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2014.4.4~2015.4.3

『死神と私』




巨大な鎌を背に現れた時、病弱な私は彼を死神だと思った。
世間一般に流通する死神のイメージとはだいぶかけ離れた容姿だけれど、そもそも黒いフードを被って骸骨のような顔をしたのが死神だなんて人が創り上げたイメージだ。
目の前に現れた死神は、銀髪で人間と同じ顔のつくり。黒い要素なんて、着ている服しかなかった。

窓から入って来たその死神と目が合って数秒、死神は「うぉっ!」と酷く驚いた様子で後ずさった。


「テ、テメェ、誰だよ!?」

「誰って、ここに入院している者だけど?」

「に、入院?」


そう言って、死神は一旦窓の外を覗いた。


「おかしいなァ……」


何がおかしいのだろうか。
再びこちらを向いた死神は、その背の鎌を手にして私に向けた。


「よくわかんねェけど、とりあえず騒ぐんじゃねーぞ」


今更何を言い出すのかと思えば、騒ぐなとは。少し遅いんじゃないのか。騒ぐならとっくに騒いでいる。

随分と間抜けな死神だな、と思いつつも私は質問をすることにした。


「何がおかしいんですか?」

「アァ?」

「もしかして、命を持っていく人が違うとか?」


間抜けな死神は、病室を間違えたのではないかと推測した。


「ハァ? 何言ってんだテメー」

「え、だって貴方死神でしょ?」


不思議そうな顔を見せる死神に、直接聞いた。


「死神? 誰が?」

「え、貴方が」

「……」

「……」

「……ハァ!?」

「違うの?」


まさか死神じゃないとなると、不審人物!?
私は次第に怖くなり、声を挙げようとしていた。しかし、それは彼の「騒ぐんじゃねェ」という言葉で思い止まった。


「何で死神じゃねェと分かった瞬間、叫ぼうとすんだよ。普通逆だろ。……いや、どっちでも叫ぶか」


そんなことを言われても、私は病弱で本当の所いつ死ぬかも分からない身だ。
死神が来てもおかしくない。

それより、生きている人間の方が恐怖である。


「まぁ、良いや、大人しくしてりゃ殺したりしねェから」


そう言って彼は病室の入り口に向かい、ドアに耳を押し当てた。外の音を聞いているようだった。


「……何してるの?」

「ア? 仕事だよ仕事」


どんな仕事なんだろうか。もしかして泥棒でもする気なのか。
病院は高い機械とか置いてあるし。


「チッ、人がいるな」

「そりゃ、看護師さんとかいるでしょ」

「こうなったらこいつを人質にとって……いや、それは駄目だ」


今物騒な言葉が聞こえた気がした。
ぶつぶつ何かを呟いていた彼は不意に私の方を見た。


「つか、テメェは何でいるんだよ」

「何でって、病気だから」

「そうじゃねェし! 一昨日見た時はこの部屋誰もいなかったはずなんだって!」

「あぁ……それは、昨日入院したから」


私は入退院を繰り返している。
私の病気は特殊で、専用の病棟がある。だから専用病室の多くは無人。今も、同じ病気で入院している人は私を含めて三人だと聞いた。

しかもそのうちの一人は今朝から容体が急変し、今は看護師がバタバタとしている。


「……ハァ」


彼は溜め息を吐いて座り込む。本当に何を企んでいたのだろうか。


「で?」

「え?」

「何の病気なんだよ」


まさか不審者にそんなことを聞かれるとは思っていなくて私は言葉に詰まった。


「何だよ、言えねェのか?」

「そうじゃないけど……私は……」


――もうずっと前。第三次忍界大戦の時、岩隠れの“秘密兵器”により巻き添えを食らった母のお腹に私がいた。
秘密兵器といっても、詳しくは分からない。特殊なガスのようなものだと聞いた。
私はそれによって母体感染をしてしまったらしく、生まれた時から病弱だった。
咳を出しては時々血も混じる。本当は、長くない命だったけど忍であった祖父がチャクラを使って私を助けてくれた。私は忍じゃないから詳しいことは分からないけど、祖父はそのせいで命を落としたらしい。
でも、そのお陰で数年は普通とはいかないけどほぼ支障なく過ごせた。

だけど、次第に祖父のチャクラが及ばなくなってきているのか私は再び血を吐くようになってしまったのだ。

もうすぐ完全に私の中の祖父が消え、私は死ぬ。
分かり切っていた。


「ま、オレにはどうでも良いけど」


深刻な私の答えを聞くこともなく彼は立ち上がった。
正直、ちょっと助かったと思った。


「んじゃ、オレ行くわ」

「え?」

「おっと、誰かにオレのこと言ったら許さねェからな」


そして彼は病室の扉から出て行った。




――病院内が慌ただしくなったのは、それから一時間くらいしてからだった。
眠っていた私は、突然訪れた爆音で目が覚めた。廊下を医者や看護師の怒号が響き渡る。

何かあったのだろうか。
私も廊下に出てみようと、ゆっくり体を起こした。傍にある車椅子に手を伸ばした時だった。
病室の扉が開いたのだ。

てっきり看護師かと思ったが、それは違った。


「また会ったな」

「あれ? さっきの人?」


そこには死神と間違えた彼がいた。


「……えっ」


彼は傍に来ると、私を急に抱き上げたのだ。いや、担いだというのが正しいか。


「何するの!?」

「うるせェよ。オレはテメェを連れて行く」

「は!? っ、ごほっごほっ」


声をいきなり荒げたせいで、咳が出た。
口を押えるも、鉄の嫌な臭いが込み上げてきて――。


「ちょ、貴方! 何してるの!?」

「ァア?」


不意に聞こえた声は、私を担当している看護師だった。


「その子に何するの!?」

「何するって貰っていくんだよ。こいつはオレ達にとって重要な存在だって知ったからな」

「何を言っているの! その子を離して!」


看護師が手を伸ばしてかけよって来た瞬間、この男は走り出し病室の窓から外に出た。
その身のこなしは、明らかに忍だ。

あっという間に遠くなっていく病院の姿。
そして私は息を呑んだ。それは、私がいた病棟とは違う病棟が煙を上げて黒く焼けていたからだ。
騒がしい街の中、私はそれを呆然と見ながら連れ去られてしまった。





――……‥‥

(……飛段、連れて来たか)
((飛段? 誰? この人のこと?))
(あぁ。けど、本当にこいつがオレたちの役に立つのかよ? 病気なんだぜ?)
(問題ない。少し利用するだけだ)
((……もう生きて帰れないかも。ある意味、この飛段と呼ばれた男は死神ね))



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掲載期間:2015/2/1~2015/4/3
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