第二部
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9.猫になった人間
例えば、不思議なことは本当は不思議なことではなくて稀に起こる自然現象だとしたら――。猫から人間になったみーこのように、人間から動物になってしまうこともあるのかもしれない。
「さ……の?」
永倉新八が最初の発見者だった。
朝餉の時間になっても広間に現れない原田を心配し、永倉は訪れたのだが原田はいなかった。
しかし、布団が敷きっぱなし。永倉はふとその布団をめくった。
すると丸まって寝ている猫……。
それはみーこではない。最初、原田がまた猫を匿ってるのかと思った。しかし、その猫がごろんと寝返りをうった時、永倉は察した。
そして上記の台詞である。
珍しい赤毛の猫。それが原田だと思ったのは、猫の腹に傷があったからである。
その傷のつき具合は、原田と同じように見えた。
「嘘だろ……?」
寝ているその猫を抱き上げると、瞳を見せた。
「お前、左之なのか……?」
「?」
猫――原田は自分の身に起こっていることを理解できていなかった。
視界に飛び込んでくる高さや距離、身体に感触として伝わってくる違和感。
全てが、自分の知っている感覚と異なっていた。
そして、漸く自分の置かれている状況を理解したのは自分の周りに視線を巡らせたからである。
混乱した原田は、永倉の手の中で暴れた。
――……‥‥
他の幹部が言葉を失うのも無理はない。
まさか人間が、猫になってしまうなど考えられなかったからだ。
「……本当に、左之なのか」
何とか声を出したのは、斎藤だった。
大人しく座っている原田だったが、斎藤の言葉に頷いたあたり猫になっても人間の言葉は分かっているらしい。
「しかし、これはまた大変なことになったなぁ」
近藤が考えていると、部屋の外から「にゃー」と声がした。
すると、障子が開き沖田が姿を現した。先程、沖田は猫になった原田を見るなり、部屋を飛び出したのだ。
「総司、どこへ行っていた」
斎藤が咎めるが、沖田は笑っている。
「どこって折角、左之さんが猫になったのに」
そう言って、沖田が下したのはみーこだった。
が、土方は目を吊り上げる。
「総司、ややこしくなるから連れてくるんじゃねぇよ!」
「もう遅いですよー」
ほら、と指差す沖田。そこには不思議そうに首を傾げているみーこと、視線をそらすように俯いている原田。
そこで、沖田が「左之さんだよ」とみーこに語る。
みーこは、更に首を傾げその猫に近付く。そして漂ってきた匂いに気付いた。
「にゃっ!?」
歩いている途中で突然声をあげ、片足を上げたまま固まるみーこ。
「あれ? 動きが止まっちゃったね」
沖田の楽しそうな声とは裏腹に、他の面々は溜め息を吐く。
「しょうがねぇ、とりあえず原田だと分かるようにしねぇとな」
「分かるようにって土方さん、どうするんだよ?」
「あぁ? んなの決まってんだろ。みーこと同じように原田にもなんかつけるんだよ」
その言葉に、原田は固まった。
「それに毛の色が珍しい。近所のガキが、そこに目をつけて連れ帰るってことになりゃ、めんどくせぇだろ」
土方の提案に、一同それしかないかと頷いている。当の原田の心境のことなど知るはずもなく。
そして、土方は一度部屋に戻って取ってきたのだ。赤い布を。
「こいつ(みーこ)に使ったあまりもんだが……」
原田は、その布をつけることが嫌だった。しかし布をつける意味を考え仕方ないと腹を括った。
が――
「左之、なんか可愛いな」
「本当。可愛いよね。一君もそう思うでしょ?」
「……不覚にもっ」
「左之さん、それ可愛いし猫のままで良いよ!」
等と、原田の尻尾についた布を触って遊んでいる。
流石に「可愛い」と連呼されれば、怒るもので原田は大暴れ。可愛いと触ってきた幹部連中の手を引っ搔きまくった。
するとみーこが、原田にすり寄り一声鳴く。その瞬間、原田は引っ搔くのを止めたが何か文句を口にしているようだった。(人間には、文句が鳴き声にしか聞こえない)
「左之さん、良かったね。猫と会話出来るなんて最高じゃない」
「これ、会話してんのか?」
永倉の疑問に誰も答えなかった。
しかし、猫になった原田はみーこと会話を成立させているように見えた。
「にゃーにゃーうるせぇ……」
土方の呟きは鳴き声で掻き消される。
――こうして、原田は何故か猫として生きることになったのである。
(ちなみに、後日原田の尻尾の布は赤い紐に取り換えられた)
9.猫になった人間END
⇒10へ続く
例えば、不思議なことは本当は不思議なことではなくて稀に起こる自然現象だとしたら――。猫から人間になったみーこのように、人間から動物になってしまうこともあるのかもしれない。
「さ……の?」
永倉新八が最初の発見者だった。
朝餉の時間になっても広間に現れない原田を心配し、永倉は訪れたのだが原田はいなかった。
しかし、布団が敷きっぱなし。永倉はふとその布団をめくった。
すると丸まって寝ている猫……。
それはみーこではない。最初、原田がまた猫を匿ってるのかと思った。しかし、その猫がごろんと寝返りをうった時、永倉は察した。
そして上記の台詞である。
珍しい赤毛の猫。それが原田だと思ったのは、猫の腹に傷があったからである。
その傷のつき具合は、原田と同じように見えた。
「嘘だろ……?」
寝ているその猫を抱き上げると、瞳を見せた。
「お前、左之なのか……?」
「?」
猫――原田は自分の身に起こっていることを理解できていなかった。
視界に飛び込んでくる高さや距離、身体に感触として伝わってくる違和感。
全てが、自分の知っている感覚と異なっていた。
そして、漸く自分の置かれている状況を理解したのは自分の周りに視線を巡らせたからである。
混乱した原田は、永倉の手の中で暴れた。
――……‥‥
他の幹部が言葉を失うのも無理はない。
まさか人間が、猫になってしまうなど考えられなかったからだ。
「……本当に、左之なのか」
何とか声を出したのは、斎藤だった。
大人しく座っている原田だったが、斎藤の言葉に頷いたあたり猫になっても人間の言葉は分かっているらしい。
「しかし、これはまた大変なことになったなぁ」
近藤が考えていると、部屋の外から「にゃー」と声がした。
すると、障子が開き沖田が姿を現した。先程、沖田は猫になった原田を見るなり、部屋を飛び出したのだ。
「総司、どこへ行っていた」
斎藤が咎めるが、沖田は笑っている。
「どこって折角、左之さんが猫になったのに」
そう言って、沖田が下したのはみーこだった。
が、土方は目を吊り上げる。
「総司、ややこしくなるから連れてくるんじゃねぇよ!」
「もう遅いですよー」
ほら、と指差す沖田。そこには不思議そうに首を傾げているみーこと、視線をそらすように俯いている原田。
そこで、沖田が「左之さんだよ」とみーこに語る。
みーこは、更に首を傾げその猫に近付く。そして漂ってきた匂いに気付いた。
「にゃっ!?」
歩いている途中で突然声をあげ、片足を上げたまま固まるみーこ。
「あれ? 動きが止まっちゃったね」
沖田の楽しそうな声とは裏腹に、他の面々は溜め息を吐く。
「しょうがねぇ、とりあえず原田だと分かるようにしねぇとな」
「分かるようにって土方さん、どうするんだよ?」
「あぁ? んなの決まってんだろ。みーこと同じように原田にもなんかつけるんだよ」
その言葉に、原田は固まった。
「それに毛の色が珍しい。近所のガキが、そこに目をつけて連れ帰るってことになりゃ、めんどくせぇだろ」
土方の提案に、一同それしかないかと頷いている。当の原田の心境のことなど知るはずもなく。
そして、土方は一度部屋に戻って取ってきたのだ。赤い布を。
「こいつ(みーこ)に使ったあまりもんだが……」
原田は、その布をつけることが嫌だった。しかし布をつける意味を考え仕方ないと腹を括った。
が――
「左之、なんか可愛いな」
「本当。可愛いよね。一君もそう思うでしょ?」
「……不覚にもっ」
「左之さん、それ可愛いし猫のままで良いよ!」
等と、原田の尻尾についた布を触って遊んでいる。
流石に「可愛い」と連呼されれば、怒るもので原田は大暴れ。可愛いと触ってきた幹部連中の手を引っ搔きまくった。
するとみーこが、原田にすり寄り一声鳴く。その瞬間、原田は引っ搔くのを止めたが何か文句を口にしているようだった。(人間には、文句が鳴き声にしか聞こえない)
「左之さん、良かったね。猫と会話出来るなんて最高じゃない」
「これ、会話してんのか?」
永倉の疑問に誰も答えなかった。
しかし、猫になった原田はみーこと会話を成立させているように見えた。
「にゃーにゃーうるせぇ……」
土方の呟きは鳴き声で掻き消される。
――こうして、原田は何故か猫として生きることになったのである。
(ちなみに、後日原田の尻尾の布は赤い紐に取り換えられた)
9.猫になった人間END
⇒10へ続く