「両親は。誘拐だと騒がれても面倒だ」

「両親はいない」


ペインの代弁に、夏美は肩を落とす。


「殺したのか？」


サソリの問いに、ペインは否定をした。


「少し前に母親は、任務で死亡している」

「では、父親は？」


今度は鬼鮫の質問。しかし、それを遮るようにデイダラが夏美の顔を覗き込み何気ない一言を放った。


「なぁ、こいつ飛段にソックリじゃねぇ？」

「デイダラ、人の質問遮らないで下さい」

「細かいこと言うなよ、鬼鮫の旦那。うん」


デイダラは、ペインと目を合わせた。輪廻眼には、引き込まれそうになる。以前、誰かが言っていたのを思いだしデイダラは目を逸らした。


「デイダラ、今日ばかりは冴えているな」

「ちょ、今日ばかりはってどういうことだよ、うん！？」


そう迫るデイダラだったが、ペインはそれを押し退けて一歩前に出た。


「この娘の名は、夏美。飛段の子だ」

「……ハァアアアアアア！？　デタラメ言ってんじゃねェ！　クソリーダー！！　オレには、女の影もねぇよ！」

「どこかの女を見境なしに抱いて孕ませたんじゃねぇのか？　テメェのせいで俺達に迷惑かかってるんだ」

「うっせぇ、サソリ！　里抜けてから女には手出してねェよ！　テメェ、自分からそんな人形になったってのに、女を抱けないことへの恨みをぶつけてんじゃねェよ！！」

「何だと……！？」

「止めなさい。二人とも。夏美が怖がっている」


大量の蝶の紙が、小南の声と共に二人の間に入る。
ペインはそれを見計らい、嘘ではないと口にした。


「飛段、里を抜ける前にいた女がいるだろう」

「ァア！？……あー、いたかも……しれねェ」

「何だよ、その歯切れの悪い返事は。うん」

「……別に」

「ったく、何ならこのガキに聞けば言いだろ！　おい、お前。“飛段”っつー名前に聞き覚えは！？」


攻め寄ってくるデイダラに、夏美は思いっ切り睨みあげた。そのことで、デイダラが怒ったが小南の制止が入る。

そして、小南は夏美に優しく言った。


「この人に教えてあげなさい」


と。
夏美は、躊躇ったが彼女の瞳を見てはっきりと「ある」と答えた。
母が口にし、里の人間が口にした名前。母が愛した名前、里の人間が嫌った名前。

これにより、夏美は飛段の子だと誰もが思った。当の飛段を除いては――。