2014.4.4~2015.4.3

『万屋、依頼遂行中』




怪しげな運搬物の依頼を受けて三日後。私とサソリは万屋を休業し、出発した。目的地の東ノ神社は、近いため同日に着く。約束の申の刻に間に合わせるべく、巳の刻に出た。

運搬物を乗せた大八車が、荒い音を立て坂道を登る。近所の人から万屋を始める時に貰ったもので(お金がないというので報酬代わりに貰った)、だいぶガタがきてる。
一応、壊れてはいないので使えはするが……。


「ねぇ、坂道きついんだけど。代わってよ」


前を行くサソリにそう声をかければ、彼は足を止めて振り向いた。


「それくらいでバテる程、体力が落ちたのか?」

「いや、だってずっと坂だしこれ重いもん!」


叫んだつもりだが、疲れて声が上手く出ない。サソリはそんな私を見て目を細めた(傀儡なんで分からないけど、そんな気がした)。


「……」

「ちょ、無視して行かないでよっ」


何も言わず、また先に進み始めたサソリに文句を垂らしたが聞く耳持たず。
それでも、ぶつぶつ文句を言っていると


「俺のコレクションにするぞ」


と、ドスの効いた声で言うから黙らざるおえなかった。
しかし、必死に坂道を登っているとサソリが足を止めた。漸く代わってくれる気になったのか、と思ったらどうやら違うようで――気が付けば、私たちは九人の忍に囲まれていた。
うわぁ、と思わず顔を顰めてしまう。


「何の用だ」


サソリが忍に問うた。どうやら、霧隠れの忍のようで彼らの視線が私たちを鋭く突く。

だが、霧の忍は何も答えない。私とサソリは自然と背中合わせになった。


「こいつら、どうやって火ノ国に入った?」


サソリだけに聞こえる声で言う。


「木の葉が国への侵入者に気が付かないなんて……」

「ここは火ノ国の端。監視するにも限度がある」

「……。だけど、こいつら相手に下手に戦えないよ? 私たち“万屋”だもん」


どうしようかと迷う所だが、そんな暇はないようだ。敵の二人が私たちに向かって走って来た。
「万屋<自分の命」
という天秤が咄嗟に掛けられる。


「仕方ないか……」


襲い掛かってくる敵忍を睨み付けながら、呟いた。




――……‥‥

「で? 何の目的で私たちを襲ったの?」


目立たず、あっさりと敵八人を倒した私たちは残った一人を人気のない場所(道外れ)で尋問していた。

しかし、流石は霧の忍といったところか……一切言葉を口にしない。そこで、サソリが拷問に踏み切った。
それはもう目を覆いたくなるくらい酷いもの。
死の寸前に追い込まれた敵は、サソリの


「もし今吐けば、医療忍術で元通りにしてやる」


という言葉に縋った。漸く、口を開いたその忍が言うには私たちが運ぶ運搬物が狙いだったとのこと。

すると、サソリが何の躊躇いもなくその運搬物の箱を開けた。そして鉛の入れ物を破壊した。


「ちょ、約束破りじゃん」


中身は見ないように、と念を押されたことを思い出す。まぁ、そんなこと言ってられない状況なのは分かるけれども。


「何これ?」


中身を見て思わず声に出した。
箱の中は、鉛の塊。その表面を破壊すれば中にはぎっしりと詰まった固形物。一辺が三㎝くらいの立方体の固形物。それが、百……いや二百はある。
乾燥物だとは聞いていたが、まさかこんなにあるとは思っていなかった。


「知らなかったのか?」


敵忍が言った。


「たまごスープ……じゃないわね」

「それはな、薬だよ」

「薬?」


手に取って見れば、薬だとは思えなかった。本当にたまごスープの素みたい。

敵忍曰く、それは忍の力――チャクラが増幅するものらしい。水に溶かして飲むのだという。


「違法物だな」


サソリがまじまじと見つめながらそう言った。


「そうだ。兵糧丸と違って違法薬物が入っている。だが、そのおかげで効果は兵糧丸の三倍以上。兵糧丸じゃ絶対に出せない強さだ」

「そんなものを盗もうなんて、どういうことなの?」

「それは言えない。だが、違法物だと知って運搬する気か? すると、あんたらもヤバいんじゃないか?」


ニヤニヤと笑う男に、開けるんじゃなかったと後悔する。いや、開けたのはサソリだけど。
……おっと、もう私はS級犯罪者だった。

すっかり純粋な?万屋にのめり込んでしまっていた私を余所に、サソリは敵忍と会話を続ける。


「水影の指示か、それとも独断か……」

「だから言えないって。――っ! や、止めろ! わ、分かった、言うから!…………水影様の指示だ。今、火ノ国でこういったものが陰で流行っていることを知った我々は、いずれ水ノ国にも流れて来るんじゃないかと危惧した。薬を詳しく知るために盗んで来いってな」

「となると、既に木の葉も知っている」

「さぁな。まぁ、他国の俺たちが気付いてるんだ。木の葉も気付いてるだろうよ」


そこで私が割って入った。


「だから、木の葉の目を避けるために野良忍や抜け忍が他人を使って運ばせるわけね。特に万屋は、秘密を守るし仕事をやり遂げるしで便利」

「そうだな。まぁ、あんたらは……ただの万屋じゃないみたいだけど。どこかの忍か?」

「木の葉かもよ?」

「それはないな。木の葉の忍なら、俺はここじゃなくて木の葉で尋問されてる」


不敵な笑みを浮かべる男に、私は背を向けた。そしてサソリに問う。


「ねぇ、どうする?」

「運搬はする、俺たちは“万屋”だからな」





――……‥‥

(あの男が言ったことって本当なのかな)
(霧は秘密主義だ)
(じゃあ、サソリは信じてないんだ。まぁ、私も信じてないけど。死んでも情報を漏らさないような里の忍が、あんなに簡単に吐くなんて信じられないし。……私は、他里がこれを使って霧を滅ぼそうとしているかも? って思ってるんだけど。霧は恨みをいっぱい買ってるから、どこの里とは分からないけど)
(……例えそうだとしても、得た情報や推測を考慮してどうするか考えるのは上の仕事だ)
(あっそ……。(一応、リーダーには報告するのね))



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掲載期間:2014/8/2~2014/10/1
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