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2014.4.4~2015.4.3

『万屋への依頼』




「ありがとう、助かったわ」


黒の迷い猫と引き換えに報酬を貰った。依頼主は、普通の町民。
にこやかに対応するのは専ら私の仕事。

店の奥に目を向ければ、背の低い丸まった背中が見えた。

――S級犯罪者、暁。基本的には、決まった相手とツーマンセルを組んで行動する。
私もその暁の一員。だが、私は普段、誰とも組まず任務を熟す。(ただ人数的に組む相手がいないだけ)

それはいつものことだから良いんだけど、今回はどういうわけか違うのだ。

リーダーのペインが突如私に任務を告げたのは、二十日ほど前だった。

「火ノ国のとある町で情報収集を頼みたい。情報は火ノ国のことなら何でも良い」

リーダーによって作戦は予め決められていて、万屋〈よろずや〉を装って情報収集をしろとのことだった。私はいつものように一人で行こうとした時、リーダーが待ったをかけた。

「今回はサソリと行動を共にしてもらう。有無は言わせない」

顔を顰める私に説明はなかった。
こうして、私はサソリと任務をすることになったのだが、開始早々サソリは奥に籠ってしまった。
勿論、抗議はしたが「この顔(傀儡)は接客には向いていない」と言うばかりだった。まぁ確かに、怖いよなと思ったので今の今まで私一人で店の窓口に居座っている。(ちなみにサソリ曰く相方のデイダラは、デイダラにしか出来ない別任務中らしい)

で、二十日で沢山の情報が入ってきた。ほとんどはどうでも良いことだが(野良猫が家の軒下に~とか、近所の子供がうるさいとか)、中には火ノ国の内部事情とか民の考え等、興味深いこともある。
しかし、木の葉の里に潜入している私たちの存在が知られていない以上、まだまだ情報は集めやすい環境にあるのだ。
あと数日はいるだろう。

そんなことをボーっと考えていると、一人の男が入り口に見えた。
客か、と思い招き入れると男は私の前に箱を差し出した。


「あの?」


何だろうか。千両箱のようだが、お金の音はしなかった。


「万屋さんに頼みてぇ。これを東ノ神社に運んでほしい」


どうやら運搬依頼の様だ。この手の依頼はよくある。公に出来ない手紙(不倫相手への手紙とか、素性を隠したお偉いさんがお偉いさんへ送る手紙とか)は飛脚に運ばせるのは危険がある。そういう時に、万屋に頼みにくる人は多い。情報を漏洩しないのが、万屋の良い所だから。


「結構、重いですね。中身は?」


一応、聞かないといけない。運搬には基本料金というのを設けている。でも公に出来ない物を運ばせる人は大概、基本料金+αを払ってくれる。


「中身は聞かないでくれ」

「ふぅ……そういう人多いんですよね。でも安心してください。情報は誰にも洩らしませんよ」

「いや、聞かないでくれ」


鋭い目つきで睨む男。良く見れば、地元のちんぴらのようだ。


「あのね、流石に万屋といっても商売なんですよ。中身を聞いて基本料金を提示しないと駄目なの。分かります? 別に詳しく言えと言ってるんじゃないんです。大まかで結構ですから。手紙なのか物なのか、割れ物注意かそうでないのか、食べ物なのかそうでないか――」


私も負けじと睨み返した。すると、男はしばし黙って……
「はぁ」と溜め息を吐いた。


「しょうがねぇ。中身は物だ。まぁ、口にするもんだが腐るもんじゃねぇよ」

「乾燥物? それにしては重いですが」

「あぁ。そりゃ木の箱だしな。それに、中は厳重に包装してある。鉛の入れ物に入ってる」


どうりで重いわけだ。
私は、箱のサイズと重さを計り紙に記録していく。


「横40センチ、縦30センチ、高さ20センチ――」


男はその間、いらいらというかそわそわしているようだった。


「箱の色はこげ茶色、中身は鉛に入った乾燥物……食品、っと。それで――東ノ神社にいつ届ければ?」

「あぁ、三日後だ。時間は申の刻。レイヤという男が神社の入り口にいるから渡してくれ」

「三日後、申の刻。レイヤという人物ですね。分かりました。で、これが料金です」


私が確認を終え、料金を記載したメモを男の前に差し出す。男がお金を出す間、箱を受付下のスペースに保管する。
再び、対面すると男は私の目を見て言った。


「良いか、くれぐれも中身は見ないでくれ。その……珍しい乾燥食品だからさ、開けて空気が入ると駄目になるから。……これ、金」


差し出されたお金は、提示した金額の倍はあった。
一瞬、目を見開いてしまったが私は何も言わなかった。(先述した通り、料金+αが多い)


「はい、確かに。きちんとお届けします」

「そうか、ありがとよ」


男は笑みを溢して、店を後にした。
私は、受付下に置いた箱を抱えて店の奥に入る。


「ねぇ、今の聞いてた? 鉛で包む乾燥食品ってなんだろうね」


箱を棚に置く。こうも怪しい物はここに保管することにしているのだ。客が帰った後でね。


「さぁな」


低い声がそっけなく答えた。
サソリだ。相変わらず何を作っているのか。


「まぁ、“万屋”としてはちゃんと運ぶけど暁としては利用できる情報が入るかも?」

「口に気を付けろ。誰が聞いているか分からないからな」

「おっと。そうだった。……でも、基本料金の倍払ったよ、依頼人は」


にやりと笑って見せれば、サソリは喉の奥で笑った。


「俺たちは“万屋”だ。仕事は熟す」


パチン、と手元にある黒い棒の端を切ったサソリの目は楽しそうに見えたのだ。





――……‥‥

(奴が万屋を使って運ぼうとしている)
(何としても阻止せねば。我が国は滅びる)
(奴の後始末は――)
(後だ。まずは万屋だ)



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掲載期間:2014/6/2~2014/8/2
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