思想と仲間
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背後から原田さんと千鶴ちゃんの声がする。
もう戻れない。戻るわけにはいかなくなった。
卑怯だと、誰かが笑うかもしれない。それでも、私は走った。
京を流れる小さな川の上に橋がかかっている。いつもは緩やかな流れの川だが、今日は龍のようにうごめいていた。
その時、原田さんが私に追いついた。ちらっと見れば、意外にも原田さんは怒っていなかった。
代わりに、驚愕と疑問が入り混じった感じの表情だ。
「何してるんだ?」
橋の上で止まり、川を眺める私に言ったのだろう。一定の距離をじわじわ縮めてくる原田さんに、私は微笑んでみた。一瞬にして、訝しい顔を見せた彼はその足を止めた。
私は、それを確認すると意を決して川を見た。
「民子?……まさかっ!!」
――私は川に飛び込んだ。
原田さんが私の名を叫ぶように口にしたのが聞こえた。
<原田視点>
民子が川に飛び込むことは、あいつが笑んだあと真剣な表情を見せた時に分かった。
けど、俺は止めることが出来なかった。あいつは、一回も躊躇することなく事を起こした。
俺の知る限り、いつもあいつは何かを決めるとき悩んでいた。昔からそうだ。
それが、今回は違った。
「原田さんっ! 民子さんは……」
前日の大雨で川はいつもより増水し、流れも早い。水は濁っていて、姿を確認出来なかった。
「……飛び込みやがった」
「え!?」
追いかけてきた千鶴も、橋の横に手をかけて覗き込んだ。
「こりゃ、もう……」
「っ!」
俺の言葉に千鶴は涙を浮かべて衝撃を隠せないでいた。それは俺だって同じだ。
あの民子が、こんなにもあっさり自らの命を断つなんて――。
「今日はもう駄目だな。流れが早すぎる」
明日、また探しに来ようと告げて、言葉を出せないほど泣いている千鶴に手を差し延べる。
――そして、屯所に帰り民子のことを報告した。皆、口には出さないが悲しみが深く新選組を包んだ。平隊士にとって、あいつは裏切り者なんだろうがそれでもあいつの組の連中は歎いている。平助だって同じだ。
が、平助は生きている。幹部連中だけの秘密。平助は山南さんと同じ薬を飲んだ。同時に、表では死んだことになり何も知らねぇ隊士にとっても、俺達にとっても今回のことは大きな出来事になった。
翌日、俺達は民子を探した。辺りの家に聞いて回り、川の辺や川の底などを探し、下流まで探した。
しかし、数日に渡り捜索したものの、どういうわけかあいつの遺体は見つからなかったのである。
~END~
あとがき(P27)→
もう戻れない。戻るわけにはいかなくなった。
卑怯だと、誰かが笑うかもしれない。それでも、私は走った。
京を流れる小さな川の上に橋がかかっている。いつもは緩やかな流れの川だが、今日は龍のようにうごめいていた。
その時、原田さんが私に追いついた。ちらっと見れば、意外にも原田さんは怒っていなかった。
代わりに、驚愕と疑問が入り混じった感じの表情だ。
「何してるんだ?」
橋の上で止まり、川を眺める私に言ったのだろう。一定の距離をじわじわ縮めてくる原田さんに、私は微笑んでみた。一瞬にして、訝しい顔を見せた彼はその足を止めた。
私は、それを確認すると意を決して川を見た。
「民子?……まさかっ!!」
――私は川に飛び込んだ。
原田さんが私の名を叫ぶように口にしたのが聞こえた。
<原田視点>
民子が川に飛び込むことは、あいつが笑んだあと真剣な表情を見せた時に分かった。
けど、俺は止めることが出来なかった。あいつは、一回も躊躇することなく事を起こした。
俺の知る限り、いつもあいつは何かを決めるとき悩んでいた。昔からそうだ。
それが、今回は違った。
「原田さんっ! 民子さんは……」
前日の大雨で川はいつもより増水し、流れも早い。水は濁っていて、姿を確認出来なかった。
「……飛び込みやがった」
「え!?」
追いかけてきた千鶴も、橋の横に手をかけて覗き込んだ。
「こりゃ、もう……」
「っ!」
俺の言葉に千鶴は涙を浮かべて衝撃を隠せないでいた。それは俺だって同じだ。
あの民子が、こんなにもあっさり自らの命を断つなんて――。
「今日はもう駄目だな。流れが早すぎる」
明日、また探しに来ようと告げて、言葉を出せないほど泣いている千鶴に手を差し延べる。
――そして、屯所に帰り民子のことを報告した。皆、口には出さないが悲しみが深く新選組を包んだ。平隊士にとって、あいつは裏切り者なんだろうがそれでもあいつの組の連中は歎いている。平助だって同じだ。
が、平助は生きている。幹部連中だけの秘密。平助は山南さんと同じ薬を飲んだ。同時に、表では死んだことになり何も知らねぇ隊士にとっても、俺達にとっても今回のことは大きな出来事になった。
翌日、俺達は民子を探した。辺りの家に聞いて回り、川の辺や川の底などを探し、下流まで探した。
しかし、数日に渡り捜索したものの、どういうわけかあいつの遺体は見つからなかったのである。
~END~
あとがき(P27)→