2012.1.1~2013.1.1

『春が来たら』




――散り行く花びらより遅く、しんしんと雪は篭ったような空から悲しく降る。

秋とはいえ、北の寒村では雪国となっていた。任務で訪れた私たちを歓迎してくれた村人たちは、温かく迎えてくれた。

それも過去のこと。
目の前では、壊滅した村と血が雪の底に沈もうとしている。


「……寒いね」

「……」

「春が来たら……」


そこで言葉を止めたのは、もう春は来ないって分かっていたから。
毒でも浴びたかのように、腹の傷は複雑。体温と共に止まることなく流れていく血に、命は削られていた。


「……来る」

「……え?」

「春は来る」


視線をずらせば、真っ直ぐ前を向いて座るサソリの姿。赤の髪に雪が積もっていた。


「そう、だね……」


そう呟くことしか出来ない。確かに春は来る。だけど、私には来ない。
二度と、感じることのない暖かさを思い出した。


「春が来たら」


今度はサソリが口を開く。


「……また花を見に行く」


お前も一緒に。

そう呟くように言われた台詞は、北風に掻き消された。
それでも、私にはちゃんと耳に届いたのだ。

ありがとう

その一言が、唇から出ることはなかった。




――……‥‥

(ゆっくりと立ち上がったサソリの目には)
(屍となった女の姿――)
(この先ずっと、彼女はサソリの手で)
(春を見ていく)



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掲載期間:2012/11/3~2013/1/2
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