恋文を待ちて
名前変換とあらすじ
この章の夢小説設定【概要】
土方は徳川の姫君から恋
文を貰った。
思わぬ送り主と、内容が
歌ということで返事が思
うように書けない――。
徳川の姫君として生まれ
た貴女は恋をした。しか
し相手は、幕府の下の下
にいる新選組副長の土方
歳三。彼に恋文を送り返
事を待つ。
【ページ数】
全6ページ
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土方歳三は困っていた。
目の前に広げた紙には達筆な文字がつらつら……。
重要な書類にも見える上質な紙だったが、そこに書かれているのは短歌。
溜め息一つ吐く土方の字ではない。
眉間に皺を寄せ頭を悩ませしばし――漸く新しい紙を取り出し墨を磨る。
目の前の届いた文を避け、新しい紙を整えると筆を持った。
筆に墨を含ませたはよいものの、土方の手はそこで止まってしまう。
何かを思案し、筆を紙の上に落とし文字を書く。
しかし
「あー、くそっ」
数文字連ねたところで紙を押さえていた左手に力を入れた。
くしゃっと皺になった。
そしてまた新しい紙を出し、思案し筆を進める。
が、それもまた丸めてしまった。
何度か同じことを繰り返し、頭を抱えていた時だった。
視界の隅にあった、達筆な文が何者かの手によって取り上げられたのである。
驚いた土方は慌てて振り向いた。
「うわ、凄い綺麗な字ですね。土方さんと違って。紙もかなり上質ですよ」
「総司、てめっ……いつからっ!」
そこには文をまじまじと眺める沖田総司の姿があった。
内容を読まれることに焦った土方は手を伸ばしたが、それをひょいと軽くかわすのが沖田である。
「声かけたのに返事がないのがいけないんじゃないですか。うわぁ、重要な文かと思ったらこれ熱烈な恋文じゃないですか!」
「てめぇ! 返しやがれ!」
「嫌ですよ。しかも凄い上手い恋歌で送られてきてる……! これじゃあ冴えない俳句しか生めない土方さんが返歌出来ないじゃないですか!」
「下手なことは分かってんだよ! 良いから返しやがれ!」
沖田の持つ文を取り返そうとするが、全て踊るように避けられてしまう。
「悩んでるんですよね。だからこの有様なんですね。あっ」
部屋中に転がっている書き損じた丸めた紙に視線をやる。その隙に土方は文を取り返した。
「それにしてもそんな達筆で上手い恋歌を送ってくるなんて……誰なんですか? 上質な紙だし、そこらへんの女の子じゃないですよね?」
「……誰だっていいだろ」
一瞬、口が滑りそうになったが相手は沖田である。文の送り主を聞いた途端の反応は目に見えていた。
「気になるじゃないですか。教えてくれないなら、皆に言いふらしますよ。土方さんが上質な紙に綺麗な字で気品のある歌が書かれた恋文を貰ったって。近藤さんに知られたら……」
「! や、止めろ!」
「じゃあ、教えてくださいよ」
これ以上ないというくらいに笑顔を浮かべた沖田に土方は言葉を詰まらせた。
しかし、言わなければあの近藤勇に知られてしまうかもしれない。
多分、いや絶対根掘り葉掘り聞かれ――。
土方は苦虫を潰したような顔をし、分かったと呟いた。
「わぁ、本当ですか!」
「ただし! 絶対誰にも言うんじゃねぇぞ! いいな!」
「はい!」
信用ならないが、もう逃げ場はない。
土方は意を決して口を開いた。