は崩された。
斎藤だったのだ。見慣れた人物を見上げ、一声鳴く。
「どうしたの?」と聞いているのだが、伝わらない。
「すまない」
ただそう言って、みーこを抱き上げた。
「?」
廊下を行く中、遠くで争う声が聞こえた。原田の声と、土方の声だと分かった。何を言っているのかは分からないが、しかしそちらには行かず外へ行く斎藤に「にゃー」と声をかけた。
雲行き怪しい空の下。斎藤は、せっせと歩いて壬生寺まで足を運んだ。
「にゃー?」
「あんたと似た猫が、ここにいるのを見た。白い猫は珍しいからな」
そして、境内の下にみーこを降ろした。
「あんたに非はないが、あんたがいると雄猫が煩くて俺達の隊務に差し支える。副長命令だ。許せ」
白い頭を撫で、尻尾の布を外す斎藤。
「にゃー」
手を伸ばし取り返そうと試みるも、斎藤は許さない。
「すまない」
「にゃー」
立ち上がり、去っていく斎藤を追いかける。
しかしそれは駄目なことだと察したみーこは、寺の入り口で座る。
「にゃー」
「……」
「にゃー、にゃー」
去り行く斎藤が見えなくなるまで鳴いた。
一粒の雨が、みーこの頭の上に落ちた。
4.野良に戻された猫END
⇒5へ続く
新選組副長の土方は、自室で筆を執っていた。しかしその眉間には皺。筆も止まって、ぷるぷると震えている。
土方の部屋の外からは、しきりに複数の猫の鳴き声が響いていた。重いような強いような、低いような――そんな声で鳴いている猫。
自然の中では当たり前なのだが、今回は異常だった。
そして、土方はついに堪忍袋の緒が切れた。
「幹部会議だ! 全員集まりやがれ!!」と叫びながら廊下を歩いた。
――………‥‥
突然召集された幹部一同は、無言でピリピリした土方を見て肩を震わせた。
「ど、どうしたんだよ土方さん……」
口火を切ったのは永倉であった。静まり返った部屋にただ一言、土方は言い放つ。
「うるせぇ」
「……は?」
当然、幹部たちは何のことかさっぱり分からず。
首を傾げる様子に、土方は怒鳴った。
「猫がうるせぇっつってんだよ!!」
その言葉で、あぁと納得する。
すると沖田が説明するように口を開いた。
「確かに、最近は猫が煩いですよね。発情期ですから」
「だけど、いつもこんなに煩かったか? 今回多くね?」
平助の疑問に、確かにと頷く他の者。
「ざっと15匹くらいはいそうだよね。この前見たけど、雄猫ばっかりだったよ」
「ったく、何でこんな多いんだ……仕事に集中出来ねぇ」
「確かに。庭も猫の排泄物が落ちています」
斎藤の報告に、ため息を吐く土方。
「心当たりはねぇのか」
「例えば、どんなことです? 土方さんから雌猫の匂いが溢れてるとか?」
「ふざけんな! んなわけねぇだろ! 例えば、餌を沢山与えているやつがいるとかだな……」
「そしたら、雄猫以外もいますよ。あれじゃないですか?」
沖田はそう言って、原田を見た。それにつられて、一斉に注目が集まる。
「は?……俺か?」
突然の注目に少々戸惑ってしまう。
「違うよ。左之さんの猫のことだよ」
「……みーこか? 何であいつが」
「そんなの決まってるでしょ。この発情時期に、雌猫一匹屯所にいるって言ったら沢山の雄猫が集まってくるじゃない」
その説明に、原田は困った表情になる。すると土方が何かを考えて、やがて決断を下した。
「みーこを捨ててこい」
と。
「は?」
「え、捨ててこいって……土方さん、それはちょっと厳しいと思うんだけど……」
「平助は黙ってろ。元々、あいつは野良猫だ。飼ってるわけじゃなく、住み着いた猫だ」
「けど、もう飼ってるもんじゃねぇか? 左之にだって懐いてるし」
「んなこと言ってたら、屯所が猫だらけになっちまうだろうが! ここは借りてる場所だ。猫のたまり場にされちゃあ困るんだよ!」
土方の言葉に誰も何も言えなかった。原田は、複雑な表情を浮かべていた。
――何も知らないみーこは、原田の部屋で毛繕いをしていた。早く部屋の主が戻って来ないかと待っていたところに、足音が耳に届く。
障子を注視しながら音を聞くが、どうも原田の足音とは違う感じを覚えた。
体は自然と臨戦体勢に入る。しかし、障子が開き入った来た人物を見てその体勢は崩された。
斎藤だったのだ。見慣れた人物を見上げ、一声鳴く。
「どうしたの?」と聞いているのだが、伝わらない。
「すまない」
ただそう言って、みーこを抱き上げた。
「?」
廊下を行く中、遠くで争う声が聞こえた。原田の声と、土方の声だと分かった。何を言っているのかは分からないが、しかしそちらには行かず外へ行く斎藤に「にゃー」と声をかけた。
雲行き怪しい空の下。斎藤は、せっせと歩いて壬生寺まで足を運んだ。
「にゃー?」
「あんたと似た猫が、ここにいるのを見た。白い猫は珍しいからな」
そして、境内の下にみーこを降ろした。
「あんたに非はないが、あんたがいると雄猫が煩くて俺達の隊務に差し支える。副長命令だ。許せ」
白い頭を撫で、尻尾の布を外す斎藤。
「にゃー」
手を伸ばし取り返そうと試みるも、斎藤は許さない。
「すまない」
「にゃー」
立ち上がり、去っていく斎藤を追いかける。
しかしそれは駄目なことだと察したみーこは、寺の入り口で座る。
「にゃー」
「……」
「にゃー、にゃー」
去り行く斎藤が見えなくなるまで鳴いた。
一粒の雨が、みーこの頭の上に落ちた。
4.野良に戻された猫END
⇒5へ続く