第二部
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12.猫の異変
みーこがお腹壊したかな、と思ったのは自分のお腹に違和感を覚えたからだ。
調子が良くない。動く気力もなく、ただ縁側で日向ぼっこをしていた。
そんな様子など全く気付かないのが人間である。ただ「あー、日向ぼっこしてるな」くらいの認識だった。
が、それから数日が経った時――漸くみーこの変化に気付いた人物がいた。その頃になるとみーこ自身もお腹の違和感の正体を理解していた。
「にゃぁあああ!!!」
「そんなに暴れないで。土方さんが呼んでるから行こうか」
そして今、沖田が暴れるみーこを捕まえ居間に運んだのである。
「連れてきましたよ」
居間には、何故か幹部一同と千鶴、そして医師の松本良順がいた。
「さぁ、松本先生診てください」
沖田がみーこを差し出すと、近藤がはっきりとそう言った。
「いや、見て下さいって……私は獣医じゃないんだよ! 何事かと呼ばれてみれば、まさか猫の診察とは……」
項垂れる松本。
こう見えて奥医師でもある。何と言う扱いだろうか。
「む、駄目なのか?」
「駄目じゃないが……」
親交深い近藤の頼みでもあるためか、松本は渋々みーこに手を伸ばした。
しかしみーこは、松本を警戒しているのかその手を引っ掻いた。
「駄目だよ、松本先生の手を引っ掻いちゃ」
「にゃぁああああ!!」
「いたっ」
諭そうとした沖田にも爪を向ける。
「みーこは総司が嫌いなんだろ」
「うるさいよ、平助。斬られたい?」
「ちょ、何でそうなるんだよ!」
蚯蚓腫れのようになった松本と沖田の手。血も僅かに滲み出ている。
「しかし、こんなに気性が激しかったか……」
「あ、一君危ないって!」
「……」
藤堂が叫んだ時には既に遅し。斎藤の手にも同じ傷跡がついた。
「一君にも爪立てるなんて、本当に体調悪いんじゃない? 今は放っといてくれって感じ?」
むすっとそっぽを向くみーこに、一同溜め息を吐く。すると原田が静かに歩み寄り、みーこに何か言っているようだった。(何度も言うが、人間には鳴き声にしか聞こえない)
すると、みーこは機嫌悪そうにしながらも松本の前に座ったではないか。
「流石、左之さん」
藤堂が感心の声をあげた。
松本はみーこに恐る恐る手を伸ばす。今度は大人しいようなので、そのまま抱き上げた。
「私も詳しいことは分からないが……これは……」
まじまじと観察する松本に、固唾を呑む周りの者たち。獣医ではないが、少しばかり心得はあった。
「恐らくだが――妊娠してると思う」
間。
松本の言葉に一瞬の沈黙が訪れた。それまでも沈黙だったが、更に静寂した空気。
しかし直ぐに、
「はぁ!?」
という驚きの声が。
「いや、だから妊娠だと思う。自信はないが、兆しがある」
そう言って、松本はみーこをのお腹を見せ乳首を指した。
「猫の乳は本来、小さくまた目立たない色をしている。しかし妊娠すると、このように桃色に変化して目立つようになる」
「そうなると、一体誰の子だ? この前、土方さんが屯所中の猫追い出したじゃねぇか」
「新八、誤解するな。追い出したんじゃねぇ。言ったら勝手に出て行ったんだ。人聞きの悪いこと言うんじゃねぇよ」
はぁ、と息を吐く土方。
「新八さん、誰の子かって決まってるじゃない。左之さんしかいないよね」
「はぁ? いや、総司。左之は元々人間だぜ? 猫と人間で子供出来んのか?」
「そんなわけないでしょ。でも、今の左之さんなら出来るんじゃない? 見た目も猫なら、見えないとこも猫になってるんだよ。どれに、みーこは左之さん以外の雄猫に近付かれると逃げてたと思うけど?」
その言葉で一同原田に注目した。
原田はまさか、と言った様子で目を見開いている。
すると、近藤が突然「めでたい!」と言い始めた。
「はぁ? 近藤さん、あんた何言ってんだよ」
「ええ、そうですね。近藤さんの言う通りですよ。土方さん何言っちゃってるんですか?」
「おお! 総司もそう思うか! いや、トシがな最近みーこの様子がおかしいと気付いてたらしいんでが、うん、何とめでたい!」
そう、最初にみーこの変化に気付いたのは土方だった。
「え? 土方さんだったんですか? 予想外」
「まぁ……餌を残すようになってたしな」
土方の言葉に藤堂が思い当たる節があるような反応を見せた。
「あーそう言われてみれば、残してたような」
「専ら、餌は千鶴ちゃんか平助があげてたよね。なのに気付いたのが土方さんって」
「俺も餌をあげてた」
「そうだったね、一君もあげてたね。でも気付かなかったの?」
すると、斎藤は
「俺や雪村の時は残したことがなかった」
と言い放った。そこで松本が口を挟んだ。
「猫は妊娠すると食欲が減退すると以前聞いたことがある。それはずっとではなく、七日程だと」
「つまり、平助が当番の時にそれが重なったのかもしれねぇな」
土方の推測に、藤堂はほっとしたという顔。自分の時だけ残すとなれば、餌の量が多いと文句を言われるかもという不安があったからだ。
「うーん、しかし本当にめでたいなぁ。これで、原田君も父親かー」
近藤の一言。
「父親……」
「父親ねぇ……」
「ん? どうした、皆」
複雑な表情を浮かべる面々に、近藤は首を傾げたのだった。
12.猫の異変END
⇒13へ続く
みーこがお腹壊したかな、と思ったのは自分のお腹に違和感を覚えたからだ。
調子が良くない。動く気力もなく、ただ縁側で日向ぼっこをしていた。
そんな様子など全く気付かないのが人間である。ただ「あー、日向ぼっこしてるな」くらいの認識だった。
が、それから数日が経った時――漸くみーこの変化に気付いた人物がいた。その頃になるとみーこ自身もお腹の違和感の正体を理解していた。
「にゃぁあああ!!!」
「そんなに暴れないで。土方さんが呼んでるから行こうか」
そして今、沖田が暴れるみーこを捕まえ居間に運んだのである。
「連れてきましたよ」
居間には、何故か幹部一同と千鶴、そして医師の松本良順がいた。
「さぁ、松本先生診てください」
沖田がみーこを差し出すと、近藤がはっきりとそう言った。
「いや、見て下さいって……私は獣医じゃないんだよ! 何事かと呼ばれてみれば、まさか猫の診察とは……」
項垂れる松本。
こう見えて奥医師でもある。何と言う扱いだろうか。
「む、駄目なのか?」
「駄目じゃないが……」
親交深い近藤の頼みでもあるためか、松本は渋々みーこに手を伸ばした。
しかしみーこは、松本を警戒しているのかその手を引っ掻いた。
「駄目だよ、松本先生の手を引っ掻いちゃ」
「にゃぁああああ!!」
「いたっ」
諭そうとした沖田にも爪を向ける。
「みーこは総司が嫌いなんだろ」
「うるさいよ、平助。斬られたい?」
「ちょ、何でそうなるんだよ!」
蚯蚓腫れのようになった松本と沖田の手。血も僅かに滲み出ている。
「しかし、こんなに気性が激しかったか……」
「あ、一君危ないって!」
「……」
藤堂が叫んだ時には既に遅し。斎藤の手にも同じ傷跡がついた。
「一君にも爪立てるなんて、本当に体調悪いんじゃない? 今は放っといてくれって感じ?」
むすっとそっぽを向くみーこに、一同溜め息を吐く。すると原田が静かに歩み寄り、みーこに何か言っているようだった。(何度も言うが、人間には鳴き声にしか聞こえない)
すると、みーこは機嫌悪そうにしながらも松本の前に座ったではないか。
「流石、左之さん」
藤堂が感心の声をあげた。
松本はみーこに恐る恐る手を伸ばす。今度は大人しいようなので、そのまま抱き上げた。
「私も詳しいことは分からないが……これは……」
まじまじと観察する松本に、固唾を呑む周りの者たち。獣医ではないが、少しばかり心得はあった。
「恐らくだが――妊娠してると思う」
間。
松本の言葉に一瞬の沈黙が訪れた。それまでも沈黙だったが、更に静寂した空気。
しかし直ぐに、
「はぁ!?」
という驚きの声が。
「いや、だから妊娠だと思う。自信はないが、兆しがある」
そう言って、松本はみーこをのお腹を見せ乳首を指した。
「猫の乳は本来、小さくまた目立たない色をしている。しかし妊娠すると、このように桃色に変化して目立つようになる」
「そうなると、一体誰の子だ? この前、土方さんが屯所中の猫追い出したじゃねぇか」
「新八、誤解するな。追い出したんじゃねぇ。言ったら勝手に出て行ったんだ。人聞きの悪いこと言うんじゃねぇよ」
はぁ、と息を吐く土方。
「新八さん、誰の子かって決まってるじゃない。左之さんしかいないよね」
「はぁ? いや、総司。左之は元々人間だぜ? 猫と人間で子供出来んのか?」
「そんなわけないでしょ。でも、今の左之さんなら出来るんじゃない? 見た目も猫なら、見えないとこも猫になってるんだよ。どれに、みーこは左之さん以外の雄猫に近付かれると逃げてたと思うけど?」
その言葉で一同原田に注目した。
原田はまさか、と言った様子で目を見開いている。
すると、近藤が突然「めでたい!」と言い始めた。
「はぁ? 近藤さん、あんた何言ってんだよ」
「ええ、そうですね。近藤さんの言う通りですよ。土方さん何言っちゃってるんですか?」
「おお! 総司もそう思うか! いや、トシがな最近みーこの様子がおかしいと気付いてたらしいんでが、うん、何とめでたい!」
そう、最初にみーこの変化に気付いたのは土方だった。
「え? 土方さんだったんですか? 予想外」
「まぁ……餌を残すようになってたしな」
土方の言葉に藤堂が思い当たる節があるような反応を見せた。
「あーそう言われてみれば、残してたような」
「専ら、餌は千鶴ちゃんか平助があげてたよね。なのに気付いたのが土方さんって」
「俺も餌をあげてた」
「そうだったね、一君もあげてたね。でも気付かなかったの?」
すると、斎藤は
「俺や雪村の時は残したことがなかった」
と言い放った。そこで松本が口を挟んだ。
「猫は妊娠すると食欲が減退すると以前聞いたことがある。それはずっとではなく、七日程だと」
「つまり、平助が当番の時にそれが重なったのかもしれねぇな」
土方の推測に、藤堂はほっとしたという顔。自分の時だけ残すとなれば、餌の量が多いと文句を言われるかもという不安があったからだ。
「うーん、しかし本当にめでたいなぁ。これで、原田君も父親かー」
近藤の一言。
「父親……」
「父親ねぇ……」
「ん? どうした、皆」
複雑な表情を浮かべる面々に、近藤は首を傾げたのだった。
12.猫の異変END
⇒13へ続く