四、陰の巫女 (★)
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
元治元年葉月。
新選組内である噂が広まっていた。
幽霊話である。隊士たちが夜中に仄かに光る女を廊下で見かけたとか、庭で顔を洗う死んだ隊士を見たとか、そう言った怪談話が広まっていた。
下っ端隊士から始まったその話はやがて、幹部隊士の耳にも入る。
当然、新選組に女中として入った亜久里の耳にもその情報は届いた。
「今、何て言いました?」
「だから! 今夜、検証しようって話だよ!」
洗濯ものを干す亜久里に、少し興奮気味で伝えたのは藤堂平助だった。
「私はいいです。ちょっと怖いんで……」
「いや、頼むって! 人は多い方が良いんだしさ!」
「そうですかね。むしろ少ない方が、幽霊も出ると思いますよ?」
はっきり言って亜久里は興味がなかった。
怖いと言うのは嘘で、一寸の興味もないのが正直なところであった。
しかし、藤堂は諦めない。
「いやいやいや、それは偏見だって。幽霊もさ、大勢の楽しそうな話声を聞いたら混じりたくて出て来るかもしれねぇだろ?」
何でそんなに食い下がるのかと思っていると、隣でもう一人洗濯物を干していた人物が言った。
「もしかして平助君、怖いの?」
彼――いや、彼女だ。男装こそしているが、一部の人間は女の子だと知っている。
名前は雪村千鶴。かつて新選組にいた蘭方医の雪村綱道の娘である。
綱道氏は、住んでいた家が燃えた直後から行方不明になっている。音信が途絶えた父を心配して、江戸からわざわざ京に来た千鶴は新選組に出会った。
そして、綱道氏が見つかるまで世話になることになったと亜久里は聞いていた。
「は!? そ、そんなわけねぇじゃん!」
「でも、凄くそう見えるよ?」
「ち、違うって! と、とにかく! 今夜、来てくれよ! あ、千鶴も良かったら来てくれよ」
「ええっ!? 私も!?」
言い逃げするように立ち去った藤堂の背を、呆然と見る千鶴。
亜久里は、少し息を吐き再び洗濯を干すのに戻った。
「どうしよう……」
「行かなくていいと思いますよ」
「え……うーん……亜久里さんは、行きますか?」
千鶴がじっと見て来るのを感じた亜久里は、チラッと彼女の顔を見た。
「行きたくないですけど、行かなきゃ煩そうですしね」
少し笑って見せれば、千鶴も「確かに、そうですね」と笑った。
新選組内である噂が広まっていた。
幽霊話である。隊士たちが夜中に仄かに光る女を廊下で見かけたとか、庭で顔を洗う死んだ隊士を見たとか、そう言った怪談話が広まっていた。
下っ端隊士から始まったその話はやがて、幹部隊士の耳にも入る。
当然、新選組に女中として入った亜久里の耳にもその情報は届いた。
「今、何て言いました?」
「だから! 今夜、検証しようって話だよ!」
洗濯ものを干す亜久里に、少し興奮気味で伝えたのは藤堂平助だった。
「私はいいです。ちょっと怖いんで……」
「いや、頼むって! 人は多い方が良いんだしさ!」
「そうですかね。むしろ少ない方が、幽霊も出ると思いますよ?」
はっきり言って亜久里は興味がなかった。
怖いと言うのは嘘で、一寸の興味もないのが正直なところであった。
しかし、藤堂は諦めない。
「いやいやいや、それは偏見だって。幽霊もさ、大勢の楽しそうな話声を聞いたら混じりたくて出て来るかもしれねぇだろ?」
何でそんなに食い下がるのかと思っていると、隣でもう一人洗濯物を干していた人物が言った。
「もしかして平助君、怖いの?」
彼――いや、彼女だ。男装こそしているが、一部の人間は女の子だと知っている。
名前は雪村千鶴。かつて新選組にいた蘭方医の雪村綱道の娘である。
綱道氏は、住んでいた家が燃えた直後から行方不明になっている。音信が途絶えた父を心配して、江戸からわざわざ京に来た千鶴は新選組に出会った。
そして、綱道氏が見つかるまで世話になることになったと亜久里は聞いていた。
「は!? そ、そんなわけねぇじゃん!」
「でも、凄くそう見えるよ?」
「ち、違うって! と、とにかく! 今夜、来てくれよ! あ、千鶴も良かったら来てくれよ」
「ええっ!? 私も!?」
言い逃げするように立ち去った藤堂の背を、呆然と見る千鶴。
亜久里は、少し息を吐き再び洗濯を干すのに戻った。
「どうしよう……」
「行かなくていいと思いますよ」
「え……うーん……亜久里さんは、行きますか?」
千鶴がじっと見て来るのを感じた亜久里は、チラッと彼女の顔を見た。
「行きたくないですけど、行かなきゃ煩そうですしね」
少し笑って見せれば、千鶴も「確かに、そうですね」と笑った。