十七.てふの幸せ
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「それじゃあお願いします」
新しい原稿の配達を頼み、加子は飛脚屋を出た。
暖かい陽射しを浴びながら海辺を歩く。
数年前に原田と別れた加子は現在、故郷の安芸国・宮島で暮らしていた。父に作家生活を認められ、実家の旅館を手伝いながらも充実した日々を送っている。
少なくとも、周りにはそう見えた。
「……」
繁華している通りが目に入る度に、加子の脳裏には初めて原田と出会った時のことが浮かんだ。
日々の生活は楽しくても、ふとしたことで心の奥底に虚しさを感じるのだ。
――……‥‥・
数年前。
初めて、原田と結ばれたあの日。もう帰ろうか、という時に加子は原田に抱きしめられた。
そして、原田は静かに話を始めた。
「本当は……今すぐにでもお前の親父さんやお袋さんの所に行って、加子を嫁さんにしたいって頭下げたいんだ」
「え?」
「だが、そんなこと簡単に決められるわけじゃあねぇ。お前の両親は、俺の事良く知らねぇだろ?」
原田の呟くような声はどこか哀しそうだった。
「俺には新選組がある。お前の故郷に行くことは今は出来ない。お前も京に残ることは出来ない」
「……はい」
「なら、どうあってもここで別れるしかないんだよな」
その言葉に、加子は目を伏せた。
分かっていた。お互いの現状では、簡単に会うことが出来ない。
「もう会えないんですね……」
「生きてりゃまた会える。いつ死ぬかも分からない身の俺が、言えたことじゃないけどな」
自分への苦々しさを胸に原田は微笑した。
加子は、抱きしめられる腕に力が入ったことを感じた。
「原田さん……」
そこで初めて加子も原田の背中に腕を回した。
「加子」
優しく、それでいて甘い声で名前を呼ばれ、顔を上げると、原田の唇がそっと加子の唇と重なった。
触れる所、全てから体温を意識した。離れていく想い人の存在を身に記憶させるように――。
新しい原稿の配達を頼み、加子は飛脚屋を出た。
暖かい陽射しを浴びながら海辺を歩く。
数年前に原田と別れた加子は現在、故郷の安芸国・宮島で暮らしていた。父に作家生活を認められ、実家の旅館を手伝いながらも充実した日々を送っている。
少なくとも、周りにはそう見えた。
「……」
繁華している通りが目に入る度に、加子の脳裏には初めて原田と出会った時のことが浮かんだ。
日々の生活は楽しくても、ふとしたことで心の奥底に虚しさを感じるのだ。
――……‥‥・
数年前。
初めて、原田と結ばれたあの日。もう帰ろうか、という時に加子は原田に抱きしめられた。
そして、原田は静かに話を始めた。
「本当は……今すぐにでもお前の親父さんやお袋さんの所に行って、加子を嫁さんにしたいって頭下げたいんだ」
「え?」
「だが、そんなこと簡単に決められるわけじゃあねぇ。お前の両親は、俺の事良く知らねぇだろ?」
原田の呟くような声はどこか哀しそうだった。
「俺には新選組がある。お前の故郷に行くことは今は出来ない。お前も京に残ることは出来ない」
「……はい」
「なら、どうあってもここで別れるしかないんだよな」
その言葉に、加子は目を伏せた。
分かっていた。お互いの現状では、簡単に会うことが出来ない。
「もう会えないんですね……」
「生きてりゃまた会える。いつ死ぬかも分からない身の俺が、言えたことじゃないけどな」
自分への苦々しさを胸に原田は微笑した。
加子は、抱きしめられる腕に力が入ったことを感じた。
「原田さん……」
そこで初めて加子も原田の背中に腕を回した。
「加子」
優しく、それでいて甘い声で名前を呼ばれ、顔を上げると、原田の唇がそっと加子の唇と重なった。
触れる所、全てから体温を意識した。離れていく想い人の存在を身に記憶させるように――。