敵討ちのために
名前変換とあらすじ
この章の夢小説設定【概要】
貴女のお姉さんは新選組
女性隊士だったが、ある
日お姉さんは遺体となっ
てかえってきた。
剣術に優れている貴女は
病弱だった兄の遺言で敵
討ちを決意。京に向かい
名前と正体を偽り新選組
に入隊するのであった。
【ページ数】
全12ページ
【備考】
・恋愛要素は少なめです
が多少あります。
・後半が原田寄り。
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抜けた――その時である。
沖田は右へ振り返りると同時に、雪野の頭へ向かって横に木刀を振るった。
その太刀筋は素早く、雪野の頭に思いっきりぶつかる、と皆が思った。
しかし、雪野はそんな行動を予測していたのか木刀が当たる寸前に沖田の視界から消えたのだ。
いや、正確にはしゃがんだだけなのだが。
沖田が気付いた時には、雪野の木刀が己の足首に迫っていた。
周りがそれ以上に驚いたことが一つ。雪野は身体が軟体であった。皆が目撃したのは、身体に対して縦方向に両脚を開脚し、上半身を捻って木刀を沖田の方へ向ける姿。
膝を曲げることなく、地面へぴったりと脚をつけて信じられない程に上半身が回っているのだから、誰もが息を呑んだ。
しかし、そこは有名な沖田総司。咄嗟に後ろへ避けたのだ。体勢を少し崩すものの、すぐに構え直し、雪野に迫った。
ここで焦るのは雪野の方。柔軟な身体のせいで立ち上がるのに時間がかかってしまったのである。片足をついていたならまだしも、両脚とも太股からかかとまで地面についていたのである。
(間に合わない!!)
はっきりと、そう思った。
――が。
「っ!?」
突然、沖田の動きが停止した。そして、沖田は大きく咳込み片膝をついたのだ。
今が機会。そう思った雪野はすぐさま立ち上がり沖田に木刀を向けた。
だが、それ以上何もしなかった。
咳き込む沖田は、鋭い目つきで雪野を見た。それはまるで「こんな機会ない。今なら簡単に勝てるよ」と言っているようだった。
しかし、雪野はそのまま刀を降ろした。
新選組一同、甘いやつと雪野を認識した。
「何で、叩かねぇ?」
土方が問うた。
「実力じゃ、ないからです」
「戦場だったらそんなこと言ってられねぇんだぞ」
「分かってます。でも……相手が弱ってるときに攻撃するなんて、そんなのは武士じゃない」
一瞬、空気が揺らいだ。
「……そこらへんの辻斬りと一緒になりたくありません」
土方と見つめ合う。土方が何を思っているか、それは分からない。しかし雪野は思っていた。
(父上の言葉、真似しちゃった……)
と。心臓が高鳴っていた。
土方なら「それお前の言葉じゃないだろ」と見透かされそうな気がしたからだ。
しかし相変わらず、何も言わない土方にとうとう雪野は目を逸らし「帰ります」と口にした。
決して、敵討ちを諦めたわけではない。他にも方法があると思ったのである。
雪野が去ろうと、背を向けたときだった。土方が「待て」と漸く言葉を発した。
振り返ると、土方は小さく息を吐き
「入隊を認める」
と一言。そのまま出て行った。
残された雪野や、他の隊士は何が起こったのか理解出来ないままで沈黙が続いたが、しばらくして「うぉおおお!」という声が上がった。
それから「やったな!」とか「すげぇぞ、お前!」と隊士から持ち上げられたが、当の雪野はさっぱり意味が分かっていなかった。
すると、沖田が雪野に近づいてきた。
「良かったね。君、何か認められたみたいで」
「は、はぁ……。でも、何で?」
疑問を口にすると、別の男が雪野に近寄り答えた。
「恐らく、副長は試したのだ」
「え?」
「卑怯な真似事をする奴や、総司を前にして逃げるような腰抜けは新選組にはいらない」
「え、えっと……」
「一君。戸惑ってるよ」
一君と呼ばれた男は、慌てて「すまない」と雪野に言った。
「俺は斎藤一。新選組三番組の組長をしている」
「あ、はい。宜しくお願いします」
「それにしても君、身体柔らかすぎじゃない?」
沖田がそう話題を切り出すと、横から「それ、俺も思ったんだよなー!」ととても元気な少年が出てきた。
その身のこなしは軽く、雪野は少し気圧された。
「平助、落ち着け」
その少年を平助と呼び、地面に押し付ける勢いで頭を押さえつけた男二人。
次から次へと登場する新選組の隊士に、雪野は言葉を呑んだ。
「ちょっと、そこの三人組。うるさい。答えが聞けないじゃない」
沖田が軽く制止すると、雪野を見遣った。
さぁ、答えなさいとでも言うかのように。
「あ、えっと……昔からです」
そう口にすると、平助と呼ばれた少年が声をあげる。
「昔から!? それにしても柔らかすぎじゃね!?」
「そう言われても……」
「まぁ、そうだよな。でもあれで総司の攻撃避けたのってすげぇな!」
「あぁ、あれは……」
言葉に詰まった。
「あれは? 僕の攻撃避けれるなんて、平隊士でもなかなかいないよ」
(言えない……)
「うむ。偶然とは言い難い。決まった型ではなく、自由な動き……予想もつかぬ動きであった」
(言えないよ……)
「よっしゃ! じゃあそいつ、俺の二番組に入れてやる!」
「はぁ!? しんぱっつぁん、ずるいって! 俺んとこに入れる」
「おいおい、待て。二番組も八番組も人いるだろ。十番組の人数不足考えたらこっちだろ」
「僕と戦ったんだから、僕のとこに決まってる」
「喧嘩をするな。喧嘩にならぬように、三番組が貰い受ける」
「貰うって、物じゃねぇんだから!!」
ぎゃーぎゃー言い合いを始めてしまった男たちをしり目に雪野は、一人遠い眼をして思った。
(言えないよね。……さっきの攻撃避けたんじゃなくて、足元滑らせただけだって……。しかし上手いこと滑ったから幸運だったなぁ)
と。