泣き続けていた兵士
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あれは一年前のことだった。
――……‥‥
壁外調査に出た私達は度重なる巨人との遭遇に疲弊していた。
死地を潜り抜けて何とか拠点を確保でき、警戒は怠れないもののつかぬ間の休息をしている時だ。
死んだ仲間の亡骸の傍らで泣いている者や、一人座って震えながらぶつぶつ何かを呟いている者、怪我をして痛みに呻く者。
様々な兵士がいる中で、私は平地に生える一本の木の下にいた新兵が気になった。
彼女は一人の男兵士の背中をひたすら擦っていた。
同じ新兵だろうか。彼女の「大丈夫、大丈夫だから」という呟きが微かに聞こえた。
初めての壁外だったせいか、男の方は酷く泣いていた。
彼女の言葉に答えることなく、ただただ泣いていてこちらに背を向けていた。
顔は見えないが、こういうのを何度も見て来た。初めての壁外に恐怖を覚え、仲間が次々死んでいくことへの絶望と悲しみ。
現に、今も生き残った新兵が同期の亡骸を見て泣き崩れる様があちこち。
泣いてばかりもいられないのだけど、今だけは何も言わず見守っておこうと思った。
――でも、私は見てしまったのだ。
木の下にいる新兵達に視線を戻した瞬間、泣いていた男がスッと消えるのを。
「え?」
思わず口に出していた。
一瞬だった。だから見間違いかと思った。
でもさっきまでいた男新兵がそこにいない。さっきまでそこにいて、新兵の女の子が背中を擦っていたはずだ。
「っ、クソメガネ。いきなり掴むんじゃねぇ。離せ!」
何が何だか分からなくなった私は、たまたま近くを通ったリヴァイの首根っこを掴んで止めた。
「ねぇ、リヴァイ。あの木の下にもう一人いたよね?」
「ぁあ!?」
流石元ゴロツキ。凄まじい威厳を放つような睨みを利かせる。
しかし今の私はそんなこと気にしていられなかった。
「あそこ! あそこだってば!」
「クソッ、引っ張るんじゃねぇよ! 削がれてねぇのか!?」
「そんなことは良いから見てよ! あそこ! 今は一人だけど、さっきもう一人くっそ泣いてる男いたよね!?」
リヴァイは観念したのか、私の指さした方向を見た。
お願いだから。リヴァイも見たって言って!
そういう期待をした。しかしリヴァイはあっさりと
「んな奴いたら目立つだろうが。俺は見てねぇ」
と口にしたのだ。
「分かったなら離せ」
「いや、嘘だ……」
「はぁ?」
絶対あそこにはひたすら泣き続ける男がいた。調査兵の上着を羽織って、肩を震わせ泣きじゃくる男が。
「てめぇは少し休んだ方が良い。俺はこのクソみてぇな光景にうんざりしてる。それでも、生きてるこいつらのことは見ていたつもりだ。あの女はさっきからあそこに一人だ」
「いやいやいや、リヴァイこそ休んだ方が良いじゃないの? 木の下にいたよね? 私見たよ?」
そう言うと、リヴァイは舌打ちをして私の手を無理矢理払った。
「あんなでけぇ木の下に一人しゃがみ込む兵士は目につく。さっき俺が見た時は今と同じ一人だ。てめぇが見たのはその前じゃねぇのか」
「でも今さっき消えて……いや、でも消えたのは見間違いかもしれないけど」
「よく分からねぇが、出発までそう時間がねぇ。休むなら早くしろ」
そう言ってリヴァイはエルヴィンの所へ行った。
私は再びあの新兵の女の子の方を見る。
「!」
それは切なく儚い光景だった。
空を仰いでいた彼女の頬には一筋の涙。静かに泣くその光景を、これからも忘れられる気がしなかった。
――……‥‥
壁外調査に出た私達は度重なる巨人との遭遇に疲弊していた。
死地を潜り抜けて何とか拠点を確保でき、警戒は怠れないもののつかぬ間の休息をしている時だ。
死んだ仲間の亡骸の傍らで泣いている者や、一人座って震えながらぶつぶつ何かを呟いている者、怪我をして痛みに呻く者。
様々な兵士がいる中で、私は平地に生える一本の木の下にいた新兵が気になった。
彼女は一人の男兵士の背中をひたすら擦っていた。
同じ新兵だろうか。彼女の「大丈夫、大丈夫だから」という呟きが微かに聞こえた。
初めての壁外だったせいか、男の方は酷く泣いていた。
彼女の言葉に答えることなく、ただただ泣いていてこちらに背を向けていた。
顔は見えないが、こういうのを何度も見て来た。初めての壁外に恐怖を覚え、仲間が次々死んでいくことへの絶望と悲しみ。
現に、今も生き残った新兵が同期の亡骸を見て泣き崩れる様があちこち。
泣いてばかりもいられないのだけど、今だけは何も言わず見守っておこうと思った。
――でも、私は見てしまったのだ。
木の下にいる新兵達に視線を戻した瞬間、泣いていた男がスッと消えるのを。
「え?」
思わず口に出していた。
一瞬だった。だから見間違いかと思った。
でもさっきまでいた男新兵がそこにいない。さっきまでそこにいて、新兵の女の子が背中を擦っていたはずだ。
「っ、クソメガネ。いきなり掴むんじゃねぇ。離せ!」
何が何だか分からなくなった私は、たまたま近くを通ったリヴァイの首根っこを掴んで止めた。
「ねぇ、リヴァイ。あの木の下にもう一人いたよね?」
「ぁあ!?」
流石元ゴロツキ。凄まじい威厳を放つような睨みを利かせる。
しかし今の私はそんなこと気にしていられなかった。
「あそこ! あそこだってば!」
「クソッ、引っ張るんじゃねぇよ! 削がれてねぇのか!?」
「そんなことは良いから見てよ! あそこ! 今は一人だけど、さっきもう一人くっそ泣いてる男いたよね!?」
リヴァイは観念したのか、私の指さした方向を見た。
お願いだから。リヴァイも見たって言って!
そういう期待をした。しかしリヴァイはあっさりと
「んな奴いたら目立つだろうが。俺は見てねぇ」
と口にしたのだ。
「分かったなら離せ」
「いや、嘘だ……」
「はぁ?」
絶対あそこにはひたすら泣き続ける男がいた。調査兵の上着を羽織って、肩を震わせ泣きじゃくる男が。
「てめぇは少し休んだ方が良い。俺はこのクソみてぇな光景にうんざりしてる。それでも、生きてるこいつらのことは見ていたつもりだ。あの女はさっきからあそこに一人だ」
「いやいやいや、リヴァイこそ休んだ方が良いじゃないの? 木の下にいたよね? 私見たよ?」
そう言うと、リヴァイは舌打ちをして私の手を無理矢理払った。
「あんなでけぇ木の下に一人しゃがみ込む兵士は目につく。さっき俺が見た時は今と同じ一人だ。てめぇが見たのはその前じゃねぇのか」
「でも今さっき消えて……いや、でも消えたのは見間違いかもしれないけど」
「よく分からねぇが、出発までそう時間がねぇ。休むなら早くしろ」
そう言ってリヴァイはエルヴィンの所へ行った。
私は再びあの新兵の女の子の方を見る。
「!」
それは切なく儚い光景だった。
空を仰いでいた彼女の頬には一筋の涙。静かに泣くその光景を、これからも忘れられる気がしなかった。
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