第十三章
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
原田さんと勝負をして一夜明けた今日。
私は朝から緊張をしていた。というのも、今日は斎藤さんにあの時のことを謝ろうと思っているからだ。彼とはあの日以来、まともに話していないので実質顔見知り程度の仲だ。
どうやって話を切りだす場面を作り出そうか悩みつつ、私は朝餉の席に向かった。
私が広間の戸を開けると、それまでざわざわしていた空間が静かになった。
最近はそれが普通で私も気にしなかったが、今日は違う。
今までそんな空気にしていたのは私だから申し訳なく思った。
斎藤さんに謝る前にこんな修羅場が訪れるとは――。
だけど、何も思いつかなくていつもように私の席に無言で座った。
すると、救世主。
原田さんが「おはよう、うい」と優しく声をかけてくれたのだ。
「え」
私は驚いて思わず声が出た。
だけど、すぐに「おはよう」と挨拶を返した。
たじたじな返事の仕方になってしまったけれど、原田さんはちゃんと聞きとってくれたようで微笑んだ。
「っ」
昨日のことが急に思い起こされて、直視できない。俯いてしまった。
するとその反応が最近の私と違うと気付いたらしい総司が、
「ういちゃん、顔赤いけどどうかしたの? まさか熱があるんじゃない? あぁ、そうかういちゃんがお熱なのって……左――うぶっ、いっ!」
と、とんでもないことを口走ろうとした。なのですかさず、彼の口を抑え込み後ろに倒した。
後頭部を打っただろうけど知ったことではない!
「ちょ、何するのさ!? 僕のお膳が引っ繰り返ったら朝ごはんないんですけどー?」
「ちょっと揺れただけじゃん。少食の総司なら、一回くらい朝食べなくても生きていけるよ」
総司となんやかんや言い合いをしていると、
「うるせぇぞ、お前ら!」
と土方さんが怒って広間に入って来た。
近藤さんも一緒だ。
「二人ともどうかしたのか?」
「いいえ、近藤さんが気にすることじゃないですよ。総司が子供っぽいからちょっと教育をしてあげてたんです」
「む?」
「ちょっと、子供っぽいって何? 僕にしてみればういちゃんの方がよっぽど子供っぽいけどね。すぐ力に走るんだから」
「はぁ!? 総司が変なこと言わなければ私もそんなことしないけど!」
「変なことって何? 僕、そんなに変なこと言ってないけど?」
「おいおいおい、てめぇら! いい加減にしろよ。他の連中が呆れてるだろうが。俺からしたら、どっちもガキだ!」
土方さんの一言で、私たちは言葉に詰まりそこで言い争いは終わった。
「それじゃあ、皆揃ったことだしそろそろ食べようじゃないか」
近藤さんの合図で、朝餉の時間が始まった。
――……‥‥
「あの……斎藤さん」
私が意を決して彼に声をかけたのは、朝餉を終えて広間から出る時だった。
緊張したが、斎藤さんは立ち止まって振り返ってくれた。
「えっと、ちょっとお話がありまして……」
「俺に、か」
ちょっと驚いた様子を見せた斎藤さんに、私は「はい」と頷いた。
「……分かった。しかし、膳を下げてからでも良いだろうか」
「え、あ」
そういえば私もまだお膳を持ったままだったと気付く。
二つ返事をし、私たちは一緒に勝手場へ向かった。
それから、話しが出来そうな庭へ出た。
「それで、俺に話とは」
「えっと……」
どこから話そうか迷った。
言い訳みたいにならないようにしなくては。そう思って最初に私は彼の目を真っ直ぐ見て、頭を垂れた。
「ごめんなさい!」
「なっ……」
そして頭を上げた。
「あの時、斎藤さんが抱いた疑問は普通の事なのに私……過剰に怒ってしまって、不快な思いさせたと思う」
「あんたは何故、刀を握る?」
斎藤さんからあの日言われたことが蘇る。
「女なのだからそのようなことをせずとも――」
町で喧嘩していたおじさんにバカにされ、謹慎になりそれが終わった直後だったから、本当にそういうことに敏感に反応していた気がする。
「言い訳みたいになるけど、色々あってちょっとのことでイライラしちゃったの。本当にごめんなさい」
すると、斎藤さんが「いや――」と口を開いた。
「俺の方こそすまなかった。総司や平助から聞いた。知らなかったとはいえ、軽々しく聞いてしまったのは俺も至らぬ点であった」
「斎藤さんが謝る事じゃない……! 斎藤さんの疑問は普通のこと。誰でも聞くことだから、自分が悪かったって思わないで」
「しかし……」
私は庭にある松の木を見上げた。
「平助が此処に来る前までは、天然理心流の門下生ばかりで謂わば身内だけだった。皆、私を性別問わず同等に扱ってくれた。勿論、私が此処に来たばかりの時はそんなことなかったけど……最終的には、同等に扱ってくれた」
「……」
「そのせいか、昔は力を求めていた私も成長してからは女としての自覚が芽生えた。周りが男だから女だからって、あまり気にしていなかったから普通に女としての自分の思いもあったのね」
「力を求めていたのか」
「うん。此処に来る前に色々あって……」
斎藤さんは、そうかと呟いてそのことには触れなかった。
「男より強い女ってどうかなって思ってたし、男より男っぽいって思われるのもどうかなって……そう思ってた。でも、この一年の間に試衛館の外から沢山の人がやってきた。平助に、原田さんに、新八さん、斎藤さん……。外に一歩出れば女が剣を持つことを不思議に思われた」
「それも聞いた。左之が特にそういうことを言って来るのだろう?」
「そうそう。いつまで経っても、あの人は私を女だと強調してくる。昨日も言われたの。お前は女だって。更には女と剣は交えない、他人が何て言おうと俺はそうやって生きるって。拒否されちゃった。私との稽古」
ちょっと笑って言ってみたが、斎藤さんは何ともまぁ微妙な顔をしている。どういう表情なの、それ。
「今まで皆が同等に扱ってくれたから、私は忘れてた。世の中、斎藤さんみたいな疑問を持つ人の方が多いってこと。今までどんだけ狭い世界で生きていたか……一年でそれをひしひしと感じるようになって、私の中で忘れていた思いが出て来たの」
「忘れていた思い、とは」
「試衛館に来る前に色々あったって言ったよね。簡単に言うと私の父親と祖母が、女は弱いから男に逆らうなと言う人だったの。だから男に負けない強さが欲しかった。差別されたくなかった」
「……そんなことが」
「この一年で、色んなことがあった。ありすぎて、私は自分が何が嫌なのか分からなくなっていた。でも、意外と周りが分かっているものよね」
そこまで言うと斎藤さんがふと呟いた。
「女扱いされるのが嫌ではなく女だから、と言われるのが嫌」
「え?」
「ということだろうか」
何で知ってるの!?
出会って間もない、しかも話したことあまりない斎藤さんが何で?
驚いていると、その答えを彼は口にした。
私は朝から緊張をしていた。というのも、今日は斎藤さんにあの時のことを謝ろうと思っているからだ。彼とはあの日以来、まともに話していないので実質顔見知り程度の仲だ。
どうやって話を切りだす場面を作り出そうか悩みつつ、私は朝餉の席に向かった。
私が広間の戸を開けると、それまでざわざわしていた空間が静かになった。
最近はそれが普通で私も気にしなかったが、今日は違う。
今までそんな空気にしていたのは私だから申し訳なく思った。
斎藤さんに謝る前にこんな修羅場が訪れるとは――。
だけど、何も思いつかなくていつもように私の席に無言で座った。
すると、救世主。
原田さんが「おはよう、うい」と優しく声をかけてくれたのだ。
「え」
私は驚いて思わず声が出た。
だけど、すぐに「おはよう」と挨拶を返した。
たじたじな返事の仕方になってしまったけれど、原田さんはちゃんと聞きとってくれたようで微笑んだ。
「っ」
昨日のことが急に思い起こされて、直視できない。俯いてしまった。
するとその反応が最近の私と違うと気付いたらしい総司が、
「ういちゃん、顔赤いけどどうかしたの? まさか熱があるんじゃない? あぁ、そうかういちゃんがお熱なのって……左――うぶっ、いっ!」
と、とんでもないことを口走ろうとした。なのですかさず、彼の口を抑え込み後ろに倒した。
後頭部を打っただろうけど知ったことではない!
「ちょ、何するのさ!? 僕のお膳が引っ繰り返ったら朝ごはんないんですけどー?」
「ちょっと揺れただけじゃん。少食の総司なら、一回くらい朝食べなくても生きていけるよ」
総司となんやかんや言い合いをしていると、
「うるせぇぞ、お前ら!」
と土方さんが怒って広間に入って来た。
近藤さんも一緒だ。
「二人ともどうかしたのか?」
「いいえ、近藤さんが気にすることじゃないですよ。総司が子供っぽいからちょっと教育をしてあげてたんです」
「む?」
「ちょっと、子供っぽいって何? 僕にしてみればういちゃんの方がよっぽど子供っぽいけどね。すぐ力に走るんだから」
「はぁ!? 総司が変なこと言わなければ私もそんなことしないけど!」
「変なことって何? 僕、そんなに変なこと言ってないけど?」
「おいおいおい、てめぇら! いい加減にしろよ。他の連中が呆れてるだろうが。俺からしたら、どっちもガキだ!」
土方さんの一言で、私たちは言葉に詰まりそこで言い争いは終わった。
「それじゃあ、皆揃ったことだしそろそろ食べようじゃないか」
近藤さんの合図で、朝餉の時間が始まった。
――……‥‥
「あの……斎藤さん」
私が意を決して彼に声をかけたのは、朝餉を終えて広間から出る時だった。
緊張したが、斎藤さんは立ち止まって振り返ってくれた。
「えっと、ちょっとお話がありまして……」
「俺に、か」
ちょっと驚いた様子を見せた斎藤さんに、私は「はい」と頷いた。
「……分かった。しかし、膳を下げてからでも良いだろうか」
「え、あ」
そういえば私もまだお膳を持ったままだったと気付く。
二つ返事をし、私たちは一緒に勝手場へ向かった。
それから、話しが出来そうな庭へ出た。
「それで、俺に話とは」
「えっと……」
どこから話そうか迷った。
言い訳みたいにならないようにしなくては。そう思って最初に私は彼の目を真っ直ぐ見て、頭を垂れた。
「ごめんなさい!」
「なっ……」
そして頭を上げた。
「あの時、斎藤さんが抱いた疑問は普通の事なのに私……過剰に怒ってしまって、不快な思いさせたと思う」
「あんたは何故、刀を握る?」
斎藤さんからあの日言われたことが蘇る。
「女なのだからそのようなことをせずとも――」
町で喧嘩していたおじさんにバカにされ、謹慎になりそれが終わった直後だったから、本当にそういうことに敏感に反応していた気がする。
「言い訳みたいになるけど、色々あってちょっとのことでイライラしちゃったの。本当にごめんなさい」
すると、斎藤さんが「いや――」と口を開いた。
「俺の方こそすまなかった。総司や平助から聞いた。知らなかったとはいえ、軽々しく聞いてしまったのは俺も至らぬ点であった」
「斎藤さんが謝る事じゃない……! 斎藤さんの疑問は普通のこと。誰でも聞くことだから、自分が悪かったって思わないで」
「しかし……」
私は庭にある松の木を見上げた。
「平助が此処に来る前までは、天然理心流の門下生ばかりで謂わば身内だけだった。皆、私を性別問わず同等に扱ってくれた。勿論、私が此処に来たばかりの時はそんなことなかったけど……最終的には、同等に扱ってくれた」
「……」
「そのせいか、昔は力を求めていた私も成長してからは女としての自覚が芽生えた。周りが男だから女だからって、あまり気にしていなかったから普通に女としての自分の思いもあったのね」
「力を求めていたのか」
「うん。此処に来る前に色々あって……」
斎藤さんは、そうかと呟いてそのことには触れなかった。
「男より強い女ってどうかなって思ってたし、男より男っぽいって思われるのもどうかなって……そう思ってた。でも、この一年の間に試衛館の外から沢山の人がやってきた。平助に、原田さんに、新八さん、斎藤さん……。外に一歩出れば女が剣を持つことを不思議に思われた」
「それも聞いた。左之が特にそういうことを言って来るのだろう?」
「そうそう。いつまで経っても、あの人は私を女だと強調してくる。昨日も言われたの。お前は女だって。更には女と剣は交えない、他人が何て言おうと俺はそうやって生きるって。拒否されちゃった。私との稽古」
ちょっと笑って言ってみたが、斎藤さんは何ともまぁ微妙な顔をしている。どういう表情なの、それ。
「今まで皆が同等に扱ってくれたから、私は忘れてた。世の中、斎藤さんみたいな疑問を持つ人の方が多いってこと。今までどんだけ狭い世界で生きていたか……一年でそれをひしひしと感じるようになって、私の中で忘れていた思いが出て来たの」
「忘れていた思い、とは」
「試衛館に来る前に色々あったって言ったよね。簡単に言うと私の父親と祖母が、女は弱いから男に逆らうなと言う人だったの。だから男に負けない強さが欲しかった。差別されたくなかった」
「……そんなことが」
「この一年で、色んなことがあった。ありすぎて、私は自分が何が嫌なのか分からなくなっていた。でも、意外と周りが分かっているものよね」
そこまで言うと斎藤さんがふと呟いた。
「女扱いされるのが嫌ではなく女だから、と言われるのが嫌」
「え?」
「ということだろうか」
何で知ってるの!?
出会って間もない、しかも話したことあまりない斎藤さんが何で?
驚いていると、その答えを彼は口にした。