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2012.1.1~2013.1.1

『16年目の仇討ち~大いなる裁き~』




木の葉の忍が森をうろついていた。嫌な予感がし、私は気配を隠す。そうしながら、家を目指した。

一人で、修業をし母のために山菜を積んだ。木の葉の忍には、注意しなければならない。いや、木の葉だけじゃない。忍里の忍者には、皆注意しろと母がいつか言っていた。
母は、かつて忍里に追われる身だった。それが、私をお腹に宿してからひっそりと暮らし始めたのだという。

そして、母がいる家へ無事に戻って来たとき、異変に気付く。


「お母さん?……!?」


物静かな家の中は、あちこちで物が散乱していた。皿が割れ、棚が倒れ、激しく争ったあとがあった。
そして、私はリビングと隣室を繋ぐ間に母を見つけた。


「お母さん!」

「……っ」


息はあった。しかし、それは虫の息。出血多量の母は、意識が朦朧としていた。私は、母を抱き起こした。


「お母さんっ」

「木の、葉……」

「え、木の葉?」


母は、私の顔を見るやそう切り出した。息が荒い。それでも、私を見据えていた。


「飛……段も、木の、葉に……」

「え……?」


突然の、別れ。母は、それだけ言うと微笑み、私の頬に手を添えた。そして、力を失った。
母の血が、私に染みこむ。赤と透明の混じる滴が、頬から流れ落ちた。

私には、母が全てだった。
生まれる前に父はいなくなり、母は一人で私を育て上げた。16年の月日を、母と過ごしてきたことは忘れない。


「絶対、許さない」


立ち上がった。父だけでなく、母をも殺した木の葉に復讐を。武器をとった。




――……‥‥

とにかく、情報が欲しかった。情報なくして、木の葉に挑めない。戦争とは違う。一人で、やるのだ。
しかし、どこから情報を得れば良いのか皆目見当がつかなかった私は、途方に暮れた。すると、どこからともなく声が聞こえた。


「情報、教えてあげようか?」


慌てて見回すと、2時の方向に3メートル向こう辺りの地面から、何かが生えてきた。


「だ、誰?」

「コレガ、アイツノ子ドモカ?」

「そうみたい。似てるね。飛段にも、あの子にも」


聞こえてきた会話に、目を見開いた。一人の人間(多分)から二つの声もさることながら、そいつの口から出てきた名前に反応してしまった。


「何で……」

「教えてあげるよ。16年前、飛段……つまり君の父親をやったのは、木の葉の奈良シカマルって男だ」

「奈良、シカマル……」

「オマエノ母親ハ、カツテ木ノ葉ノ上忍5名ヲ殺シタ」

「現役引退して16年。少しは身体を動かしてたみたいだけど……やっぱり鈍ってたんだろうね。木の葉の上忍3名にやられたよ」


あっさり言ってのける、そいつに私は唇を噛み締めた。しかし、情報を与えてくれたのは事実だ。どういう了見かは知らないけど、有り難かった。


「……ありがとう。それだけ聞けば十分です」

「聞カナイノカ、何デ教エタカヲ」

「もはや、そんなことは関係ないです。それに、意味もなく教えてくれるなんてありえません」

「罠カモシレナイゾ」

「そんな罠を言う必要性が分かりません。貴方は、木の葉の人間じゃない。恐らく、母や父の仲間だった人……じゃなきゃ、私のことを知っているはずがない。木の葉の連中が私を知っていたら、あの森で必死になって捜しているでしょうから」


そこまで言えば、その人は笑った。そして、一言「奈良シカマルは頭がきれる。注意しろ」と、そのまま地面に消えた。




――木の葉にたどり着いて、私はド派手に正門から乗り込んだ。門番から、不審な目を向けられ声をかけられる。


「おい、何者だ」

「観光客……と言っても信じてくれないんでしょう?」

「当たり前だ。観光客なら素直に、門から入るからな。けど、お前は門を潜らずに上から来た」

「変わってるんです。私」

「……ちょっと、いくつか質問させてもらっても?」

「良いですよ。でもその前に、私の質問に答えてくれます?」


首を傾げる門番に、私はニヤリと笑った。


「奈良……シカマルさんって方、知ってます?」

「シカマル? あぁ、うちの忍だが、何か用か?」

「えぇ。まぁ」


すると、門番は数回頷いて応えた。


「あいつなら、今出ている。もうすぐ帰ってくると思うが……あんた、彼のファンか?」

「ファン?」

「違うのか? シカマルは頭も良いし、モテるからてっきり……あ、おぉ帰ってきた!」


大声でその名を呼ぶ、門番。私は、近寄って来るその顔を見た。

木の葉の忍――私の家族を奪ったものたち。
門番は仇に、私のことを話していた。そして、その憎い男が私を見た。


「で、何か用か?」


ニヤニヤと見ている門番に、余計に腹が立った。


「……そんな怖ぇ顔しても、何も出てこねーよ」

「許さないって決めた」

「は?」


私は、瞬時に区内を袖から出して突き付ける。しかし、相手は経験も頭脳も技術も全てが上。だから、避けられた。


「なっ」

「チッ」

「シカマル!」


見れば、森をうろついていた忍たち。
母を殺したであろう、4人の忍。そして、小隊長を務めたのがこの男。つまり、父も母も同じ男に殺されたのだ!


「くっ、影真似の術っ」


仇は影を自由自在に操った。それを、避ける私。捕まったら終わりだ。


「何すんだよ!」

「う、うっさい! あんたが、あんたが父も母も殺したんだ!」


避けながら攻めるも、援護が邪魔で上手くいかない。かすり傷が、体中に出来ていく。


「くっそ、シカマル! 何なんだこいつは!」

「知るかよ!」


そのうち、騒ぎを聞き付けた忍がわんさか集まってきたが、それどころじゃない。私は、ただ目の前の男を目掛けた。
しかし――。


「! しまっ……」

「やっと捕まえたぜ」


身体は捕らえられた。影によって操られる身体で、ゆっくりと仇に近付く。


「誰の仇か知らねーけど、忍の世界だ。仇なんて、考えたって野暮なだけだ」


必死に抗うも、動かない身体。そして、私は木の葉侵入罪と攻撃を仕掛けたということで、始末されることが決まった。火影が命を下す。
奈良シカマルが、私たち家族を皆殺しにする悪魔に見えた。

そして。


「悪いな。あんたも忍なら、オレもそれに応える。頭は悪くねーが、実戦経験も浅いくのいちには負けねーよ」


腹に、クナイが刺さった。
襲う激痛。痛み。倒れる私の身体。ホッと息を吐く木の葉の忍。
ズキズキと恐ろしく焼けるような感覚に、悶えた。そして、動きを止める。


「ゆっくり、休め」


背を向ける奈良シカマルの気配。私は、笑んだ。


「シカマル!!」

「っ!?」


静けさが身を包む。痛む身体に鞭を打ち、渾身の一撃を深々と腹に突き刺した。


「……かはっ」

「シカマルーー!」

「……小娘だと思って、侮ってもらっちゃ困るよ。死んだフリってのも、案外効くのね」


何で、という声があちこちから上がる。
刺したクナイを抜き、倒れるその身体を見つめた。

木の葉の忍が、走り出す。


「てめっ、何で……っ」

「大いなるジャシンの裁きがくだる」

「!?」

「母から宗教のことを聞いた」


スローモーションに見える、忍らの動き。


「てめーっは、」

「……。父は。父は、アンタに殺された。母も殺した。土産に聞いていきな。不死身は遺伝する」

「っ……」


誰かの腕が、私を掴む直前。真上に飛んだ。
人々が見上げる。建物の最上に足を着き、見下ろせば仇の目に光なき。

――それから、木の葉を脱した。




――……‥‥

(お父さん、お母さん)
(仇は討ちました)
(でも、)
(私は、これからどうすれば良いのですか――?)



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掲載期間:2012/6/1~2012/7/1
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