庭園の奥にそびえ立つ巨大な、石塔らしきもの。庭園より向こう、つまり店の敷地外にあるようだ。しかし、その石塔は随分古びているようだった。

石塔の上真ん中には、飛段のしているネックレスと同じ模様――ジャシン教のマークが彫られている。
かつては色が着いていたのか、多くが禿げている中、少しだけ赤が残っている。


「……」

「どういうこと？　同じだよね？」

「……まぁ、な」


歯切れが悪い飛段を疑問に思い、美奈穂が顔を見るとどことなく怒っているようだった。それでいて、苦い思いをしているような感じだ。


「……何かあったの？」


飛段はもう食べ終えているが、美奈穂は食べる手を止めて聞いた。
回りの雑談が、飛び交う中でここだけは別世界のようだった。

やがて、飛段が口を開いた。


「オレがこの里を出た理由、知ってるか？」

「里抜けの理由？　聞いたことないけど……教えてもらったっけ？」

「いや、教えてねぇよ。けど、あの石がそれを物語ってるっつーかよ……」


首を傾げる美奈穂に、飛段は里と自分の過去を話しはじめた。
いつになく落ち着いて話す飛段は、真剣。美奈穂は、最後まで聞こうと決心した。




――……‥‥

第三次忍界大戦が終わりを迎えた時、湯隠れの里は平和主義を掲げた。もう戦いはしない。そう決め、それまで里の信仰対象だったジャシン様――つまり、ジャシン教の崇拝を止めたのである。

湯隠れに、「昔、この地に長きにわたる争いがあった。西の民族と東の民族による、内戦だった。終わることのない戦争に、ついに西の民族が神に頼ることにした。生贄を差し出し、どうか戦争が終わるようにと願った。
すると、最初の生贄を捧げた日から一ヶ月後。戦争を繰り広げていた場所の上空に、巨大な女神が現れた。そして、圧倒的な力で女神は、東の民族を全滅させたという。
西の民族は感謝をしたが、女神は言った。東の民族は私の贄となった。汝等、殺戮を。これからも私に贄を捧げれば、西の民族の安泰を約束しよう、と。
こうして、西の民族は湯の忍里を創立。任務や戦いで捕らえた敵を、女神に捧げ続けることを決めた」という伝説が残っている。

また、違う文献には「女神は自らを邪心を持つ神と言ったことから、人々はジャシン様と女神を崇めることにした」と記述してあるのだという。

――しかし、時が経つにつれ伝説も伝説となり、嘘か誠か。どちらかというと、嘘だと言う人が多くなった。
平和主義を掲げた湯隠れの里には、殺戮をモットーとするジャシン教は嫌悪な存在。

ジャシン教を、里全体できっぱりと止めたのであった。