タバコの男 二部
名前変換とあらすじ
この章の夢小説設定【概要】
現パロ。タバコの男 一部
の続編。
土方に裏切られ、激しく
傷ついた。同じタバコの
臭いがすると、思わず振
り返ってしまう。そして
貴女は土方に復讐を決意
していたのだった。
【ページ数】
全9ページ
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「いらっしゃいませ」
静かなマスターの声が響く。私はチラッと店内を見渡すと、一番奥のカウンターに千鶴ちゃんとトシがいるのが見えた。
手前側に千鶴ちゃんがいるため、トシはこちらに気付かない。
だが、かすかにあの煙草の臭いがする。
私はすぐには二人の方へ行かず、手前のカウンターに立った。
「何にしますか?」
「……ブラッディメアリーで」
「……かしこまりました」
マスターが私の気持ちを察したのか、少し息を呑んだ気がした。
前回教えてもらったのは、カクテルにも花言葉みたいに意味があるということ。
私は調べた。
ブラッディメアリーは「断固として勝つ、私の心は燃えている」という意味があるそうだ。
「おまたせしました。ブラッディメアリーです。ウォッカとトマトジュース、カットレモンを添えております」
ウォッカは別に好きってわけじゃない。トマトジュースもはっきり言って飲まない。
だけど、これは私の戦いの決意でもあったのだ。
私はブラッディメアリーを一気飲みした。
「お客さん、酔いますよ」
「酔わなきゃやってられないです」
私はお金をマスターに差し出した。
「かなり多いですね。これとこれはいらないですよ」
「いえ、受け取ってください。迷惑料です」
「え?」
私は、鞄を肩にかけると奥のカウンターにいる二人に近付いた。
ここから私は女優だ。
「あれ? 千鶴ちゃん?」
震えそうだった。でも必死に堪えて千鶴ちゃんに偶然を装って話しかけた。
振り返った千鶴ちゃんは一瞬、力強い瞳を私に見せた。ついにこの時が来たね、まるでそう言っているような瞳だった。
「え? 嘘! 久しぶりー!」
千鶴ちゃんが立ち上がり、胸の前で小さく手を振った。オネエっぽいと思ったのは内緒だ。
「どうしたのこんなところで!」
「仕事帰りにちょっと寄ってみただけなの。……えっと……」
「あ、徳島さん。友達の早苗ちゃんです」
千鶴が体をさっと避けた。一気にあの忌まわしい臭いが漂ってきた。
ついに、私たちは顔を合わせたのだった。
この三年、ひたすら探した男。絶対復讐してやると誓ってからここまでが長かった。漸くゴールを目の前にしようとしている。
トシは私を目の前にして、目を大きく開いた。
「早苗ちゃん、こっちは徳島祐也さん」
ここで私が口を開く。
「徳島?……まだ平気で嘘ついてるの?」
そう問えば、トシはマズイという顔をして目を逸らした。
「千鶴ちゃん、この人と付き合ってるの?」
「え、付き合ってる、のかな……最近ちょっと知り合ってたまに一緒に過ごすっていう関係っだと思うけど……。知り合いなの?」
「知り合いも何も、この人が私を騙した詐欺男だよ」
ここで千鶴ちゃんがわざとらしく驚きの声をあげる。
そしてどういうことですか、とトシに聞いた。
しかしトシも嘘には慣れている。得意の作った顔で平然と答えた。
「誰かと勘違いしてるんじゃねぇか? 俺は会ったこともないぜ?」
すかさず私も反論に入る。
「勘違い? 何言ってるの? こんなに顔も声も似ている人が他にいるっていうの?」
「世間には似た人が三人いるっていうだろ? 困ったな。人違いだ」
本当に知らないという演技まで上手いトシだが、私は騙されない。
「無理な言い訳よ。小さい頃から一緒だったのに見間違えるわけないでしょ? それに、この煙草の臭い……トシが吸っていたのと同じもの。別人になりきっても、トシは煙草の種類は変えない」
「同じ煙草のやつなんてごまんといる。本当に人違いだ。何なら身分証も見せてやる」
そう言って差し出されたのは、免許証だった。確かに「徳島祐也」と書かれていて生年月日もトシのものとは違った。
だが私はそれを突き返し言い放った。
「そんなものあてにならない。トシは身分証偽造も簡単にやってたの知ってる。それもどうせ造ったんでしょ?」
「お前さっきから失礼だぞ。千鶴、他の所へ行こう」
逃げる気だ。
行く手を阻むつもりだったが、千鶴ちゃんが真っ先に動いた。
トシはまさか千鶴ちゃんが阻むなんて思いもよらなかったのか、驚きの表情を見せた。
「千鶴?」
「駄目です。早苗ちゃんが酷い目にあったの知っているから……徳島さんが本当に違うなら、きちんと誤解を解くべきです!」
「だが、どうやって解くってんだ? お前の友達は何を言っても信用してくれなさそうだぞ」
トシ、だよね……?
一瞬その疑いが私の中で生まれた。
本当に違ったらどうしようとさえ思った。
だが、やっぱりどこをどう見てもトシで雰囲気は作ってるから違うのは当たり前だろう。
勘を信じるか……。
「もし、貴方がトシでないなら……貴方の同僚でも友達でも何でもいい、貴方が徳島さんさんだって証言してくれる人を連れて来てよ」
「はぁ!?」
「直接でなくても電話でもいいから」
そう言うと、トシは黙ってしまった。
千鶴ちゃんが「徳島さん?」と首を傾げる。
「……まさか出来ない?」
「それは……」
「出来ないよね。貴方がトシなら、そういった人はいない。親とも疎遠にして、必要とあらば友達は雇ってた。でもこんな緊急だと、今ここですぐに用意できないでしょ」
トシはしばらく黙っていた。
しかしやがて何かを決めたかのような顔つきになり、フッと笑った。
「……やっぱ、テメェには押し切るのは難しいな」