「……んだと？　てめぇ、誰にそんな口きいてんだ！？」

「てめぇだよ土方！　土方なんか、知らね」

「……」


額に青筋浮かべて、今にも殴り掛かろうと立ち上がる土方を止めたのは永倉だった。


「おおおおおお落ち着け！　土方さん！」


酔いも醒める出来事に、永倉は焦りだす。彼だけじゃない、藤堂も原田も同じ状況。沖田は相変わらず笑っている。
斎藤なんかは無表情だが、内心は何かしら思っているだろう。


「そうですよー。美波ちゃんは酔っ払ってるんです。ま、土方さんならもっと言っても良いよ、美波ちゃん」

「んだと！？」

「そそそそそ総司！　土方さんを煽るな！」


永倉と藤堂の手によって、土方を何とか落ち着かせる。


「あははは、美波ちゃんおいでー」

「んー？」


その隙に沖田は美波を手招きした。美波は、覚束ない足取りで沖田の許へたどり着く。そして、隣に腰を下ろした。

すると沖田は、美波にだけ聞こえる声で話しはじめる。


「左之さんに告白しないの？」


唐突な提案に、美波の脳は理解するのに時間がかかる。しかし、それを理解すると一気に体温が上がった。


「はぁああああ！？///」

「声大きいよ。だって、今の美波ちゃんならいけるでしょ」

「っ///」


酒に酔ってもまだ羞恥はあるようで、顔を赤くし顔を隠す。
それでも沖田は、美波に追い打ちをかける。


「良いの？　あの芸妓さんに左之さん取られても」

「Σ　それは嫌！」

「じゃあ、はい」


差し出された物に、美波は首を傾げた。沖田を見上げれば、ただにこにこしているだけ。


「これは……」

「お酒だよ。飲まないの？　意気地無しー」

「何だと！？」


沖田は酒の力を借りろと言っているのだ。告白は本来そういうものではないが、沖田が楽しんでいるというのは普段の美波だったら分かったはずだ。しかし、今は挑発に乗りやすい程度のほろ酔い。

美波は、沖田の手から酒を奪うと一気に飲んでしまったのだ。


「っ！」

「言っとくけど、それ結構強いお酒だからね。あぁ、もう遅いか」


けらけら笑う沖田の言葉はもう美波の中に入って来なかった。