2013.1.2~2014.4.4

『二重スパイの女』




「暁に潜入し、情報を集めてもらう」


火影様に命じられて、私は暁に潜入した。木の葉では逸材と言われ、期待されている。プレッシャーを感じないように訓練されているので、期待に押しつぶされそうにはならなかった。
抜け忍という名目で里を出て、とにかく完璧なストーリーを火影様は用意してくれた。(正確には、奈良一族の優秀な人が考えた作戦)
結局、そのお陰で私は暁の目に留まることとなった。

スカウトされた時からボロが出ないようにしなきゃ、と気合を入れて潜ってみると、何と言うことか。今は人手が足りているから、お前には雑用をしてもらうと言い渡された。
一日に一組のコンビに付き、彼らが仕事をスムーズに実行できるように手配する。しかしそれは、仕事の瞬間ではなく仕事を実行するまでのみ。重要なことは見せてはくれない。
抗議すると、まだ新人だから空きが出ない限り駄目だと。

じゃあ何で勧誘したんだって話だけど、それは私が優秀だと判断しキープしておきたかったからだと言われた。

そこで仕方なく雑用を引き受けることになったんだけど――ここは、馬鹿でも入れるのか?
というのも、暁にいる飛段という奴がくそ馬鹿なのだ。週六で働く私は三組のコンビに交代でくっついているのだけども、この飛段がとてつもなく馬鹿でヤバい。
なーんも考えてなさそうな感じなので、私はこいつを使うことにした。

あぁいう男は単純。いっつも仲間から馬鹿にされているから、ちょいと持ち上げてやればすぐ信用する。幸い、相方の角都は暁の財布を任されていて金の工面のために“バイト”をする。まぁそれは賞金首を捕えて、換金するというものだがその換金の間に私と飛段は待つはめになる。その時、飛段を誘惑する。
思いのほか、それは上手くいって飛段はベラベラ喋ってくれた。


「オレも詳しいことは分からねェんだけどよー……」
「平和? そのために人柱力の力が必要なんだとよ」
「そのために金がいるって話だ」


換金の間と言っても、時間はすぐに来る。一度に聞き出せることは数少ない。
暁の会合にも参加させてもらえない私にとって、地道にやっていくしかないのだ。
角都は飛段と違って鋭い。会話を聴かれてないにしろ、何かを疑うような目を時々向けてくる気がした。でも、何も言わないから気のせいかもしれないが。

他のメンバーからも、さりげなく聴いたことがった。しかし、それらは既に木の葉が知っていることばかり。知られても問題のない情報。
流石に飛段とは違って、口数が少ない。
それでも頑張っていると一回、デイダラという少年から何か聴き出せそうになったことがあった。だが、相方のサソリがいたため失敗。(デイダラが口を滑らせかけたのをサソリが止めた)
特に私から必要に迫ったわけではないので、サソリに怪しまれることはなかった。

で、三か月ほどして私は木の葉に帰還。抜けるときは難しいもので、メンバーの目の前で死んだふりをしなければならなかった。
メンバーはどいつもこいつも油断ならない。騙せそうなやつには鋭い相方が付いており、どうしたものかと考えに考えた。しかし、どう考えてもやっぱり強行突破しかない。鋭さを持ったやつをも欺ける方法。

総合的に見て、一番安全そうなコンビ――飛段と角都、と思ったら大間違い。サソリとデイダラを選んだ。
いなくなったら用無し。真相を調べるのも面倒。長居は無用。私が目の前で吹っ飛んでも、それが事実と冷たい判断をしてくれそうだった。

案の定。仕掛けと幻術だけで上手くいった。彼らはあっさりと自らヘマをして死んだ(ように見せかけた)私を認めた。

木の葉に帰り、私は聴いたこと見たことを話した。


「……。やはり暁はそう簡単に尾を出さないか」

「はい。仲間同士でも、あまり事情を説明していないといいますか……長年の信頼や決定的な信頼がやっぱりないと」

「……しかし、お前はよくやってくれた。今日はもう休んでいいぞ」


私は頭を下げて出ようとしたが、ふと足を止めた。


「火影様」

「ん? どうした?」

「暁の中で気になることが実はありまして、でも確信がありません。どう説明したら良いのか分からないんですが……とにかく、今までの暁の資料を拝見して確かめたいのですが」


火影様の視線を背に感じる。何を思っているのか、しばらく沈黙が続いた。やがて


「分かった。だが、暁の情報には機密書類のものもある。例え木の葉の忍でも、無闇に話すことは許さんぞ」

「心得ております」




――……‥‥

私は森を走っている。
火影様に資料を見せてもらった私は「気になることがあります」と告げ、調査したい旨を伝えた。最初は反対された。確かに、私の任務は終わり暁にも死んだことになっている。でも、私は行かなければならなかった。
私の説得により、火影様は私を“暗部”として動くことを条件に許可をくれた。他に四人の暗部が一緒だ。

しばらく森を進むと、暗部の一人が「待て!」と叫んだ。まがまがしい気配というか、私も気配を感じ取った。
一斉に木の上で足を止める。その瞬間、私の周りにいた他の暗部全員が木から落ちた。

顔を上げると、目の前に仮面の影――いや、男が立っていた。その仮面には一つしか穴がなく、彼は右目で私を見ていた。


「なに……も……の……」


まだ息のある暗部の一人が、仮面の男を見て呟いた。


「……木の葉の暗部か。悪いが」


仮面の男は私をすり抜けるようにして地面に降り立った。そして、四人の暗部は仮面の男の目に吸い込まれていった。
私は立ち上がる。仮面の男を見下すと、目が合った。


「飛段を選んだことは賢明だったな」

「他の人だと怪しまれるし……何より詳しすぎる。聴いたこと全部火影に言わないとバレちゃうからね。飛段だったら、ペインと仲が悪いし詮索しても報告することはない。それに飛段は知られても良いような情報しか持ってないでしょ」

「正確には馬鹿すぎて、難しいことを教えても覚えられないからな」


苦笑して、私はクナイで自らの腕を少し切った。


「これ痛いんだよね」


血がしたたり落ち、木の枝に着く。それを木に塗りたくった。


「相変わらずの上出来だ」

「……これで私は死んだ。死体はないけど」

「行くぞ。木の葉から入手した情報、じっくりと聴くとしよう」


私は仮面の男と共に消えた。




――……‥‥

(ところで、いつになったら暁メンバーに入れてくれるの?)
(お前は暁内で死んだことになっているのではなかったのか)
(あー、そうだった)
(一生、お前は俺の許で動いてもらう)



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掲載期間:2013/10/2~2013/12/7
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