第六章
名前変換
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安政四年長月某日。
暑さも落ち着きはじめ、私は過ごしやすくなった気候に心なしか解放感を抱いていた。
この時期の雲はどことなく綺麗で、空を見ながら歩いていたせいで前方不注意になっていたらしい。
町中で思いっきり人にぶつかったのだ。
「す、すみませんっ」
慌てて謝ると、その人物は振り返った。
「俺の方こそすまね――!?」
筋肉質な肉体を持つ若い男性だった。強そうな印象を受けたが、その男性は私を見て固まった。
「?」
どこかで会ったことあるだろうか?
目を見開いて見てくる男性の記憶を頭の中で探るも、思い当たる人物がいない。
もしかして私の顔に何かついているのか?
そう思って聞こうと口を開きかけた時だった。
ぽつりとその男性が呟いた。
「……惚れた」
……え?
惚れた?
何言ってんだこの人。
すると突然、その人は私の両肩を掴んできた。
「え? あの……?」
「俺は永倉新八って名前だ! 俺は今、嬢ちゃんに惚れた! 付き合ってくれ!」
「……は? え?」
肩を掴む手は力強すぎてビクともしない。
そして急すぎる展開についていけなくて、私は目を白黒させた。
「おっと、すまねぇ。いきなりで驚いたよな」
漸く解放された肩。今すぐこの場から逃げ出そうかと思った。
「いつも一目ぼれするってことはないんだけどよ、今びびっと来たわけよ」
「は、はぁ……」
適当にあしらって帰ることにした。
「あの私、急いでるんで……」
「何!? んじゃあ、送っていくぜ!」
「え!? いや、でも悪いし」
「いいんだって。俺は旅の最中で、目的もねぇしな。どうせ暇だからよ」
「いや、本当に大丈夫なんで」
最後は一方的にそう告げて逃げ帰って来た。
――しかし、この人は半ば無理矢理というか私の後を着けてきた。道中、何度も惚れたとか一緒にいたいとか言って、結局道場まで来てしまった。
「あの、もう着いたんで帰ってもらえます?」
「ここが嬢ちゃんの家かー! ん? ここ道場なのか?」
「まぁ……」
「ってか、名前教えてくれねぇか?」
ええー……どうしよう。
帰ってくれないこの人に困っていると、ポンッと肩を後ろから叩かれた。
振り返ると、そこには原田さんがいた。
「どうした?」
まさに救世主!
「えっと、この人が――」
事情を説明しようとした時、この永倉さんが声をあげた。
「男!? くそっ!!」
「はぁ?」
「おいこら、てめぇ勝負だ!」
「……おい、うい。こいつ何なんだ?」
訳が分からないという顔をする原田さん。私も訳が分からないし「さぁ……?」と首を傾げといた。
「嬢ちゃん、ういちゃんっていうのか。そこのてめぇ、ういちゃんをかけて戦え!」
「はぁ? 待てって。いきなり何なんだ?」
「俺はういちゃんに惚れた! だからてめぇを倒す!」
びしっと原田さんを指す永倉さん。
微妙な顔をする原田さんの心境は分からないが、私に視線を向けて来た。
「うい、お前最近やたらと男に好かれるな。春がきてるんじゃねぇのか?」
「えぇ!? うーん……そうなのかな……」
「おい、てめぇ無視してんじゃねぇ!」
「あー悪い。けど、意味が分からねぇな。何で俺と勝負するって話になってんだ?」
「そんなの女の子は皆より強い男に惚れるってもんだからな!」
「はぁ?」
何なんだその理屈は、と呟く原田さんは溜め息を吐いた。
しかし――
「それとも俺に負けるのが怖いってのか?」
永倉さんのその言葉によって、原田さんは表情を一変させた。
あ、駄目だ。と思った時には遅い。
「んなわけねぇだろ! 分かった。勝負してやるよ! ういをかけてってのがよく分からねぇが、売られた喧嘩は買ってやるよ」
見事挑発に乗った原田さんと永倉さんは火花を散らしていた。
暑さも落ち着きはじめ、私は過ごしやすくなった気候に心なしか解放感を抱いていた。
この時期の雲はどことなく綺麗で、空を見ながら歩いていたせいで前方不注意になっていたらしい。
町中で思いっきり人にぶつかったのだ。
「す、すみませんっ」
慌てて謝ると、その人物は振り返った。
「俺の方こそすまね――!?」
筋肉質な肉体を持つ若い男性だった。強そうな印象を受けたが、その男性は私を見て固まった。
「?」
どこかで会ったことあるだろうか?
目を見開いて見てくる男性の記憶を頭の中で探るも、思い当たる人物がいない。
もしかして私の顔に何かついているのか?
そう思って聞こうと口を開きかけた時だった。
ぽつりとその男性が呟いた。
「……惚れた」
……え?
惚れた?
何言ってんだこの人。
すると突然、その人は私の両肩を掴んできた。
「え? あの……?」
「俺は永倉新八って名前だ! 俺は今、嬢ちゃんに惚れた! 付き合ってくれ!」
「……は? え?」
肩を掴む手は力強すぎてビクともしない。
そして急すぎる展開についていけなくて、私は目を白黒させた。
「おっと、すまねぇ。いきなりで驚いたよな」
漸く解放された肩。今すぐこの場から逃げ出そうかと思った。
「いつも一目ぼれするってことはないんだけどよ、今びびっと来たわけよ」
「は、はぁ……」
適当にあしらって帰ることにした。
「あの私、急いでるんで……」
「何!? んじゃあ、送っていくぜ!」
「え!? いや、でも悪いし」
「いいんだって。俺は旅の最中で、目的もねぇしな。どうせ暇だからよ」
「いや、本当に大丈夫なんで」
最後は一方的にそう告げて逃げ帰って来た。
――しかし、この人は半ば無理矢理というか私の後を着けてきた。道中、何度も惚れたとか一緒にいたいとか言って、結局道場まで来てしまった。
「あの、もう着いたんで帰ってもらえます?」
「ここが嬢ちゃんの家かー! ん? ここ道場なのか?」
「まぁ……」
「ってか、名前教えてくれねぇか?」
ええー……どうしよう。
帰ってくれないこの人に困っていると、ポンッと肩を後ろから叩かれた。
振り返ると、そこには原田さんがいた。
「どうした?」
まさに救世主!
「えっと、この人が――」
事情を説明しようとした時、この永倉さんが声をあげた。
「男!? くそっ!!」
「はぁ?」
「おいこら、てめぇ勝負だ!」
「……おい、うい。こいつ何なんだ?」
訳が分からないという顔をする原田さん。私も訳が分からないし「さぁ……?」と首を傾げといた。
「嬢ちゃん、ういちゃんっていうのか。そこのてめぇ、ういちゃんをかけて戦え!」
「はぁ? 待てって。いきなり何なんだ?」
「俺はういちゃんに惚れた! だからてめぇを倒す!」
びしっと原田さんを指す永倉さん。
微妙な顔をする原田さんの心境は分からないが、私に視線を向けて来た。
「うい、お前最近やたらと男に好かれるな。春がきてるんじゃねぇのか?」
「えぇ!? うーん……そうなのかな……」
「おい、てめぇ無視してんじゃねぇ!」
「あー悪い。けど、意味が分からねぇな。何で俺と勝負するって話になってんだ?」
「そんなの女の子は皆より強い男に惚れるってもんだからな!」
「はぁ?」
何なんだその理屈は、と呟く原田さんは溜め息を吐いた。
しかし――
「それとも俺に負けるのが怖いってのか?」
永倉さんのその言葉によって、原田さんは表情を一変させた。
あ、駄目だ。と思った時には遅い。
「んなわけねぇだろ! 分かった。勝負してやるよ! ういをかけてってのがよく分からねぇが、売られた喧嘩は買ってやるよ」
見事挑発に乗った原田さんと永倉さんは火花を散らしていた。