恋文を待ちて
名前変換とあらすじ
この章の夢小説設定【概要】
土方は徳川の姫君から恋
文を貰った。
思わぬ送り主と、内容が
歌ということで返事が思
うように書けない――。
徳川の姫君として生まれ
た貴女は恋をした。しか
し相手は、幕府の下の下
にいる新選組副長の土方
歳三。彼に恋文を送り返
事を待つ。
【ページ数】
全6ページ
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――そろそろ春の訪れがやってまいります。
こうして歌以外で文を書くのは少し気恥ずかしいですが、こちらの方が貴方も返事をしやすいと思いまして。
初めて貴方を見た時、全身の気が抜けるような今までに感じたことのないものが込み上げてきました。顔に熱が集まり、激しい動悸に襲われそわそわと胸がおかしくなってしまいそうな気になりました。
侍女のお達に聞くと、それは恋だと教わりました。
たった一度見ただけなのに貴方の顔を忘れることはなかった。それどころか日に日に想いは募るばかりです。
この想いを告げるには長くなるので、それでは貴方に嫌われてしまうかもしれないから歌にして送りました。
しかし返って良くなかったのかもしれませんね。申し訳ありません。
しかし返事をくださったこととても嬉しかったです。
貴方が私と共に落ちて下さるというのなら、私はそれを喜んで受け入れましょう。二人で誰の干渉も受けない場所に……貴方はお忙しい身でしょうから、私はいつまでも待ちます。
いつまでも。
鶴
――……‥‥
土方は再び頭を悩ませていた。
どうしてこうなった、と。
「土方さん何書いたんです?」
内容に悩んでいると、沖田がまたもや現れ文を見られた。
それにも悩んでしまう。
「てめぇには関係ねぇだろ」
「またそう言って。悩んでるのバレバレですよ? 僕で良かったら聞きますけど?」
いつもなら余計なお世話だと言うところだが、今の悩みはどうも自分で解決出来そうになかった。
「不本意だが……実はな」
土方は話す。
結局、鶴姫に返す歌が思い浮かばなかった。仕事もあるし、自然と放置する形になってしまった。しかし、二度目の文が送られてきて今度こそ返さなければまずい。庶民からの文ならまだしも相手はとても身分が高いお姫様。
無視は出来ない。
そうは思ったものの、やはり姫様相手にどう書けばいいか分からなかった。どんな選択をしても無礼に当たる気がしたのだ。
「だからまぁ……自分が見た光景を俳句にして送ったんだよ……」
土方が少し目を逸らしてそう口にすると、沖田は呆れたように溜め息を吐いた。
「な、なんだよ……」
「土方さんって意外と小心者?」
「はぁ?」
「しかも特に意味のないそのままの下手くそな俳句を送りつけたとか、もう笑うしかないですね」
「仕方ねぇだろ! じゃあお前だったらどうした?」
「え? 僕はそんなお姫様から貰うようなことはないですから」
「例えばの話だ」
「そうですねぇ……」
沖田は考える素振りを見せた後、貼りつけたような笑顔で答える。
「君の顔なんて見たことないから正直分からない。僕みたいな下っ端よりもっと身近にいる人の方が良いんじゃないかな。って言いますね」
「……そのままだな」
「だって事実だし。はっきり言った方が良いですよ。で? 悩みって何ですか?」
「あぁ、俳句を送ったのは良いがそれで返ってきた文で……ここだ」
土方が指示したのは、最後の方の
“貴方が私と共に落ちて下さるというのなら、私はそれを喜んで受け入れましょう。二人で誰の干渉も受けない場所に……貴方はお忙しい身でしょうから、私はいつまでも待ちます。
いつまでも。”
という部分であった。
「なんで俳句送ったら、こういう解釈されるんだ?」
「……うわぁ。もう手遅れですよ。土方さん、これは迎えに行かないと呪い殺されますよ」
「おい、怖いこと言うんじゃねぇ」
「だって、普通はそのままの意味じゃなくてあれこれどういう意味か考えますよ。相手が考えた結果がこれだったんですから」
「んなこと言われても――」
「しかも、いつまでも待つって……土方さん行かないとこの姫様は死ぬまで待ちそう。で、死んでとうとう来なかった。あの人は嘘吐きだって末代まで祟られますよ。生まれ変わっても祟られるかも」
絶対ないと否定できなかった。土方は頭を抱え、どうしたものかと悩んだ。
「どんな俳句を書いたんです?」
「……それは聞くな」
「えー知りたいなぁ。土方さんが駆け落ちしようって伝えた俳句」
「だから! そんな意味で書いてねぇよ!」
沖田に教えたら最後。言いふらされるに決まってるので、土方は口を割らなかった。
「とにかく、だ。その俳句がなんで駆け落ちのように解釈されたのか知らねぇが……どう返事したものかとな」
「だから断ればいいんですよ。それはそういう意味じゃないって書いて」
「……」
「ま、普段は男の人に想いを伝えることのない姫様の一世一代の告白を断れるんならですけど?」
にやにやと笑う沖田に土方は心底イラついた。
END
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