2011.3.1~2011.12.31

『君は誰?』




――パチッ


「え、何!?」


急に消えた電気に、少々戸惑ってしまった。


――ゴロゴロ


今日は今朝から優れぬ天気で、雷なんか鳴っちゃったりしてる。
雨も降るし、このままでは木の葉が流されちゃうんではないか、ってくらい。


「あー……ま、いっか。めんどくさいし」


特に気にすることもないだろう。停電なんて、いつか復旧する。

その時、わが家の玄関から戸を叩く音がした。
こんな日に誰だろう、と思いつつも私は玄関へ向かう。


「はい、どちら様ですか?」


そう声をかけたが、返事はなかった。


「?」


不思議に思い玄関を開けると、目の前には雨が降る様子があるだけだ。雷は小さく鳴っているものの、きっとまだ大きく鳴るだろう。

私の前にはそんな光景が見えるだけで、人っ子一人いない。

気のせいだったのか――。

玄関を閉め、再び部屋に戻った時、違和感があった。


「誰!?」


部屋には何者かが立っていた。
咄嗟に身構え、そいつが振り向いた途端


――バーン!!


「うぎゃぁあああああ!!!」


雷の巨大な音。稲妻に映し出され、私に近付く人影。
咄嗟に拳が出て、人影は宙を舞った。


「ぐはっ」


ドン、という音が鳴る。そう思ったがその音は鳴ることはなかった。


「え」


それどころか、目の前の人影は居なくなっていたのだ。


「え、え、え、ぇええええええ!!」


幽霊

その二文字が頭に浮かんだ。


「そそそそそんなものっ、げ、幻覚よね!」


私は、ナルトと同じくらい幽霊が怖いんだ!
悪いか、コンチキショー!

必死に幻覚だと思い込むも、以前にナルトが言っていた“幽霊遭遇事件”が頭を過ぎる。


「見事なアッパーだ」

「っ!」


突然だった。耳元で声がする。気配は――なかった。


「だが、そんなんじゃ……すぐ殺されるよ」

「だ、誰?」

「其の一、忍具は既に携帯しておくこと。其の二、慌てないこと。其の三、忍術は幽霊では出来ないっしょ」

「え、え?」


――パチッ


部屋が明るくなった。
私は、背後にいる誰かから身を離し、振り返って身構える。


「!?」

「今のが俺の試験だったら、失格決定ー」

「カカシ先生!」


目の前には笑うカカシ先生。
私は、一気に力が抜けた。


「え、大丈夫?」

「馬鹿っ!」

「え?」

「本気で幽霊かと思ったんだからねっ!」

「あはは、ごめんごめん」


手を差し延べるカカシ先生に、思わず笑いが零れる。
それにしても、幽霊じゃなくて良かった。


「でも、流石先生ですね」

「何が?」

「玄関開けて私が気づかない内に、中に入ったんでしょ?」

「まぁね。忍者ですから」

「でも気づかなかった。それに、私が思わずアッパーくらわせた時も、咄嗟に体勢立て直して瞬身の術か何かで背後に回った、そうでしょ?」

「分かってるじゃないの。俺はてっきり、忍者というものを忘れた一般人かと思ったよ」

「ちょ、それ酷い……私だって忍者ですー」

「あはははは。ところで今日、休みなんだ」

「はい。暇で暇で」


カカシ先生はその後、こんな天候じゃ家に帰れない、とか言って私の部屋に無理矢理泊まった。
絶対、嘘だ。と思いながらも、仕方ないので私は渋々だった。




――……‥‥

――翌日。

私が、綱手様の所へ赴いた時だった。用事が終わり、ふとカカシ先生とのことを話すことにした。


「綱手様、聞いてくださいよ~」

「ん? どうした?」

「昨日、カカシ先生が…………云々…………ということがあって、もう心臓が止まるかと思いました」


綱手様なら大笑いしてくれる、そう思っていた。
しかし、私は綱手様の次の言葉で血の気が引いた。


「……カカシは、一昨日から任務に出ていて、里にいないぞ」

「…………え? じゃあ、今私の家にいるのは?」


今もカカシ先生は家にいる。任務がないから、悪天候だから、と今日も家に居座ると言った。


「里には一度も帰って来ていない」


幽霊


「ぎゃぁあああああ!!」

「おい!」


怖くて、部屋を飛び出した。
走って走って何か分からないけど、逃げていると誰かにぶつかった。


「いってぇ」

「あ、ごめんなさい。……って、シカマル」

「あ、何だ、あんたか。どうしたんだよ、そんなに慌てて」

「いや、ちょっとね。カカシ先生の幽霊が。……シカマルこそ、どうしたの?」

「俺は、報告をしにな」

「報告? 任務だったの?」

「いや、そうだ。お前も気をつけろよ。ここ数日、近辺である忍がうろついている」

「ある忍?」

「あぁ。殺人鬼……。人が何人も殺されてる。だが、その殺人鬼のやり方が捜査を混乱させてんだ」

「捕まってないってこと?」

「あぁ。生き残ったやつの証言では、何でも強力な変化の術か何かで被害者の身近な人に化けて近付くらしい」

「強力な?」

「あぁ。普通、変化の術って攻撃を受けると解けるだろ。けど、そいつは攻撃を受けようが変化し続けられるらしい。問題は、そいつがどうやって変化する対象……つまり被害者の知り合いの人物を知っているか、だ」

「確かに、被害者となった人たちの知り合いを知っているとなると、調べる必要あるよね。でも、どうやって木の葉の忍の目をかい潜って調べたのか……ってことだよね」

「そういうことだ。いくら里の外で起こった事件でも、巡回の忍は常にいた。怪しいやつがいれば分かるはずなんだがな。……おっと、俺はもう行くぜ。だから、気をつけろよな」

「あ、うん。ありがとう」


シカマルは綱手様の方に、歩み出したが、しばらくして振り返った。


「?」

「そうだ、お前カカシ先生の幽霊がどうとか言ってたよな」

「え、まぁ……」

「カカシ先生、生きてんのに幽霊って、そんなのあるのか?」

そう言って、シカマルは去って行った。


幽霊じゃない? でも、カカシ先生は任務で、ってあれ? 私のアッパーは確実に当たってた。幽霊って普通すり抜けるよね、多分。それじゃあ――。

私の頭に、シカマルの言葉が浮かんだ。

“殺人鬼……。人が何人も殺されてる”

“強力な変化の術か何かで被害者の身近な人に化けて近付くらしい”



「今、私の部屋にいるのは……」


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掲載期間:2011/9/1~2011/10/1
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