2016.4.4~2018.3.1

『ただの伝令役ですから』



おいおい

誰かが呼ぶ。
でも決して振り返ってはならない。

おいおい

繰り返す呼びかけに無視を決め込み、前へ進め。
振り返ってしまうと、この世のモノとは思えない程の恐ろしい顔が待っている。

おいおい

例え、それが知っている人の声であろうとも
絶対に応じてはならない。

おいおい
おいおい

おいおい

……

チッ、ニガシタカ……




「出口まで逃げたその忍は、耳元で吐息と共にそんな声を聞いたのです。それ以来、その忍はどんなことがあってもそこに近付くことはありませんでした」


話が終わり、三人の顔を見てみると一人は涼しそうな顔をし一人は緊張感を漂わせている。しかしもう一人は――
真夏の蒸し暑さと蝉のじりじりとした鳴き声がまるで意味がない。ガタガタと震えている。


「えっと……ボルト? 大丈夫?」

「だだだ大丈夫だってばさ……!」

「全然大丈夫そうじゃないね。ボルトっていっつも強気なのに、こういうのは苦手なんだ?」

「平気そうにしてるミツキが凄いよ。ボルト程じゃないけど、私もちょっと怖かったよ」


ボルトが尋常じゃないくらい震えているんですけど……。これは大丈夫か?

ちょっと不安になりつつ、私は切り出した。


「えっと、今話したのはとある小国から来た使者が語っていたことでね……話に出て来た洞窟ってのがあるらしい。でも、実際幽霊なんているわけない! とその国の長は言うんだとか。忍術の類に違いない! ってね。それで、木の葉に原因究明を求めて来たってわけ」


そこまで言うと、サラダとミツキは「え」と声を出した。


「つまり……私たちに?」

「そう、火影様が直々に指名してきたの」

「私は良いけど、ボルトが……」

「っていうか、聞いてないよね」


相変わらず震えまくるボルトを何とか揺さぶって、再度任務のことを伝えた。
すると、案の定叫ぶ。


「そんなの! 俺たちがやることじゃねーってばさ!」

「火影様命令です」

「ちょっと父ちゃんに文句言って来る!」

「あ! ちょ、ボルト待ちなさいよ!!」


サラダの制止も虚しく、火影室に向かったボルト。


「あーあ、行っちゃった」

「全く……文句って何言うのよ……」


呆れる二人の肩に、私はポンッと手を置いた。


「じゃあ、ちゃんと伝えたからね。ボルト迎えに行って、引きずってでも行くこと」

「え? 貴女は行かないんですか?」

「私はただの伝令役だもん。門のとこで、木葉丸が待ってるらしいからさっさと行くことね」


じゃ、と私はその場を去った。






――……‥‥

(父ちゃん!!……ってあれ? 誰もいない?)
(あ、そうそう。サラダ、ミツキ。言い忘れてたけど、火影様はさっき所用で出かけたから任務変更は不可ということらしいよ)



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掲載期間:2016/8/8~2016/10/7
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