恋文を待ちて
名前変換とあらすじ
この章の夢小説設定【概要】
土方は徳川の姫君から恋
文を貰った。
思わぬ送り主と、内容が
歌ということで返事が思
うように書けない――。
徳川の姫君として生まれ
た貴女は恋をした。しか
し相手は、幕府の下の下
にいる新選組副長の土方
歳三。彼に恋文を送り返
事を待つ。
【ページ数】
全6ページ
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「どうしたの、お美代」
さっと傍らにやってきたお美代の顔は輝いていた。
「来たのです!」
「?」
「こちらを!」
差し出されたものを見て、鶴は目を見開いた。
「これは……!」
「はい!」
受けったそれは文であった。
緊張しながらも、中を開けた鶴。その様子をお美代だけでなく、騒ぎを聞きつけてやってきた他の侍女たちも見守った。
しかしやがて鶴は「うーん」と首を傾げて悩んでいる様子を見せた。
「姫様……?」
何が書かれていたのか。
侍女たちは文を読んだ鶴が、顔を隠し恥ずかしがる様を想像していたのだ。
不安が過り、最初に声をあげたのはお達であった。
「もしや土方と言う男、姫様に無礼なことを……!?」
その言葉に、他の侍女たちも「えっ」とざわつく。
だが、鶴はそれを否定した。
「ち、違うの! なんていうか……」
見せた方が早いと思ったのか、鶴は侍女たちにその文を差し出した。
覗き込む四人の侍女たち。
「これは……」
お達が呟いた。
「どう思う? お達」
「何といいましょうか……。そのままというか……」
「でも、これは何かの比喩かもしれないわ」
文は土方歳三から送られて来たものに間違いはなかった。
しかし、そこに書かれた返歌がいまいち何が言いたいのかよく分からなかったのである。
「分かりましたわ、姫様!」
「何が分かったの? お美代」
「この“椿花”というのは姫様のことですきっと!」
「それでは前の句と合わせると姫様が落ちた人間だと侮辱していることになりますよ!」
叫んだお松の頭をお達が叩いた。
「これ! 姫様に向かってそのようなこと!」
「私じゃありません! 土方というこの男が……!」
「姫様にそのようなことをおっしゃるとは思えないと言っているのです」
「じゃあ、お達はどう思う?」
鶴から文を受け取ったお達はまじまじと文字を眺め口にする。
「椿の花というのは、花びらが散るのではなく花ごと落ちます。姫様のような方が自分に想いを持ちますと椿の花のように落ちてしまう、という諦めを促す歌かもしれません」
「えー……私はそうは思いません」
「ではお松殿はどのようにお考えですか?」
お松が続いて文を受け取る。
「そうですねー……。椿の花は姫様と土方という男を表わしているんですよ。共に落ちよう! という意味で決まりです! いてっ、何するんですか!」
「冗談はおやめなさい!」
「冗談じゃないですよ!」
侍女たちが盛り上がっていると、鶴がうっとりとしていた。そのことに気付いたのはお美代だった。
「姫様? いかがなされたのです?」
その声で言い争っていたお達とお松も、視線を鶴に移した。
「あの方が……私と共に落ちて下さるなんて……幸せ……」
「姫様……!? それはお松殿の良い分であってそうと決まったわけでは……!」
「お達は私とあの方のこと応援してくれないの?」
「えっ、いや、そういうわけでは……」
珍しく狼狽えるお達に、他の侍女二人は驚いて顔を見合わせた。
「まぁいいわ。私はお返事を書かなきゃ! 今度は普通の文にするわね」
そう言って立ち上がった鶴は、文机に小走りで向かった。