2014.4.4~2015.4.3
『奇妙な日記』
奇妙な日記帳を見つけた。
それは倒した忍が持っていた持ち物で、中身は白紙。黒い表紙には「日記帳」という文字は書いていなかったが、それが日記帳だと分かったのは拾った次の日だった。
朝、起きてその中身を見たときそれまでにはなかった文字が書かれていた。
私と一緒に任務に出ていた忍が書いたのかと思った。彼らも私が拾った日記の存在を知っていたし、そのまま野宿したから簡単に書くことが出来た。
しかし、日記に書かれているのはどう見ても私の字だった。だがその内容は、起きたその日の日付で身に覚えのないものだったのだ。
日記のように書かれていたその内容。最初は寝ぼけて書いたのだろう、くらいに思っていたがその日――その内容通りに事が進んだのだった。そして次の日もまた次の日も……。
それは、未来を綴ってくれる奇妙な日記帳だったのだ。
――私は馬鹿だったのかもしれない。
日記を得て半年で中忍から上忍へと昇格し、里からの信頼も上がって行った。完全に日記のお陰であった。
日記が綴る行動通りに行動を起こす。分かっているからこそ冷静に対処出来た。
一年も経てば、その冷静さから「彼女の言う通りにすれば必ず任務が成功するから、一緒になった奴は出世する」と言われ「出世の忍」と呼ばれるようになった。
私は日記を信頼しすぎた。馬鹿だったのかもしれないと思ったのは、今。
目の前の白紙のページを見て焦っていた。
「何で、何も書いていないの?」
日記は昨日まで問題はなかったのに、今日は何も綴らなかったのである。
日記に依存し過ぎた私は、一年前まで当たり前に出来ていたことが出来なくなったのである。
臨機応変に対応する忍としての能力を忘れていた。
今日は大事な任務。休むわけにはいかなかった。
集合場所に着いた私は、まともに事前情報を聴いていなかったことを後悔する。いつもは日記が教えてくれたから聴かなくても大丈夫だった。
「隊長? どうしたんですか?」
「え、あ……いや……」
「もしかして調子が優れないんですか?」
心配そうに見る仲間に戸惑ったが、今日の私はいつもと違う。思わず頷いた。
「じゃあ俺がフォローします」
そう言ってくれる隊の副隊長に嬉しく思った。
「ありがとう。じゃあこれから、これより5キロ先で目撃された不審者の調査に向かう。恐らくは我が国で度々問題になっている盗賊団の人間だということで、さくっと行っちゃいましょう」
「……えっと、あれは言わなくていいんですか?」
「……あれ?」
「昨日、俺と二人で聞きましたでしょ? 目撃された人数と彼らが滞在しているという宿の情報ですよ」
そう言われ、言葉に詰まった。
すると「本当調子、大丈夫ですか?」と心配され、結局副隊長である彼が伝えてくれた。
――日記が今日を書かなかった理由が分かった気がする。
目の前の人物が、跪く私の前にしゃがんだ。
「結構粘る女じゃねェか」
彼は血を流しているのに平気な顔をしている。
「なん、で……」
私は流れる血と痛みに喋るのもやっとだと言うのに。
仲間は皆死んだ。盗賊団の人間だと思っていたターゲットが、まさか全国Sランク級指名手配の暁の人間だったなんて……。
転がる死体と散らばる血はまるで遊び散らかした玩具の様。
目の前の男が殺した時の様子に相応しい言い方だ。
「んーでもなァ、殺すの勿体ねェな」
「ふざけるな……っ」
「良いねェ、その目。っと!」
渾身の一撃をくらわせようとクナイを振ったが、避けられてしまった。
「致命傷ではない。早く止めをさせ」
彼の相方が声をかける。
「でも惜しい気がするんだよなァ」
「……」
「はぁ……分かったよ。んじゃ、悪いな」
大きな鎌が振り上げられる。
今日、日記が何も表示しなかったのは“死んで一日の出来事が書けないから”だろう。
日記とは一日の終わりにその日の出来事を書くもの。死んでしまえば書くことが出来ない。
奇妙な日記は、一日の始まりに書かれるものだったが一日の終わりに存在しない人間の一日は、綴られることがない。
本当に、奇妙な日記だった。
――……‥‥
(最後に……)
(ァア?)
(これを貴方にあげる……)
(何だこれ)
(貴方の未来が失われるその日が、楽しみね……)
((所有者の死と共に日記の文字は消え、全ページが真っ白になっていった))
□■□■□■□■□■□■
掲載期間:2014/12/3~2015/2/1
奇妙な日記帳を見つけた。
それは倒した忍が持っていた持ち物で、中身は白紙。黒い表紙には「日記帳」という文字は書いていなかったが、それが日記帳だと分かったのは拾った次の日だった。
朝、起きてその中身を見たときそれまでにはなかった文字が書かれていた。
私と一緒に任務に出ていた忍が書いたのかと思った。彼らも私が拾った日記の存在を知っていたし、そのまま野宿したから簡単に書くことが出来た。
しかし、日記に書かれているのはどう見ても私の字だった。だがその内容は、起きたその日の日付で身に覚えのないものだったのだ。
日記のように書かれていたその内容。最初は寝ぼけて書いたのだろう、くらいに思っていたがその日――その内容通りに事が進んだのだった。そして次の日もまた次の日も……。
それは、未来を綴ってくれる奇妙な日記帳だったのだ。
――私は馬鹿だったのかもしれない。
日記を得て半年で中忍から上忍へと昇格し、里からの信頼も上がって行った。完全に日記のお陰であった。
日記が綴る行動通りに行動を起こす。分かっているからこそ冷静に対処出来た。
一年も経てば、その冷静さから「彼女の言う通りにすれば必ず任務が成功するから、一緒になった奴は出世する」と言われ「出世の忍」と呼ばれるようになった。
私は日記を信頼しすぎた。馬鹿だったのかもしれないと思ったのは、今。
目の前の白紙のページを見て焦っていた。
「何で、何も書いていないの?」
日記は昨日まで問題はなかったのに、今日は何も綴らなかったのである。
日記に依存し過ぎた私は、一年前まで当たり前に出来ていたことが出来なくなったのである。
臨機応変に対応する忍としての能力を忘れていた。
今日は大事な任務。休むわけにはいかなかった。
集合場所に着いた私は、まともに事前情報を聴いていなかったことを後悔する。いつもは日記が教えてくれたから聴かなくても大丈夫だった。
「隊長? どうしたんですか?」
「え、あ……いや……」
「もしかして調子が優れないんですか?」
心配そうに見る仲間に戸惑ったが、今日の私はいつもと違う。思わず頷いた。
「じゃあ俺がフォローします」
そう言ってくれる隊の副隊長に嬉しく思った。
「ありがとう。じゃあこれから、これより5キロ先で目撃された不審者の調査に向かう。恐らくは我が国で度々問題になっている盗賊団の人間だということで、さくっと行っちゃいましょう」
「……えっと、あれは言わなくていいんですか?」
「……あれ?」
「昨日、俺と二人で聞きましたでしょ? 目撃された人数と彼らが滞在しているという宿の情報ですよ」
そう言われ、言葉に詰まった。
すると「本当調子、大丈夫ですか?」と心配され、結局副隊長である彼が伝えてくれた。
――日記が今日を書かなかった理由が分かった気がする。
目の前の人物が、跪く私の前にしゃがんだ。
「結構粘る女じゃねェか」
彼は血を流しているのに平気な顔をしている。
「なん、で……」
私は流れる血と痛みに喋るのもやっとだと言うのに。
仲間は皆死んだ。盗賊団の人間だと思っていたターゲットが、まさか全国Sランク級指名手配の暁の人間だったなんて……。
転がる死体と散らばる血はまるで遊び散らかした玩具の様。
目の前の男が殺した時の様子に相応しい言い方だ。
「んーでもなァ、殺すの勿体ねェな」
「ふざけるな……っ」
「良いねェ、その目。っと!」
渾身の一撃をくらわせようとクナイを振ったが、避けられてしまった。
「致命傷ではない。早く止めをさせ」
彼の相方が声をかける。
「でも惜しい気がするんだよなァ」
「……」
「はぁ……分かったよ。んじゃ、悪いな」
大きな鎌が振り上げられる。
今日、日記が何も表示しなかったのは“死んで一日の出来事が書けないから”だろう。
日記とは一日の終わりにその日の出来事を書くもの。死んでしまえば書くことが出来ない。
奇妙な日記は、一日の始まりに書かれるものだったが一日の終わりに存在しない人間の一日は、綴られることがない。
本当に、奇妙な日記だった。
――……‥‥
(最後に……)
(ァア?)
(これを貴方にあげる……)
(何だこれ)
(貴方の未来が失われるその日が、楽しみね……)
((所有者の死と共に日記の文字は消え、全ページが真っ白になっていった))
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掲載期間:2014/12/3~2015/2/1