敵討ちのために
名前変換とあらすじ
この章の夢小説設定【概要】
貴女のお姉さんは新選組
女性隊士だったが、ある
日お姉さんは遺体となっ
てかえってきた。
剣術に優れている貴女は
病弱だった兄の遺言で敵
討ちを決意。京に向かい
名前と正体を偽り新選組
に入隊するのであった。
【ページ数】
全12ページ
【備考】
・恋愛要素は少なめです
が多少あります。
・後半が原田寄り。
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そんなこんなで、入隊が決まった雪野だったがどの組に入るか――当然ながら土方が決めた。
幹部の皆と雪野を集めて、言い渡された決定事項。それは、雪野の姉・雪奈の影を感じることが出来る話し合いだったのである。
土方は、雪野を十番組に配属させた。
これには十番組の組長である原田左之助(この時、正式に幹部紹介をされた)以外の組長が文句をつけた。
が、覆されることはなく土方は大真面目に理由を話した。
曰く、
「前の小競り合いで、十番組は八名程命を落とした。問題はねぇが、他の組と比べりゃぁ少ないのは分かってんだろうが。……分かったなら文句言うんじゃねぇよ」
この話をされ、部屋の空気が重くなったと雪野は感じていた。どうしたのか、と思いそれぞれの顔を窺っていると不意に藤堂平助が呟いた。
「雪奈は家に帰したんだよな……?」
心臓が跳ね上がった。思わぬ時に亡くなった姉の名前が出てきたのだから、当然なのだが――。
それでも顔には出さず。空気が更に重くなるのを感じた。
「あぁ」
答えたのは土方だった。
「平隊士が届けた。報告も受けたから、ちゃんと届いてるはずだ」
「そっか……」
「……というわけだ。原田、今日から芦田はお前の組だ。良いな」
「……あぁ」
こうして、解散したのである。
――それから数日。雪奈が生前、十番組にいたと察した雪野は原田に話を聞く機会をうかがっていた。
しかし、そこは幹部と平隊士。なかなかそういった話をする時がない。あるのは、公務のことや稽古関連のこと。
とても、私的な話をすることが出来なかった。
それでも「姉上は平隊士だったが、原田さんとそれなりに仲が良かったと思うし(家に来た平隊士の話や、今まで自分が他の平隊士から聞いた話からすると)、いつかは私も話す機会が巡ってくるはず」と、諦めなかった。
そしてその時は、突然やってきたのだ。
――……‥‥
その日、雪野はあろうことか庭で烏に襲われ逃げるために廊下を走っていた。
そして曲がり角で、原田とぶつかったのである。
額から血を流す雪野を見て、原田はぎょっとした。
「大丈夫か!?」
「え、あ……す、すみません!」
尻餅をついていた雪野は、慌てて立ち上がった。
「俺は構わねぇがお前、血が出てるぜ!?」
「えっ!?」
「ほら、ここ……」
身長の低い雪野は当然、原田から見下ろされることになる。
心配そうにする原田に突如自分が女であることを思い出した雪野は、顔の熱が上昇するのを感じ慌てて俯いた。
「だ、大丈夫ですっ……」
「おい、下向いたら――」
血が床に垂れ落ちた。
「うわぁあああ!!!」
「落ち着けって! 俺のせいでっ――とにかく手当てするぞ!」
そう言って、雪野の手首を掴み引っ張った。
原田に手当してもらっている間、雪野の顔のほてりが収まることはなかった。
しかし、相手は自分を男だと認識しているため下手すればそっちの気があると思われてしまう。そう危惧した雪野は首を横に振って、気を紛らわそうとしたが原田が「動くんじゃねぇ」と片手で頭を押さえつけるので意味がなかった。
「……よし、終わったぜ」
しばらくして、原田がそう口にした。雪野はほっと胸をなでおろした。手当道具を収めるために雪野から少し離れたからである。
「ありがとうございました」
「いや、俺のせいで怪我させちまったしな」
そこで雪野は初めて原田が勘違いしていることに気付いた。
「え? 原田さんのせいじゃないですよ?」
「は? でも、ぶつかっただろ」
「あ、すみません。先ほど、烏に襲われまして……つつかれたんですよ」
「はぁ!?」
驚きの色を隠せない原田に、雪野は申し訳なく感じた。
「すみません……」
「いや、それは良いんだけどよ何で烏に襲われたんだ?」
「それが、烏が屯所の子猫を苛めてたんで刀で追い払ったら逆襲受けました」
流石の原田もなんと声をかけたらいいか分からず、言葉を詰まらせた。
「……本当に、ありがとうございました。組長に手当させるなんて最悪ですよね」
「あー……まぁ、それは気にすんな」
その時、ふと頭に雪奈の事が過る。手当のことで頭がいっぱいになってた雪野にとってそれは、現実に引き戻された感覚であった。
しかし聞くなら今しかない、と雪野は原田に声をかけた。
「ん? 何だ?」
「聞きたいことがあるんですけど……宜しいですか?」
「あぁ、俺に答えられることなら良いぜ」
気前よく返事をする原田。これが平隊士から好かれるわけか、と思いつつ雪野は口を開いた。
が、雪野が雪奈の名前を出した瞬間、原田の顔が曇った。
「何で、そんなこと聞くんだ……」
まるで聞いちゃいけないような雰囲気。しかし、ここで引き下がるわけにはいかない。
「副長に配属を言い渡された時、藤堂さんが言っていました。その時、皆さんの空気が何か重くなった気がしたんです。それに、他の隊士からもよく聞く名前ですし……どんな方だったのかなと」
原田は答えなかった。目を合わせようともしなかった。
やがて、
「それについては教えられない」
と、そのまま立ち去った。
逃げるように出て行った原田を追いかけることも出来ず、雪野はしばらく動かなかった。