2013.1.2~2014.4.4

『生贄に神の使者が恋をした』




村人は恐れていた。
不死の力を持って、村人たちに謎の死を呼ぶ死に神のような存在を。刃向かったら、逃れられない死という運命を。

だから、生贄を村人は差し出すようになった。それは、貧しさ故に罪を犯したものや、その家族。それだけではなく、人々から嫌われているももの。嫌われているが村にとって必要不可欠な存在だと、その家族が生贄として差し出された。

私は会ったことはない。
しかしこの度、私は生贄としてその死に神の許へ差し出される。

父も弟も止めたが無駄だった。父も弟も、村人から忌み嫌われていた。別に悪いことをしているわけではない。ただ、二人とも医者という死に纏わる仕事だったからだ。(家業だから)母は弟を生んだ時に亡くなった。
医者は嫌われるが、同時に重宝された。矛盾しているが、これが道理。
そこで、私が選ばれた。

父も弟も泣いて私を見送った。


「分かっているな。お前は、生贄だ。悪魔のような神へ捧げられる贄だ。村人のためにな」

「……はい」

「じゃ、俺達はここで帰る」


私は一人森に投げ出された。その悪魔のような神が奉られている祠は、もうちょっと奥にある。一人で行けということらしい。
逃れられない運命だから、私は行く。逃げることは許されない。

しばらく行くと、例の祠が見えてきた。その傍らに一人の男が座っている。
私は意を決して近付いた。


「あの……」

「……あ?」

「っ! わ、私、村から、来ました」


生贄として、と伝えるとその男は目を見開いたまま固まった。


「えっと、貴方がジャシン様?」

皆はそう呼んでいた。神の名前らしい。


「……」

「あの……?」


しかし、男は一向に固まったまま。私は覗くようにして様子を窺った。
すると、突然男は立ち上がった。思わず後退りしてしまう。


「あ、あの」

「お前、ジャシン様への生贄にしちゃ勿体ねェなァ……」

「え……?」

「あ、言っとくがオレはジャシン様じゃねェ」

「え!?」


じゃあ誰、と言葉を投げかけた時にはもう男は私の目の前に迫っていた。


「!」

「オレは、ジャシン教の飛段だ」

「え? ジャシン教……? 信者!?」

「アァ。けどな、この力を持って生贄の血をジャシン様に捧げられるのはオレだけなんだぜェ?」


この飛段という男曰く、村人は自分を神と勘違いしている。しかし、実際は不死の力を持ち村人が言っている謎の死を呼ぶのは自分だと言うのだ。飛段がそれをすることで、神に贄を捧げられるらしい。


「それで、私も死ぬの? どうやって?」

「えらく落ち着いてんな」

「……母の許に行ける」


本当は怖かった。でも、死んだ母の許へ行けるなら、それでも良いとさえ思っていた。


「死んだのかァ?」

「弟が生まれた時に、身体が弱くて」

「そっか。……んじゃ、決めた!」


突如、飛段は私を抱き寄せ歩き出す。


「ちょっと、何を!」

「んー、お前生贄にしては勿体ねェ。普通なら死んでた命だろ。オレにくれよ」

「は!?」

「だから、オレの女にしてやるっつってんだよ!」

「……はぁああああ!?」


ぐいぐいと、力強い腕で近くの洞窟に引き込まれていく。


「ジャシン様には悪いが、テメェはオレの伴侶にするぜ」

「意味わかんない! 離して!」
「ぜってぇ、やだ。オレ好みの顔だしなー! ゲハハハ!」

「顔!?」


抵抗し言い合う中で、私は色々考えた。そして言葉では嫌だと言いながらも、ちょっとだけ良いかなって思った。
どうせ行くとこないし、本当なら死ぬだけの私に飛段は生きる道を与えてくれたから。

母の許へ行きたいのは本心だけど、死にたいわけじゃなかった。母に会うには死しかなかったからだ。

だから――
もう少し、生きてからでも良いかなって。
飛段のおかげでちょっぴり思ったのだ。





――……‥‥

(よし、早速子作りだぜ)
(は!? ちょっ、来ないで!)
(何言ってんだァ!?今、オレと生きるって言ったじゃねェか!)
(や、でも物事には順序がっ! それに、私はまだ貴方に惚れたわけじゃないし!)
(んじゃ、惚れさせてやるよ)



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掲載期間:2013/2/5~2013/3/9
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