恋文を待ちて
名前変換とあらすじ
この章の夢小説設定【概要】
土方は徳川の姫君から恋
文を貰った。
思わぬ送り主と、内容が
歌ということで返事が思
うように書けない――。
徳川の姫君として生まれ
た貴女は恋をした。しか
し相手は、幕府の下の下
にいる新選組副長の土方
歳三。彼に恋文を送り返
事を待つ。
【ページ数】
全6ページ
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「全く、姫様には困ったものです」
「しかしお達様。恋とは良い物です。はぁ……」
「これ、腑抜けた顔をするでない!……私とて恋の良さは分かっております。しかし、姫様が想う相手をご存じでしょう? とても叶わぬものです」
「お殿様が庶民の者に惚れ、自分の妾に……というお話は聞きますが、どうして姫様が庶民の者に惚れ自分の相手にというのは聞かないのでしょう」
「……世の政、お家同士の争い。武家の女はそれに巻き込まれていくのです。姫様もいつかお家のために取り決められたお方の許へ行くのです」
「……折角、恋したお方に考え抜いた恋歌を送るというのに寂しいですね」
俯いたお松は悔しそうに自分の着物をぎゅっと掴んだ。
姫様には幸せになってもらいたい。そう度々口にするのがこのお松だった。
「……お松殿、今なんと?」
「はい?」
「姫様が恋歌を送られた?」
「あ、はい。一生懸命考えて書かれていましたよ」
「なんと! 恋歌だけ送ったとなればますます返信が来ないかもしれぬというのに……!」
顔を顰めるお達に、お松は首を傾げた。
「どうしてそうなるのです?」
すると、お達はぎろっと眼球だけをお松に向けた。
一瞬ビクッとなる。しかし、別に睨んでいるわけではない。歳を取り、瞼の皮膚が垂れ角度によっては睨んで見えるだけのことであった。
その証拠にお達の声色は普段と変わりないものであった。
「恋歌で来たからには恋歌で返すでしょう。普通の文と違い、歌と言うのは難しいものです。姫様とて、幼い頃より歌に優れている者に歌を学んできました。新選組は各地にいる剣に優れた者の集まり……。それは身分低き者からそこそこの者まで様々。そんな者たちが、歌で返すなど出来ぬのではないのですか?」
「しかし、絶対とは言えませんが……」
「そうですね。中にはいるかもしれません。が……やはり色々な面から考えても可能性は低いかもしれません」
お達の言葉に、お松は文机に向かう鶴を見た。
一生懸命紙に書いている鶴に、なんとなく切なくなった。
――……‥‥
「はぁ……」
あれから更に日にちが経った。鶴は窓の外を見つめ、ただ一度しか見たことのない土方を想っていた。
きっかけは壬生浪士組が新選組の名前を受けて間もない頃だった。
会津藩主が水戸城に新選組局長と副長を連れやってきたのだ。その時に、鶴は土方を初めて見たのである。
遠くからであったが、その顔立ちに一目惚れ。
それから時間が経ったが、想いは消えるどころか強くなっていく一方であった。
そしてついに鶴は土方に文を出したのである。
「もう一度……」
あの綺麗な顔立ちを見てみたい。
二度目の文を一方的に送って以降、日に日に溜め息が増えていく鶴に侍女たちもだんだん土方に対して思う所が出てくる。
なんで返事をよこさないとか、姫様直々の文に返事をせぬなど無礼だとか陰で色々口にしていた。
「姫様!」
そんな侍女たちの話も、お美代の声で終わりを告げる――。