新八が追って来る。あの女の子を走らせているのだろうか。新八なら有り得る。

私は西本願寺の場所を道行く人に尋ねながら走った。そうして、西本願寺に向かうために登る階段の前に来たときはもう新八はすぐそこに迫っていた。これでも足と体力には自信がある。

江戸育ちを嘗めんじゃねぇええ、という勢いで階段を駆け上がる。新八が後ろから「止まれって！」と叫んでいるが知ったことではない。
ただひたすら局長目指して走る。

その時だった。前方から人の気配。まぁ、避けてくれるだろうという軽い気持ちで突っ込んだのがいけなかった。いや、良かったのかもしれない。


「左之ぉおおおお！！　その女捕まえてくれぇえええええええ！！」


新八の声量は、とんでもなく大きいもの。どうやら前方の人は知り合いらしい。
そう知ったとき、もう避けられなかった。


「！？」

「きゃっ」


ドンッと、ぶつかった。
階段で危うく後ろにこけそうになったが、その人は私を支えてくれた。


「大丈夫か？」

「あ、はい。すみませ……！？」


江戸気質と乙女心が天秤にかけられた。
顔を上げ、私を受け止めた人を見た瞬間だ。江戸気質が落ち、乙女心が上に上がったのだ。

そして、同時に乙女心に恋という名の重りが加わり天空へ向かって跳ね上がった。

つまり――私は恋に落ちた。