2016.4.4~2018.3.1

『平和が忍社会にもたらすこと~少子化編~』



うずまきナルト。かつて里を救い、世界を救った中心人物――。
今や火影になった彼と、彼の側近である奈良シカマルが私をじっと見つめる。
こんなんだから火影室は緊張する。


「最近、アカデミーの入学人数が減っている」


火影がまず口を開いた。


「特に今年は昨年の半分だった」

「はぁ……」


チラッと奈良シカマルを見る火影。すると今度はそちらが話を続けた。


「調べた結果、その原因の一つとしてあんたの名があがった」

「私の、ですか?」

「普通ならそうですか、で終わるんだが……あまりにも人数が多かったんで、入学を取り消した家や親が忍なのに入学させなかった家に聞き込みに行った」


だいたい察しがついた。
先日の子供の意見を遮ってまで話し続けた母親の顔が浮かんだ。
もちろんあの人だけじゃないけども。


「そんで、あんたの名前が出たんだ。一流の先生だって忍を辞めた、先生の言う事なら、先生が忍になるのは辞めとけと言った、先生がいかに忍の未来が絶望的なのか教えてくれたから子供に苦労させたくない……とのことだ」


なんということだ。
私は相談には乗ったが、はっきりと辞めなさいとは言っていないはずだ。


「何か言いたいことは?」

「はい、確かに多くの保護者からアカデミー入学の相談は受けました。しかし、私ははっきりと辞めなさいと言ってはいません。あくまで、相談に乗っただけです」

「……あんたのことは調べさせてもらった。かつては忍だったらしいじゃねぇか。けど、第四次忍界大戦が終わっても五大国が連合を組んだままこの先も行くと見込んで辞めたんだって?」

「仕事がなくなると思ったからです」

「確かに昔より現状はそうだ。平和になったからな。それで、それを持ち出して子供の親にアカデミー入学は薦められないと言ったと聞いたが? そしてアカデミーの入学者を意図的に減らそうと企んでるとか」


ピリッとした空気になった。
鋭い視線を私に向けてくる奈良シカマルに、火影が彼の名を呼び宥める。


「そんなことはしません。大抵、私に相談に来る人は迷っていると口では言いますが、実はもう心の中で決まっている人が多いんです」


そう告げると、火影がどういうことだと少し身を乗り出した。


「主に保護者が忍にさせない道を望んでいるんです。この前なんか、子供は忍になりたいと言うのに母親がいかに子供が忍に向いていないか、一流になれないかを熱弁していました。子供を意見を聞きましょう、と促しても遮るんです。私の経験を聞くと、満足して診察途中なのに帰って行きました」

「……」

「……自分の中の答えが正しいことにするために来ている人が多いです。そうでない人もいますが。親が望む答えを私が出すまで納得しないし、出したらすんなり受け入れて帰る人ばかりです。私に親が何となく決めた答えを正しいと言わせるために、あれこれ言葉で誘導してこようとするんです」

「……そういう親が多いのか?」


火影は俯き加減で聞いて来た。


「さっきも言いましたが、全員じゃないですよ。ちゃんと“相談”に来ている人もいます。でも、最近は増えていますよ、そう人も。親が忍になるのに反対で、子供はなりたい。また、親はなってほしいのに子供が嫌だというのも稀にあります」

「……そう、なのか」

「“先生がいうなら間違いない”というのが欲しいんですよ。だから私がアカデミー入学希望者を意図的に減らしているわけではありません。事実、私に相談してきた人の中にアカデミーに入った人いますでしょ?」


私の問いに奈良シカマルが「まぁそうだな」と視線を逸らして答えた。


「そもそも子供の数が減っているから、アカデミー入学者も減るのは当たり前なんじゃないんですか?」

「それはこっちも分かっている」

「人々の声を聞いたことがありますか?」


すると火影が詳しく聞きたいと申し出た。
知らないのか、と驚きと共に溜め息が出る。


「その一、仕事がないから収入があまりなく子供を作れない。作っても一人が限界。その二、収入がない忍が副業をするので雇い主が後継ぎの子供がいなくてもやっていける。その三、平和になったので任務で死ぬことは減り、そんなに急いで子供作らなくても良いと思っている。その四、忍術がなくても生きていけるので一族が絶えても誰も困らないだろう」

「……」

「その五、子供は一人で十分。これは、本能的に人は命の危機にある程に子供を作ろうとするからです。その六、忍になったらいざと言うときに死ぬかもしれない。たった一人の子供を、失いたくはない。だからアカデミーには入れたくない。……以上が本件に関して今まで私の許へ来た人たちが口にしていたことです」


少し早口気味に告げた内容だったが、どうやら通じたらしい。
火影は項垂れ、奈良シカマルは苦い顔をしている。というかこの顔は知っている顔だ。
しかも彼は火影に言ってないと思われる。


「あなた、知ってて火影様に言ってないですよね?」

「え? シカマル、そうなのか?」

「……知ってたっていうか、そういう空気を感じてた程度だ。確証はなかった」

「なっ!」


火影は椅子から勢いよく立ち上がった。そして、両手を机について彼を睨むように見つめた。


「確証がなかったら報告しないのかよ!」

「仕方ねぇだろ。曖昧な情報だけを頼りに変な改革を入れると混乱を招くだけだ」

「だからって火影である俺に何も言わないのかよ!」

「今、火影の仕事はかつてのどの火影よりも多い。影分身を使っても時間がかかりすぎる。一気に仕事を持ってきても追いつかねぇってのはお前だって分かってるはずだ。いくら影分身でも、本体は一つ。お前は寝不足で目の下クマ作ってるし、家族にも構ってられねぇ。だから、仕事には時期と順番ってもんがあるんだよ。……まぁ、今回のは俺が優先順位を見誤った。もっと早く確証を得る調査をしとけばよかった。悪かったな」


火影は無言で何かを考えた後、しぶしぶ椅子に戻った。


「あの、私は……」

「あぁ、疑ってすまなかった。もう帰って良いぜ」

「はい。では火影様、失礼します」

「あぁ。ありがとな」


火影室から出る時、火影様がこの度の問題を最優先事項に持ってくると口にしたのを聞いた。






――……‥‥

(シカマル、すぐに上層部を集めて会議を開く。手配してくれ)
(分かった。すぐに集める。……ナルト)
(ん?)
(今回の件、もしかしたらいくら悩んでも上手く行かないことになるかもしれねぇ。改革案を実行しても別の問題があちこち出てくる可能性が十分にある。そうなれば反感を買うことだって少なくはないぜ。覚悟は出来てるんだろうな)
(……んなもん、火影になる前から出来てる。それにもうここまで来たら後には引けねぇしな。やり遂げてみせる)



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掲載期間:2017/2/2~2017/5/1
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