2015.4.3~2016.4.4
『いつかまた会える日を願って』
「わたし……忍にはむいていないのかも」
他に誰もいない公園で、ブランコに座る彼女の口から思いがけない話をされた。
アカデミー三年生の時だった。
当時、私にはモモちゃんという親友の女の子がいた。彼女は、大工である父親の仕事関係で木の葉から他里へ引っ越すことになった。そして、引っ越し前日にアカデミーが終わった後に二人で公園に来たのだ。
その時、モモちゃんから告げられた忍に向いていないかもという発言に、私は目を白黒させた。
「え? なんで?」
そう思うのは、モモちゃんがアカデミーでは比較的よく出来る層にいたからである。
勉強も実技も問題なく熟していた。
「……こわいんだ」
彼女の口から発せられた言葉は予想外のものだった。
「こわい?」
「うん。アカデミーにいるうちはいいけれど、いつか一人前になったときににんむに行くでしょ? 死んじゃうかもっておもったらこわい」
ゆっくりとした口調で心中を語ったモモちゃんは、ブランコの鎖をぎゅっと握りしめた。
「……」
「ねぇ、こわいと思ったことある?」
俯いた顔をあげ、私の方を見るモモちゃんは泣きそうな顔をしていたのを覚えている。
「……ない、かな」
「そっか……。わたしとちがって、忍の才能がある一族だもんね」
今思い出せば、ちょっとした嫌味も混ざっていたのかもしれない。しかし、当時はそんなこと全くもって感じなかった。
「でもそう言われたらそんな気もしてきた……かも?」
「えー、なにそれ」
その日、初めて笑いあった。
「わたしはね、お父さんが大工でお母さんが看護師だから二人とも忍にはならなくていいよって言ってくれるの。でも、自分でなるって言ってアカデミーに入れさせてもらったんだけど……やっぱりやめようかなって」
「やめちゃうの?」
「うん。それに、引っ越ししたらねそこにはアカデミーがないってお父さんが言ってた」
「え!? アカデミーないの!?」
衝撃だった。私は、その時どこの里にも忍者学校はあると思っていたから。
「忍はいるんだけど、その人たちはみんなお父さんやお母さんが忍だから教えてもらってるんだって。お父さんが言うには、わたしにも教えてくれる先生が探せばいるっていうんだけど……やっぱり忍にはむいていない気がするから、やめるかも」
少しショックもあった。モモちゃんが忍を目指すことを辞めることに。
本当は「続けなよ」と言いたかった。
でも、モモちゃんは辞めるかもとしか言っていなくて迷っている風だけど決意がついている、そんな感じだった。だから言えなかった。
「そっかー……。わたしは、一族みんな忍だから忍になるというのが当たり前で、アカデミーに入学するのも勝手に決まってたからなぁ……」
親も忍なら子も忍。
そんな家族の在り方が当たり前の環境で育ったから、モモちゃんのように一般人の親と忍を目指す子がいる家族の在り方なんて知らない世界だった。
「ねぇ」
「なに?」
「わたしは明日引っ越ししちゃうけど、それでも友達でいてくれる?」
モモちゃんが不安そうな表情で聞いてきた。
「もちろん!」
「ほんとうに? 忍になるのやめても?」
大きく頷くと、モモちゃんはパァッと花が咲いたように笑った。
これがいつものモモちゃんだった。
「ありがとう! 手紙書くからね!」
ブランコから降りて、手を振って去っていくモモちゃん。
彼女とは引っ越した後、しばらく手紙のやりとりをしていたがそのうち来なくなった。
そして、数年後久々に出した手紙は宛先不明で手元に返ってきた。
時々、ふとモモちゃんの笑顔を思い出す。
今どこで何をしているのだろうか。元気でやっているのか。
もし、また会うことがあったなら色々と語り合ってみたいものである。
――最後に会った公園から今日もそんなことを思う。
――……‥‥
(あら、何してるの?)
(母さん……! 買い物行ってきたの?)
(そうよ。……またモモちゃんのこと考えてる?)
(!)
(あなたが教えてくれたんじゃない。モモちゃんと最後に会った場所だって)
(……言ったっけ? 覚えてない)
□■□■□■□■□■□■
掲載期間:2016/2/9~2016/4/4
「わたし……忍にはむいていないのかも」
他に誰もいない公園で、ブランコに座る彼女の口から思いがけない話をされた。
アカデミー三年生の時だった。
当時、私にはモモちゃんという親友の女の子がいた。彼女は、大工である父親の仕事関係で木の葉から他里へ引っ越すことになった。そして、引っ越し前日にアカデミーが終わった後に二人で公園に来たのだ。
その時、モモちゃんから告げられた忍に向いていないかもという発言に、私は目を白黒させた。
「え? なんで?」
そう思うのは、モモちゃんがアカデミーでは比較的よく出来る層にいたからである。
勉強も実技も問題なく熟していた。
「……こわいんだ」
彼女の口から発せられた言葉は予想外のものだった。
「こわい?」
「うん。アカデミーにいるうちはいいけれど、いつか一人前になったときににんむに行くでしょ? 死んじゃうかもっておもったらこわい」
ゆっくりとした口調で心中を語ったモモちゃんは、ブランコの鎖をぎゅっと握りしめた。
「……」
「ねぇ、こわいと思ったことある?」
俯いた顔をあげ、私の方を見るモモちゃんは泣きそうな顔をしていたのを覚えている。
「……ない、かな」
「そっか……。わたしとちがって、忍の才能がある一族だもんね」
今思い出せば、ちょっとした嫌味も混ざっていたのかもしれない。しかし、当時はそんなこと全くもって感じなかった。
「でもそう言われたらそんな気もしてきた……かも?」
「えー、なにそれ」
その日、初めて笑いあった。
「わたしはね、お父さんが大工でお母さんが看護師だから二人とも忍にはならなくていいよって言ってくれるの。でも、自分でなるって言ってアカデミーに入れさせてもらったんだけど……やっぱりやめようかなって」
「やめちゃうの?」
「うん。それに、引っ越ししたらねそこにはアカデミーがないってお父さんが言ってた」
「え!? アカデミーないの!?」
衝撃だった。私は、その時どこの里にも忍者学校はあると思っていたから。
「忍はいるんだけど、その人たちはみんなお父さんやお母さんが忍だから教えてもらってるんだって。お父さんが言うには、わたしにも教えてくれる先生が探せばいるっていうんだけど……やっぱり忍にはむいていない気がするから、やめるかも」
少しショックもあった。モモちゃんが忍を目指すことを辞めることに。
本当は「続けなよ」と言いたかった。
でも、モモちゃんは辞めるかもとしか言っていなくて迷っている風だけど決意がついている、そんな感じだった。だから言えなかった。
「そっかー……。わたしは、一族みんな忍だから忍になるというのが当たり前で、アカデミーに入学するのも勝手に決まってたからなぁ……」
親も忍なら子も忍。
そんな家族の在り方が当たり前の環境で育ったから、モモちゃんのように一般人の親と忍を目指す子がいる家族の在り方なんて知らない世界だった。
「ねぇ」
「なに?」
「わたしは明日引っ越ししちゃうけど、それでも友達でいてくれる?」
モモちゃんが不安そうな表情で聞いてきた。
「もちろん!」
「ほんとうに? 忍になるのやめても?」
大きく頷くと、モモちゃんはパァッと花が咲いたように笑った。
これがいつものモモちゃんだった。
「ありがとう! 手紙書くからね!」
ブランコから降りて、手を振って去っていくモモちゃん。
彼女とは引っ越した後、しばらく手紙のやりとりをしていたがそのうち来なくなった。
そして、数年後久々に出した手紙は宛先不明で手元に返ってきた。
時々、ふとモモちゃんの笑顔を思い出す。
今どこで何をしているのだろうか。元気でやっているのか。
もし、また会うことがあったなら色々と語り合ってみたいものである。
――最後に会った公園から今日もそんなことを思う。
――……‥‥
(あら、何してるの?)
(母さん……! 買い物行ってきたの?)
(そうよ。……またモモちゃんのこと考えてる?)
(!)
(あなたが教えてくれたんじゃない。モモちゃんと最後に会った場所だって)
(……言ったっけ? 覚えてない)
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掲載期間:2016/2/9~2016/4/4
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