エレベーターが一階へ着くと、そこにはトシの姿は勿論のこと誰の姿もなかった。
未だに状況が整理できていない私は、とりあえず外に出た。

時刻は深夜一時前。真っ暗な外に放り出さたのだ。
意味が分からない。
しかも終電はもう過ぎている。
どこに歩いて行けばいいのか。とりあえず、スマホを開いて泊まれる場所を探した。
そのうち涙が溢れて来て、画面が濡れる。拭いながら見つけた二十四時間営業のネットカフェ。
ルートを表示し、私はひたすら歩いた。

その間も色々と考えたのだ。
まずあの女の子は誰なのか。夜遅くに訪ねてくるような子。そして、鍵を閉めているはずの家に入れたってことは合鍵を持っているということ。
妹？　いや、トシは末っ子だ。
友達？　友達でも女の子が夜中に来て、しかも鍵を持っているってことはありえない。
後輩？　同様の理由でありえない。
――認めたくないけど、あの子との関係はそれしかないだろう。

トシが浮気してたなんて、信じられなかった。
そんな素振りもなく、疑いすらなかった。トシは要領が良いから、上手くやっていたのだろう。

しかも今回、あの子が来てトシはあの子を選んだ。だって、私をこんな夜中に追い出して走って行ったってことは……あの子を追かけたんでしょ？

トシと築き上げた三年が、私の中で崩れかけていた。




――……‥‥

トシから連絡があったのは、それから一週間後だった。
近くのファミレスで会いたいと、午後三時に約束をした。

以前なら、会うのが楽しみで仕方なかったけど今は本当に行きたくない。
憂鬱な気分だったけど、行かなくてはいけない。

二時五十分にファミレスに行くと、もうトシは来ていた。店員のお姉さんに待ち合わせだと説明して案内を断り、私は深呼吸してトシがいる席に近付いた。


「……お待たせ。早いね」

「あぁ。……とにかく座ってくれ」


向かい側に座ったが、私はトシの顔をまともに見れる気がしなかった。
さっきの店員のお姉さんが、水を持ってきてくれた。
「ごゆっくりどうぞ」と言われたが、ごゆっくり出来ないのだ。

緊張で喉が乾く。水をすぐに全部飲んだ。
インターホンを押して、お姉さんに新しい水を持ってきてもらった。
またもや「ごゆっくりどうぞ」と言われ、だから出来ないんだってと心の中で突っ込む。


「……そろそろ話、いいか」


水を飲んでいると、トシに聞かれた。


「う、うん」


コップをテーブルに置いた。


「回りくどい言い方は好きじゃねぇから、単刀直入に言う。俺と別れてくれ」

「……っ」


やっぱり捨てられるのか、と悲しくなった。


「三年も一緒にいたのに……？」


浮気されても、トシのこと嫌いになれなくて万が一にも私を選んでくれないかなと願っていた。
でも、その願いも虚しくトシはあっさり私を斬り捨てるのだ。


「あの子とは……やっぱり、そういう関係……だったの？」

「そうだ」

「私より、あの子の方が良いの？」


素直に別れてくれないと分かったからか、トシは溜め息を吐いた。
そしてめんどくさそうに言った言葉は、私を更にどん底に突き落とすものだった。