瓦版騒動
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京で研修をして帰って間もないころからそれは始まった。
加子は、度々誰かにつけられている気がしていた。用事があり、家から外に出て歩いているといつの間にか気配を感じた。宮島には多くの人が集まり、人通りも多いので最初は気のせいだと思っていた。
しかし、どこからか視線を感じる。島内の茶店で休んでいても、人気のない場所にあえて入ってみてもそれは変わらなかった。
来た道を戻って誰かいるか確認しようとしたこともあったが、それは流石に怖くて出来なかった。
しかし、特別危害があるわけではない。ただ感じるのだ人の視線を。そして外にいる時だけだった。
そのこともあって、加子は放置した。
が――
後日、加子の弟が「姉ちゃん姉ちゃん姉ちゃん!」と何度も叫びながら外から帰ってきた時だ。
あまりの慌てように加子だけでなく、近くにいた兄も何事かと近寄る。
「これ!」
と差し出してきたのは、外で売られている宮島瓦版であった。〔※瓦版……新聞〕
全国瓦版と違い、宮島のちょっとした出来事のみを記載している宮島瓦版。普段は、どこそこのおじいちゃんが迷子になったから見かけたらどこそこまでとか、どこそこの店に新商品なになにが出たから是非とか、外国からの訪問者が多く訪れたとか、そういったことが書いてある。
「これがどうかしたのか?」
兄が覗き込むが、特にいつもと変わりないものであった。
「問題はここ!」
そう言って、紙の真ん中よりちょっと下の右端を指した。
そこには小さい字だったが、加子の筆名である雪子の名が書かれていた。
兄がその紙を受け取り、読み上げ始めた。
「――宮島から誕生した女流作家、雪子の嗜好を行動から推測」
「えっ」
「作家、雪子は、島内の某旅館の娘で美と才に溢れたものである。多くの男を魅了したが、同時に男よりも才に優れているためか未だ独り身だ」
「……」
「しかし、こんな身近な人物が作家として芽を咲かせるなんて島民にとっては誇らしいことである。ここで本題に入る。そんな女流作家、雪子は普段どういった人物なのだろうか。私はそれを調べてみた」
「……なんか嫌な予感が」
「続き読むぞ。――彼の者は老舗の天麩羅屋、蓮屋で頻繁に天麩羅を購入しているようだ。いつも決まって、穴子天と芋天を。それに加え、一つ毎回違う天麩羅と、全部で三種類買っている。それを人目を気にしながらも幸せそうに食している。……お前、天麩羅食っとるんか!?」
兄の指摘に思わず、言葉に詰まる。
一人で食べるのは恥ずかしくて、自然と早く食べようとする。いつものように食べるには時間がかかるので、はしたないが一口を大きくして出来るだけ素早く終わるようにしてしまう。
それを見られていたなんて、恥ずかしいと加子は顔を覆った。
「まぁいい。太って体を壊さないように」
「はい……」
「続き読むぞ。――それほど天麩羅が好きなのだろう。蓮屋の天麩羅、私も口にしたが実に美味であった。この美味さなら確かに何度も買いたくなるのは当然だ。さて、話は変わるが雪子は実家の旅館でも健気に働く。次号はこのことについて語ろうと思う」
そこで雪子に関する記事は終わっていた。書き方から、まだ続くということは明白だった。
加子は、度々誰かにつけられている気がしていた。用事があり、家から外に出て歩いているといつの間にか気配を感じた。宮島には多くの人が集まり、人通りも多いので最初は気のせいだと思っていた。
しかし、どこからか視線を感じる。島内の茶店で休んでいても、人気のない場所にあえて入ってみてもそれは変わらなかった。
来た道を戻って誰かいるか確認しようとしたこともあったが、それは流石に怖くて出来なかった。
しかし、特別危害があるわけではない。ただ感じるのだ人の視線を。そして外にいる時だけだった。
そのこともあって、加子は放置した。
が――
後日、加子の弟が「姉ちゃん姉ちゃん姉ちゃん!」と何度も叫びながら外から帰ってきた時だ。
あまりの慌てように加子だけでなく、近くにいた兄も何事かと近寄る。
「これ!」
と差し出してきたのは、外で売られている宮島瓦版であった。〔※瓦版……新聞〕
全国瓦版と違い、宮島のちょっとした出来事のみを記載している宮島瓦版。普段は、どこそこのおじいちゃんが迷子になったから見かけたらどこそこまでとか、どこそこの店に新商品なになにが出たから是非とか、外国からの訪問者が多く訪れたとか、そういったことが書いてある。
「これがどうかしたのか?」
兄が覗き込むが、特にいつもと変わりないものであった。
「問題はここ!」
そう言って、紙の真ん中よりちょっと下の右端を指した。
そこには小さい字だったが、加子の筆名である雪子の名が書かれていた。
兄がその紙を受け取り、読み上げ始めた。
「――宮島から誕生した女流作家、雪子の嗜好を行動から推測」
「えっ」
「作家、雪子は、島内の某旅館の娘で美と才に溢れたものである。多くの男を魅了したが、同時に男よりも才に優れているためか未だ独り身だ」
「……」
「しかし、こんな身近な人物が作家として芽を咲かせるなんて島民にとっては誇らしいことである。ここで本題に入る。そんな女流作家、雪子は普段どういった人物なのだろうか。私はそれを調べてみた」
「……なんか嫌な予感が」
「続き読むぞ。――彼の者は老舗の天麩羅屋、蓮屋で頻繁に天麩羅を購入しているようだ。いつも決まって、穴子天と芋天を。それに加え、一つ毎回違う天麩羅と、全部で三種類買っている。それを人目を気にしながらも幸せそうに食している。……お前、天麩羅食っとるんか!?」
兄の指摘に思わず、言葉に詰まる。
一人で食べるのは恥ずかしくて、自然と早く食べようとする。いつものように食べるには時間がかかるので、はしたないが一口を大きくして出来るだけ素早く終わるようにしてしまう。
それを見られていたなんて、恥ずかしいと加子は顔を覆った。
「まぁいい。太って体を壊さないように」
「はい……」
「続き読むぞ。――それほど天麩羅が好きなのだろう。蓮屋の天麩羅、私も口にしたが実に美味であった。この美味さなら確かに何度も買いたくなるのは当然だ。さて、話は変わるが雪子は実家の旅館でも健気に働く。次号はこのことについて語ろうと思う」
そこで雪子に関する記事は終わっていた。書き方から、まだ続くということは明白だった。
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