第一部
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3.猫に戻った猫
僅かだった。
みーこと原田が床を共にした翌日。みーこが目を覚ますと、何やら違和感を覚えた。
いや、違和感というよりか前と同じような感覚。
未だ寝ている原田の顔を見上げれば、明らかな大きさの違いが見て取れた。
そう、みーこは猫に戻ってしまったのである。両手を見れば、いつものように柔らかい白毛がそこにはあった。
「にゃー……」
起き上がり、前足を張り背伸びをしてみる。
「にゃっ!?」
しかし、今まで感じたことない痛みで思わず跳ね上がってしまう。自分の体に何が起こったのか理解が出来ず、くるくる回ってみたが少し腰の辺りが痛い気もする。
そしてまた前足を踏ん張り、背伸びをする。
「……にゃ、ニギャァアアアアア」
「ど、どうした!?」
あまりの痛みに叫びあげたみーこの声に、今まで寝ていた原田が飛び起きる。
その視界に映ったのは、白い猫が柔軟な体を捩曲げてごろごろと転がっている姿だった。
「みーこ……なの、か?」
目の前のみーこは、痛みで転がっているわけだが原田にはそれが伝わっていない。
みーこが猫の本能にしたがい、ごろごろしているだけにも見えた。
「お前、戻っちまったのか?」
その小さな体を抱き上げれば、みーこはまた「ギャッ」と声をあげた。
「ん? どうした?」
「にゃー……」
尻尾を垂れ下げ大人しくするみーこ。動かないほうが身のためだと判断したようだ。
――こうして、みーこはいつもの日常に戻ったのである。
「あれ、左之さん」
「何だ?」
「いや、背中そんな傷だらけだったっけ?」
「は?」
みーこが猫に戻って数日後、いつものように原田は稽古をしていた。そして、いつもみたいに汗を水で流そうと井戸で体を拭いていた時だ。同じ目的で訪れた藤堂がその傷に気付いたのである。
「引っ掻き傷みたいなのが……。猫の爪ような」
「引っ掻き……? 猫……? あ」
そういえば、と思い出す。そして藤堂は首を傾げ、答えに迫るものの原田は苦笑するばかりであった。
その様子を塀の上で見ていたみーこに、一匹の影。
「ニャー」
「?」
見れば、真っ黒い猫が目を光らせ近付いて来る。
当然、みーこが知らない猫であった。
「お前、見かけない雌猫だな。どこの雌猫だ?」
「……壬生寺で生まれ育ったのよ」
「壬生寺の雌猫が何でここにいる。ここは俺達の場所だ」
もちろん実際には喋っているわけではない。猫同士の会話というべきか、端から見れば「にゃーにゃー」言い合っているだけなのだ。
「今は、ここに住んでるの」
「何だと? 野良じゃないのか」
「のら……?」
「野良を知らないのか? 俺のように、人間に飼われていない猫さ。……まぁ、餌は人間がくれるから貰ってやってるが」
いつの間にか、他の猫もみーこの周りに集まって来ていた。
知らない猫ばかりで思わず後退る。
「逃げることないさ。お前は雄じゃないし、俺達の群に入れてやっても良いぜ?」
すると、別の黒猫が塀の下(屯所の外)から口を挟む。
「もれなく兄貴の雌猫になるのにゃ」
「……え?」
「兄貴は、俺達の長なのにゃ。余所から来た猫はみーんな、兄貴の雌猫にゃー」
最初の黒猫に目をやると、彼は顔を洗いながら口を開いた。
「……どうだ? 俺の群に入るか? その白い毛が良い」
「私は」
その時、みーこを呼ぶ声が響いた。原田である。
みーこは、すぐさま行こうと立ち上がるが黒猫がそうはさせなかった。
「おっと、返事がまだだぜ?」
行く手を阻まれた挙げ句、前足を背に乗せ押さえ付けて来る。
「痛い」
「俺の雌になれよ」
「……嫌」
そう言って逃れようとするみーこの首に、黒猫は軽く噛み付いた。
「にぎゃっ!?」
そして、狭い塀の上で瞬時に体の向きを変えてみーこの上に覆いかぶさった。
驚いたのはみーこの方。
慌てて、暴れると体を黒猫から離す。金色の猫目がみーこを捉える。
「みーこー、どこだ?」
「にゃー」
「ん? あぁ、んなとこに……って、何だこの猫。野良か?」
黒猫と目が合う。
「シャー!」
「おっと、威嚇してんな……。悪いが、こいつは俺のだから連れていくぜ」
「にゃーん」
原田に抱き上げられたみーこは、頬をその胸に擦り寄せた。
黒猫は襲い掛からなかったものの、去っていく原田をじっと睨みつけていたのだった。
「……兄貴、いいのかにゃ?」
「今はまだ。だが絶対、あの雌猫は俺のもんにする」
「でも、ここら辺には他の猫一族もいっぱいいるにゃ? あの雌猫、綺麗だにゃー。好敵手は多いにゃ。それに、あの人間の目を盗んで娶るなんて出来るかにゃ?」
「……」
黒猫の目は、ギラギラと輝いていた。
3.猫に戻った猫END
⇒4へ続く
僅かだった。
みーこと原田が床を共にした翌日。みーこが目を覚ますと、何やら違和感を覚えた。
いや、違和感というよりか前と同じような感覚。
未だ寝ている原田の顔を見上げれば、明らかな大きさの違いが見て取れた。
そう、みーこは猫に戻ってしまったのである。両手を見れば、いつものように柔らかい白毛がそこにはあった。
「にゃー……」
起き上がり、前足を張り背伸びをしてみる。
「にゃっ!?」
しかし、今まで感じたことない痛みで思わず跳ね上がってしまう。自分の体に何が起こったのか理解が出来ず、くるくる回ってみたが少し腰の辺りが痛い気もする。
そしてまた前足を踏ん張り、背伸びをする。
「……にゃ、ニギャァアアアアア」
「ど、どうした!?」
あまりの痛みに叫びあげたみーこの声に、今まで寝ていた原田が飛び起きる。
その視界に映ったのは、白い猫が柔軟な体を捩曲げてごろごろと転がっている姿だった。
「みーこ……なの、か?」
目の前のみーこは、痛みで転がっているわけだが原田にはそれが伝わっていない。
みーこが猫の本能にしたがい、ごろごろしているだけにも見えた。
「お前、戻っちまったのか?」
その小さな体を抱き上げれば、みーこはまた「ギャッ」と声をあげた。
「ん? どうした?」
「にゃー……」
尻尾を垂れ下げ大人しくするみーこ。動かないほうが身のためだと判断したようだ。
――こうして、みーこはいつもの日常に戻ったのである。
「あれ、左之さん」
「何だ?」
「いや、背中そんな傷だらけだったっけ?」
「は?」
みーこが猫に戻って数日後、いつものように原田は稽古をしていた。そして、いつもみたいに汗を水で流そうと井戸で体を拭いていた時だ。同じ目的で訪れた藤堂がその傷に気付いたのである。
「引っ掻き傷みたいなのが……。猫の爪ような」
「引っ掻き……? 猫……? あ」
そういえば、と思い出す。そして藤堂は首を傾げ、答えに迫るものの原田は苦笑するばかりであった。
その様子を塀の上で見ていたみーこに、一匹の影。
「ニャー」
「?」
見れば、真っ黒い猫が目を光らせ近付いて来る。
当然、みーこが知らない猫であった。
「お前、見かけない雌猫だな。どこの雌猫だ?」
「……壬生寺で生まれ育ったのよ」
「壬生寺の雌猫が何でここにいる。ここは俺達の場所だ」
もちろん実際には喋っているわけではない。猫同士の会話というべきか、端から見れば「にゃーにゃー」言い合っているだけなのだ。
「今は、ここに住んでるの」
「何だと? 野良じゃないのか」
「のら……?」
「野良を知らないのか? 俺のように、人間に飼われていない猫さ。……まぁ、餌は人間がくれるから貰ってやってるが」
いつの間にか、他の猫もみーこの周りに集まって来ていた。
知らない猫ばかりで思わず後退る。
「逃げることないさ。お前は雄じゃないし、俺達の群に入れてやっても良いぜ?」
すると、別の黒猫が塀の下(屯所の外)から口を挟む。
「もれなく兄貴の雌猫になるのにゃ」
「……え?」
「兄貴は、俺達の長なのにゃ。余所から来た猫はみーんな、兄貴の雌猫にゃー」
最初の黒猫に目をやると、彼は顔を洗いながら口を開いた。
「……どうだ? 俺の群に入るか? その白い毛が良い」
「私は」
その時、みーこを呼ぶ声が響いた。原田である。
みーこは、すぐさま行こうと立ち上がるが黒猫がそうはさせなかった。
「おっと、返事がまだだぜ?」
行く手を阻まれた挙げ句、前足を背に乗せ押さえ付けて来る。
「痛い」
「俺の雌になれよ」
「……嫌」
そう言って逃れようとするみーこの首に、黒猫は軽く噛み付いた。
「にぎゃっ!?」
そして、狭い塀の上で瞬時に体の向きを変えてみーこの上に覆いかぶさった。
驚いたのはみーこの方。
慌てて、暴れると体を黒猫から離す。金色の猫目がみーこを捉える。
「みーこー、どこだ?」
「にゃー」
「ん? あぁ、んなとこに……って、何だこの猫。野良か?」
黒猫と目が合う。
「シャー!」
「おっと、威嚇してんな……。悪いが、こいつは俺のだから連れていくぜ」
「にゃーん」
原田に抱き上げられたみーこは、頬をその胸に擦り寄せた。
黒猫は襲い掛からなかったものの、去っていく原田をじっと睨みつけていたのだった。
「……兄貴、いいのかにゃ?」
「今はまだ。だが絶対、あの雌猫は俺のもんにする」
「でも、ここら辺には他の猫一族もいっぱいいるにゃ? あの雌猫、綺麗だにゃー。好敵手は多いにゃ。それに、あの人間の目を盗んで娶るなんて出来るかにゃ?」
「……」
黒猫の目は、ギラギラと輝いていた。
3.猫に戻った猫END
⇒4へ続く