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2015.4.3~2016.4.4

『立ち入り禁止の場所の秘密~中編~』



まるで導かれたようだった。
気が付けば、奈良家の森にいた。


「……」


シカダイの目の前には、「関係者以外立ち入り禁止」の看板がかかった柵。
扉には奈良家の大人がつけたであろう厳重なシステムキーが取り付けられている。


「そう簡単にはいかねーか」


やっぱり大人になるまで待つしかないのかと思ったシカダイだったが、先日の夢のことが頭を過り足が重い。

この柵の向こうで誰かが助けを求める夢。「助けてくれ、出してくれ」と訴えかけるような声しかしない夢。その人物を見た気もするがその瞬間、目が覚めた。
その不気味な夢は、実はその一回ではなかったのである。

最初にその夢を見たあの日から、シカダイは何度も何度も同じ夢を見続けていた。

いつも同じ夢。
続きもない同じ夢の繰り返し。

またこの夢か、と夢の中で意識出来る程に見ていた。しかし、夢と分かっていても相手の顔を今日こそ見てやろうと思っても同じところで目が覚める。

そうなれば、これは夢の続きが知りたいと思うのである。最初にあの夢を見た日に、どうにかこの大人しか入れない柵の中に入ってやろうと思った。二回目、三回目と同じ夢を見るにつれ「絶対入ってやる」という思いが強くなった。

しかし、なかなか機会が得られない。奈良家の森は貴重な薬草等が獲れるし、鹿の世話に見回り――とにかく毎日誰かしら大人がこの森にいる。
シカダイは、そうして二か月間待ち続けたのだ。

そして今日、ついに機会はやってきた。
里を挙げての祭りが今日から三日間、行われているのだ。それは五影が正式に同盟を結んだ記念日。今年は木の葉で行われる。
当然五影や他里の人も来る祭り。今日ばかりはこの森に入ってくる大人はほぼいないはず。シカダイはそう踏んだのだ。


「……けど、これどうすっかな」


システムキーがシカダイの頭を悩ませた。
迂闊に触れば、警報が発動し大人が来てしまう。
どうしたものかと触るに触れずにいたその時である。

ピピッ……ガチャ、と音がした。


「え?」


システムキーの画面に映っていた模様が切れ、扉がスーッと開いたのである。


「えっ、俺触ってねーよ?」


まるで誘っているかのように開いた扉に、シカダイは恐る恐る足を踏み入れた。

何も起こらない。

踏み入れた瞬間、何らかの罠が発動するかと思ったがそれもないらしい。


「この先に……」


あの夢の続きが――。
生唾を飲む。シカダイはゆっくりと歩みを進めた。




――……‥‥

「……!」


嘘だろ、と口の中で呟いた。
目の前に広がるのは、草も生えてない一か所の地面に施されている封印の術式だった。


「ただの……夢、じゃなかったのか」


繰り返し見る夢はただの夢じゃないと思っていたが、現実にそれを目の当たりにすると恐怖さえ感じてしまう。
一度も踏み入ったことのない場所に何があるかなんて知らないのに、夢に出て来た内容と同じ光景が広がっている。

ただ夢と違うのは、現実の森は不気味なほど暗いわけではないということと、助けを求める声が聴こえないということであった。


「この下に何が……」


封印術を解く術をシカダイは持っていない。何があるかなんて分からなかった。


「帰るか……」


これからも夢を見続けるかもしれない。
だが、これ以上ここにいても出来ることはない。

シカダイが踵を返そうとした時だった。突然、体が重くなったのである。


「っ、」


何だこれ、と声に出したつもりだった。しかし、体が重く言葉が出ない。
片膝を着いた。

だんだん気分も悪くなってくる。


「ぅっ……」


そのうち吐き気と眩暈がシカダイを襲った。
地面に蹲る形となり、周りの木々が揺れる音さえも全く聞こえない。

――何だよ、これ!


そう思った瞬間、シカダイの頭にガツンと内側から衝撃が走った。
そこで意識が途切れた。




――……‥‥

パチっ。
目を開け、辺りを見回す。体は何ともない。


「何だったんだ?」


起き上がると、背後で人の気配。


「!」


咄嗟に振り向き、後ずさる。
そこには見知らぬ男。

地面に腰を下ろし、遠くを眺めている男の横顔にシカダイは呆然としていたが、やがて意識がはっきりする。


「お、お前っ、誰だ!?」

「……ア?」

「っ」


怠そうな目を向ける男にシカダイは一瞬言葉を詰まらせたが、すぐに声をあげた。


「ここは俺たち一族の森だっ、お前みたいなの俺はしらねー!」


シカダイの言葉に男は「そうか……」と立ち上がった。
近寄ってくる男にシカダイは更に後ずさる。


「テメェ、オレの憎むアイツに似てると思ったら……同じ一族のやつかァ」

「アイツ……?」

「オレをこんなとこに閉じ込めたヤローだ」


グイッと顔を近付けた男から土の嫌な臭いが漂う。シカダイは顔を顰めた。


「けど、オレを出してくれたことには変わりねェ。そこに免じて、テメェは生かしといてやるよ」

「え? 出した?」


何を言っているのだろうか。


「ァア? テメェがオレをあの穴ン中から出してくれたんだろーが」


そう言って指さす男。視線を向ければ、先程まで封印が施されていた場所に大きな穴が開いていた。


「なっ……!」

「でもなァ、アイツの一族だったらタダで帰すわけにはいかねーよな」

「俺、じゃない……」

「ア?」

「あの穴の中に人がいたなんて……どうやって出て来た!?」


シカダイの問いかけに男は「ハァ?」と声を荒げた。


「どうって、テメェが出してくれたんだろ! オレははっきり見たぜ?」

「んなこと俺はしらねー!」


男を突き飛ばすようにシカダイは手を前に突き出した。
しかし、その手を自分で目を見開いて見つめることとなった。


「……何だこれ」


自分の十本の指。その爪が真っ黒になっていたのである。
指を近付けて見れば、爪と指の間に土が詰まっていた。


「……」


まさか、本当に自分がこの男を掘り出した?

しかし自分は封印術を解くことは出来ない。気を失っている間に何かが?

じっと手を見つめているシカダイに男は「おーい」と声をかける。
はっとしたシカダイは再び男の顔を見上げた。


「とにかく、オレをこの暗いとこから出してくれた上に体まで繋げてくれたんだ。命は助けてやる。けど……」


男は次の瞬間、シカダイの体を抱え上げた。


「なっ……!」

「テメェには、アイツへの復讐のためにちょっと役に立ってもらうぜ」


桃色の瞳をした眼が細められた。






――……‥‥

(俺はお前なんか助けた覚えはねぇ……!)
(んーそう言われればお前、さっきと雰囲気違うな)
(さっき?)
(オレを助けてくれた時。あーそうか! きっとアレだな。ジャシン様の加護だな! ジャシン教の裁きをアイツに下すためにジャシン様が遣わせてくれたんだな!)
(は?)
(ジャシン様ー! ジャシン様のためにオレ、アイツを捧げてやりますよー!)
((うるせぇ! 耳がっ!))



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掲載期間:2015/10/2~2015/12/10
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