恋文を待ちて
名前変換とあらすじ
この章の夢小説設定【概要】
土方は徳川の姫君から恋
文を貰った。
思わぬ送り主と、内容が
歌ということで返事が思
うように書けない――。
徳川の姫君として生まれ
た貴女は恋をした。しか
し相手は、幕府の下の下
にいる新選組副長の土方
歳三。彼に恋文を送り返
事を待つ。
【ページ数】
全6ページ
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「水戸徳川家の鶴姫様からだ」
「……え?」
沖田は目を白黒させた。
予想を超える名前が土方の口から出て来たからである。
「そういう反応か……」
「え? 冗談ですよね?」
土方は沖田の前に先程の文を差し出した。正確には、文の最後の部分を右手の平に乗せ注目させた。
そこには、確かに鶴姫の名前が書かれていたのである。
「……えっ、本当に?」
「だからそうだって言ってるだろ」
「……信じられない。そんなお姫様が下っ端の下っ端の新選組なんかに……?」
「俺だって最初は信じられなかった」
「しかもこんな年中仕事人間のつまんない男なんかに……!?」
「おい、総司てめぇ……」
「まぁ顔だけは良いですもんね。顔だけは」
土方はそっと文を机上に置き、沖田は一目散に逃げた。
「総司ぃいいいいい!!!!!」
土方の怒号が一日中響いたのだった。
――……‥‥
「お達、文は来ていない?」
水戸城に住まう姫君の一人、鶴は侍女である年寄りに問う。
「いいえ、来ておりません。姫様、本日何度同じことを聞かれるのですか?」
「だって! あの方に意を決して文を送ってもう二十日になるのに……そろそろ返事が来ても良い頃でしょう?」
「文もそうですが物を送ったり貰ったりするのには時間がかかるものです」
「でも、お美代はもう来ても良い頃だって」
鶴の侍女になって、まだ五年そこそこの女の名前を出すとお達は軽く舌打ちをした。
「いいですか、姫様。あまり期待なさらない方が宜しいかと存じます」
「どうして?」
「姫様の恋い焦がれるお方は、我等とは住む世界の違う者にございます。姫様のようなご身分の高いお方に文を貰いどう返事を書いたら良いものか……普通は悩むものです。しかも相手は忙しいでしょうから、時間もないでしょう。返信は来たら良いとお考えになった方が良いかと」
「……私が文を送ったら困るというの?」
「そうではありません。ただ、下の下の者が手の届かぬ存在のお方から恋文が来たら驚くでしょう。しかも姫様は並の者が手に入れられぬような紙をお使いになった。このお達に相談もなく」
「その件に関しては謝ったじゃない。つまり、気兼ねして返信が書けないと言いたいの?」
「それもありますが、姫様のような高貴なお方に見られても恥ずかしくないような文をお考えになるでしょう。……新選組副長、土方歳三。彼の者にそのような文が書けるとは思えません」
「お達、失礼よ! あの方を馬鹿にしないで!」
幼い頃より共にいるお達とは何でも話せる仲である。
互いに口を尖らせていると、新米侍女のお松がやってきた。
「姫様、ただいま戻りました」
「お松! 遅いじゃない! 待ってたのよ」
「申し訳ございません。少々人が多くおりまして……」
「そうなの? でも手に入れたのよね?」
はい、と言って手に持っているものを差し出すお松にお達が口を挟む。
「それはなんです?」
「あ、はい。姫様に頼まれて買い求めたものにございます。普通の紙です」
「普通の紙?」
すると鶴が笑顔で答えた。
「お達に言われて反省したの。今度は庶民の紙で送ることにしたのよ!」
「なっ……! 返事もないのにまた送るつもりですか!?」
「そうよ。返ってくるまで送り続けるわ!」
早速書かなきゃ、と鶴は自分の文机に向かった。
残されたお達は呆れ、お松はそんな様子を見て苦笑いをする。