2016.4.4~2018.3.1

『平和が忍社会にもたらすこと~改革編~』



「……俺は忍になりたくねぇ」


目の前に座る彼は言った。
次、アカデミーを卒業する予定ではあるが正直忍にはなりたくないと、私のところに相談に来たのだ。


「でも、母さんや父さんはそんなの許さないだろうし」


こういう子供も多くいる。
親が忍で、小さい頃からアカデミーに入ることは当たり前という空気で育った。そして自動的にアカデミーへ入学する。
入ったばかりの頃は学校が楽しくて、何の疑いもなく通い学ぶ。しかし、ある程度成長してくると「自分の進みたい道じゃないな」とか或いは「アカデミーに行って良かった」とか、そこに自らの意思が強く出てくる。


「許さないって、相談はしたの?」


そういう現象は、まぁかつて忍同士が敵対していた時代にもあったが――。


「相談は……してない」

「だったら、まずは相談してみるべきじゃない? それとも相談を聞いてくれないご両親なの?」

「……分からねぇ。けど、昔から親戚が集まると俺は忍の道を歩む前提で話を進められる。俺だけじゃなく弟もだ。弟は満更でもない様子だけど、俺はずっと疑問に思ってた」


少年は膝の上にある拳を更に強く握りしめた。


「そりゃ、アカデミー入った頃は俺だって忍になりたかった。忍である親の姿見て、かっこいいなって思ってた。けど……」

「……けど?」

「……段々分かって来た。忍は遠征とかもあるのに、父さんと母さんは一年中家にいてたまに任務に行ったと思ったら夕方には帰ってくる。俺や弟がアカデミーから帰ってくる時間にはもう家にいる。そんなに仕事があるわけじゃないんだって」


――特に昨今は、忍の仕事が減っている。昔より忍を諦める子供が増えているのも事実だ。


「憧れだけじゃ、忍にはなれねぇよ……」


将来の安定を望む子供が急増している。

でももしかしたら、そんな流れが変わるかもしれない。
私が少年の診察を終えると、外に火影の遣いが待っていたのである。急ぎではないということで、仕事が終わった後で火影室に向かった。

火影室に入ると、そこにはいつもの側近はおらず火影のみ。
彼はこちらに背を向けていたが、私が中に入るとくるりと振り返った。


「私に話したいことがあるとか……」

「あぁ。すまねぇな、わざわざ来てもらって。用事ってのは他でもない。この前のことだ」


この前の事。私が心理学を使って、アカデミー入学者を減らそうとしている疑いがかかったときだ。まぁ、疑いは晴れたけど。


「あの後、早速会議を開いたんだ」

「え?」

「やっぱ、デスクワークばっかじゃ駄目だな。上役たちもあまり事態を把握していなかった。……すまなかった」

「え!?」


火影は私に頭を下げた。流石にそれは驚く。


「ちょ、頭を上げてください! 火影様がそんなことする必要ないですって!」

「悪いと思ったから謝る。そこに火影もくそもねぇよ」


それから、火影は椅子に座ると仕切り直しというように「さて」と口を開いた。


「火影として俺は早急にこの問題を何とかしたいと思ってる」

「何とかなるんですか……?」

「確かに難しいことかもしれねぇ。けど、やらなきゃ木ノ葉に住む多くの人間が困ったままだ」


すると火影は資料らしきものを手に取った。


「少し聞いてくれるか?」


何をだろうか。
私はとりあえず頷いた。


「課題は山積みなんだけど、上役会議で話し合った内容だ。まず忍の仕事をとにかく増やそうということになった。経済的に子供が生めないのは今後の忍世界に関わってくる。そして、忍の仕事で生活出来るようになるまで回復すれば、その背中を見た子供たちの向上心が出てくる。中忍・上忍と階級が上がることで稼ぎが良くなるしな」

「平和になったとはいえ、まだまだ五大国の意思に反する勢力はいますからね。忍が減るのは極端に言えば国を滅ぼすかもしれませんしね。またいつ強大な力が出て来るか……」

「それなんだよな。いざと言うとき、皆を守るには忍は必要不可欠だ。……それに、仕事を増やさねぇと抜け忍が出てくる危険もある」


確かにそうだ。
平和なのは良いことだが、生活の為には里の許にいては駄目という声も時々聞く。引っ越しや、仕事を確保するためにフリーの忍になって各地を点々とするならまだ良い。
最悪なのは、かつての暁みたいに里を抜けて犯罪で稼ぐことだ。
忍の裏社会の方が稼げるのもまた事実なのである。


「で、課題が出てくる。どうやってその仕事を確保するか。会議でその事が出た」

「解決しましたか?」

「いや……。結論から言えば現段階ではこれというのは出てねぇ。高収入が得られる大名の護衛任務は今もあるからそれは良いとして、それ以外の仕事をどこから得るかが問題なんだ」


かつて、高収入と言われた暗殺任務や他国への潜入調査。それが今はない。
里が出した任務の報酬は、里外からの任務依頼で木ノ葉が貰った報酬によって成されていた。
里外のお金持ちから持ちかけられる任務も、最近は下忍でも出来るものばかりだと聞く。
報酬も少なく、里の取り分も減る。
里から出す任務報酬も少ないし、任務と報酬が割に合わないとなるともっと不満が出てくる。


「簡単に言うと、里以外で金を払ってもらう先がなけりゃ難しいってことだな」

「今後の課題ですね」


火影は頷いた。


「で、次に出た話はアカデミーの教育費を安くしたらどうかっていうことだった」

「教育費ですか。確かに高いかもしれませんね。特に仕事がない人は」

「ただ、教師の人件費をどうするかって話だ。アカデミーの教育費が減るってことは、人件費も減ることになる。それじゃ、教師の不満は高まる。ま、これについては税収が第一候補だ」


火影曰く、観光客を木ノ葉に増やすことを目標にすることでそれを成すらしい。
今でも多いが、今現在忍の報酬を税収で賄っている部分もあるらしく(知らなかった)教師の人件費もとなれば、もっと増やさなければならないということだ。


「難しそうですね」

「そこで出た話が、里同士の絆をもっと深めるということだった」

「もっと深める? 今でも十分だと思いますが……」

「いや、まだ行けるはずだ。そのためにまず、忍同士で合同任務を時々行うのが良いんじゃないかって案が出た。これにはまた敵対し戦争になるのを防止する役割もあるしな」


合同任務かぁ……。
かつてじゃほとんど考えられないなぁ。


「まぁ、まだ穴だらけだし木ノ葉内だけで出た話だから上手く行くかわかんねぇけど。……以上の事を一週間後の五影会談で話して見ようと思ってる」

「早いですね……!」

「お前のお陰だ。まだ、俺達上層部に木ノ葉の皆の不満の声は上がってない。けど、お前が教えてくれた。じゃなきゃ、俺は今でも知らないままだった。……ありがとう」

「!?」


またも頭を下げる火影。


「五影会談じゃ、もっと良い案が出ると思う。課題も何とかなるかもしれねぇ。とくに忍の仕事を増やすことが、糸口になると思ってる」

「そうですね。今の段階で、忍が副業として一般人と同じ仕事をするんで一般人の仕事がどんどん取られていっていますから。特に忍って動きも俊敏だし、出来る忍は影分身使えますから……経営者にとって最高の人材ですよね」

「シカマルも同じこと言ってた。一般の奴らから不満が聞こえてこねぇってのが不思議なほどにな」


席を立ち、再び外を眺める火影。何となく寂しそうな背中をしていた。
何となくもう話が終わるという雰囲気を察した私は、ドアに向かって歩いた。そして取っ手に触れてから、言葉を発した。


「大丈夫ですよ、多分」

「え?」

「あの戦争の時。火影様に魅了された人は沢山いる。私も、火影様の強さを知り優しさを知り……命も助けてもらった一人です。だからこそ、皆着いてくると思います。きっと何とかしてくれると信じてますよ」

「……プレッシャー、かけてくるなってばよ」


苦笑する火影様に思わずにやけてしまう。(決して変な意味じゃないよ)

そのプレッシャーを乗り越えるのが、うずまきナルトでしょう?






――……‥‥

(あ、あとついでに言っときますとね)
(?)
(子供たちの体力強化も改革案にお願いしますよ。私もですが同僚が嘆いてました。体力なさすぎなんで、そういう授業増やすとか何かお願いしますね)



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掲載期間:2017/5/1~2017/7/7
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