この茶屋の不正は、茶屋経営のために京都所司代から特別に援助された金を横領していると噂があった。噂だし、確信ではないから軽く仕事をしていたのに部屋の中にあった物を見て、驚愕の色を隠し切れていない自分がいる。
それは、隣の隊士も一緒らしく顔を顰めている。


「あぁ、もう」


やっと言葉が紡げた。私は、中を見ながら外に向かって声を発した。


「左之さん、ちょっと来て！」

「……どうした？　なっ、これは」

「店主、この大量の武器は何かな？」


私の問いに、店主は気まずそうな顔をした。見れば、後ろに立っているこの茶屋の看板娘は口を押さえて驚きの表情。どうやら、このことは店主だけが知っていることらしい。


「おい、聞いてんのか？　この武器、何に使うんだ」

「それは、その……」

「しらを切るんじゃねぇぞ。隠し立てすりゃ、てめぇを尋問しなきゃならなくなるぜ」


その時だった。外から、一つの銃声がした。


「何だっ！？」


慌てて、隊士に店主を見張るように言い左之さんの後を追うと、そこには細身の背が高い男がいた。


「うわっ、すっごい髪の毛……」

「お前はっ、不知火！」

「よぉ、原田。奇遇だな」


どうやら知り合いらしい。
左之さんは、槍を構えた。隊士たちも続いて刀を抜いた。


「こんなところで何してやがる」

「何って、そりゃ長州が贔屓にしてる店主の危機だからなぁ」

「長州が贔屓！？」


思わず、叫んでしまった。不知火と呼ばれた男が、私の方を見る。すると、彼は一瞬固まった。


「……？」


そして、左之さんが遮るように私の前に立つ。


「なるほど、てめぇの女か。原田」

「だったら何だ。お前には関係ねぇ」

「ふん、原田には勿体ないくらいの上玉な女だぜ」


口笛を吹く音が響く。


「まぁ良い。もうどうせ、長州もここの店主は見捨てるだろ。たかだか茶屋の一角に隠してある武器なんざ、一握りだしな」

「そんなっ！」


いつの間にか、隊士に縄をかけられている店主がそこにはいて絶望したように声をあげた。


「何とかしてください！」

「知らねぇよ。俺は長州に協力してるだけだしな。……じゃあな、原田。今度会ったときは、勝負してやるぜ」

「……望むところだ」


疾風の如く、彼は去って行った。